第289話 騒動の幕開け
「無敵の万能要塞で快適スローライフをおくります ~フォートレス・ライフ~」ですが、本作の書籍第2巻が6月10日に発売されます!
8万文字以上の大改稿!
WEB版とは違った展開で描かれる要塞村の日常!
お楽しみに!
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セリウス城。
この日、要塞村のある領地を治める領主チェイス・ファグナスは、セリウス王家の第一王子であるバーノンを訪ねてきた。
会食を終えて、そろそろチェイスが帰宅しようとすると――何やら城の正門付近が騒がしいことに気づく。
「何事だ!」
バーノンが正門へ向かうと、そこでは初老の男を兵士たちが取り囲んでいた。男はわめき散らかしながら暴れ回っている。
その男を、バーノンとチェイスはよく知っていた。
「「アスロット!?」」
ふたりは声を揃えて驚いた。
マクウェル・アスロットといえば、セリウス王国の貴族であり、心優しい性格で知られている。そのアスロットが、まるで悪霊にでも取りつかれたかのごとく暴れ回っている。面識のあるふたりにとって、初めて見る姿であった。
しばらくすると疲れたのか大人しくなり、それを見計らってバーノンたちも近づく。
「一体何があったのだ、アスロット」
「! バ、バーノン王子!!」
アスロットはバーノンの両腕を力強く握る。
「た、助けてください、バーノン王子!」
「落ち着け。何があったか、ゆっくり話してくれ」
バーノンはアスロットを落ち着かせ、話を聞くことに。
「実は……我が娘のトーニャが……」
力なく呟くアスロット。
トーニャの存在は、もちろんバーノンとチェイスも知っている。美人と評判で、さまざまな名家から婚約の話もいくつか来ているらしく、旧知の仲であるチェイスはその件で何度も相談を受けている。
まさに自慢の娘であるトーニャ。
そんな彼女に問題が発生したらしい。
その問題とは、
「トーニャが……妊娠したのです」
「「なっ!?」」
さらに驚くふたり。貴族令嬢であるトーニャはまだ独身――にもかかわらず妊娠したとなれば、これは一大事だ。
「それはまた……相手は一体誰なんだ?」
チェイスが尋ねると、アスロットは一瞬口をつぐんだ。その行動から、チェイスはすぐさまアスロットが自分に対して何か思うところがあるのだろうと悟る。
「アスロット……俺に何か言いたいことがあるんじゃないのか?」
「ファグナス……違うんだ。君じゃない。問題は――」
そこで、アスロットは再び口を閉じる。
だが、さすがにこれ以上黙っているわけにもいかないと判断したのか、アスロットは語り始める。
「娘を妊娠させた相手は――要塞村のトア・マクレイグだというんだ」
「!?!?!?」
今日一番の驚きを見せるバーノンとチェイス。
「あのトア村長が……」
「嫁入り前の貴族令嬢を妊娠させた……?」
しばらく沈黙が流れて、
「「ないないない」」
ふたりの答えは一致した。
とりあえず、もっと詳しい話を聞かなければならないだろうと判断したバーノン王子は、アスロットを城内へと通すことに。友人のチェイスも、要塞村を発展させたトアが絡んでいるということで、城に残り、話を聞くことにした。
◇◇◇
翌日。
セリウス城で思わぬ騒ぎが起こっているとは夢にも思っていないトアは、本日も賑わう要塞村市場で午前を過ごした後、地下古代迷宮に潜って、グウィン族から聞いた聖鉱石の謎を解明しているシャウナに差し入れを持っていこうと考えていた。
「実に穏やかで平和な午後ですね」
「まったくだよ」
昼食を終えたトアは、料理を包んだバスケットを持ち、フォルと共に地下古代迷宮へ向かおうとしていた。
「しかしマスター、油断はなりませんよ? こういう時、トラブルとは起きるものです」
「……嫌なこと言うなよ」
「ははは、冗談です」
和やかなやりとりを終えて、地下迷宮へと向かおうとした時だった。
「おーい!!!!」
遠くから声がした。
それは徐々にトアたちの方へと近づいてくる。
振り返ると、視線の先にいたのは、こちらへ全力疾走しながら手を振るエノドア自警団のメンバーにして養成所時代からの古い付き合いであるエドガーの姿があった。
「エドガー……?」
「随分と慌てているようですが」
いつもと違った様子に首を傾げるトアとフォル。
すると、
「トア! おまえ! 嫁入り前の貴族令嬢を妊娠させたって本当かぁ!?」
「「…………」」
一瞬にして、その場の空気が死んだ。
「身に覚えがありません」
エドガーの大暴言により、トアはその身柄を拘束され、今も必死に無実を主張していた。
ちなみに、やったのはもちろんトアを想う四人の少女たち。
「――って、思わず縄でイスに縛りつけたけど、トアがそんなことするなんて考えられないわ」
「私もそう思う」
「わふっ! 私もです!」
「私も同感ですね」
クラーラ、エステル、マフレナ、ジャネットの四人の視線は、トアからその横へと一斉に移される。そこにはトアと同じくイスに縛りつけられたエドガーがいた。
「ちょっと待て! なんで俺まで一緒なんだ!」
「もしかしたら、エドガー様が嘘をついて何かを隠しているのではないかという疑いをかけられているのでしょう」
「さすがに俺でもそこまでは――って、フォル! なんでおまえまで縛られているんだ!?」
「ノリですかね」
半ばあきらめ気味のフォル。
その後も、女子たちの尋問は続くが、結局、エドガーが町で聞いた噂話であったことが発覚し、この場は一旦収まったのだった。
◇◇◇
同時刻。
港町パーベル。
セリウス王国でも屈指の港であり、諸外国を結ぶ起点となる町。
そこの港湾警備隊に努める、元フェルネンド王国騎士団のジャン・ゴメスは、この日、ひとりの不審な青年を捕らえた。
青年はひどく衰弱しており、うつろな目をしながら、まるで呪詛のようにある人物の名を呟き続けていた。
その人物の名は、ジャンもよく知る少年のものであった。
「トア……マクレイグ……」
男を保護し、町の診療所へと連れていったジャン。
――すべての謎は、この青年が握っていた。
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