第276話 謎の少女、そして楽しいランチタイム
「無敵の万能要塞で快適スローライフをおくります ~フォートレス・ライフ~」ですが、書籍第2巻が6月10日に発売されます!
8万文字以上の大改稿!
WEB版とは違った展開で描かれる要塞村の日常!
さらに!
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お楽しみに!
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森で倒れていた少女を村へ連れて帰ったトアたちは、まずその容態を確認するため、ケイスの診療所を訪れた。
「大丈夫よ、気を失っているだけみたい」
診察の結果、身体に異常は見られなかったようで、ひと安心するトア。今は助手のアシュリーがベッドに少女を寝かせ、様子を見ている。
ケイスは、少女に関する情報を語っていった。
「この子……グウィン族の出身みたいね」
「グウィン族?」
「遊牧民じゃ。多くの家畜を連れ、移動しながら暮らしている部族じゃな」
ローザが語る遊牧民のグウィン族。
ケイスは、褐色肌の少女がその部族の出身であると予想していた。
「でも、どうして彼女がそのグウィン族の少女だと?」
「身につけている装飾品よ。ほら、首輪や腕輪に、動物の骨で作ったアクセサリーがあるでしょ? これはグウィン族の伝統工芸品なの」
「! これ、動物の骨でできているんですか?」
ケイスの言う通り、彼女の身につけている装飾品は、見ようによっては削った骨のように映る。曰く、これが伝統工芸品らしい。
「しかも数が多い……部族の中でも、有力者の娘である可能性が高いわね」
「だとしたら、国で保護した方がよいのではないか?」
ローザはそう提案するも、ケイスは首を横へ振った。
「それは難しいわね。セリウスはグウィン族と何度かコンタクトを取ろうとしたけど、向こうは完全にその気がないってお父様が言っていたわ」
「じゃあ……この子はどうして屍の森に?」
トアの問いかけに、ケイスとローザは同時に首を捻る。と、その時、「ぐぅ~」というお腹の音が、診療所内に響き渡った。
「あっ……す、すみません」
「そういえば、トアは昼食へ向かう途中じゃったのぅ」
「なら、先に食事を済ませてきたら? ここはあたしたちに任せて」
「分かりました。では、お言葉に甘えて」
この場をケイスとローザに預けて、トアは昼食をとるため、一度村長室へ戻ることにした。
「お帰りなさい。遅かったわね」
最初に出迎えてくれたのはクラーラだった。
「ゴメン。ちょっと急用が入っちゃって」
「急用? またフォルが変なことしたの?」
「そうじゃなくて、森でモンスターに襲われていた女の子を助けて――」
「女の子?」
その単語が耳に入った瞬間、クラーラの表情が険しくなる――が、それはすぐに解かれた。
「それで、その子にケガは?」
「ケイスさんの診察によると、大丈夫そうだよ。ただ、まだ気を失っていて、今は診療所のベッドで寝ているよ。とりあえず、その子が起きたらいろいろと聞きたいことがあるんだけど、その前にお昼を食べようと思って」
「そう……大変だったわね。すぐに用意するから待っていて」
パタパタと、クラーラはキッチンへと駆けていく。
どうやら、クラーラ以外の三人は外へ出ているようで、村長室にはふたりきりという状態だった。
「今日は忙しくなりそうだから、サンドウィッチとスープにしたわ」
「いいね。お? スープはトマトベースか……俺、好きなんだよね」
「エステルからの情報よ。小さかった頃の好みだから、変わっているかもしれないって言っていたけど、その様子なら大正解みたいね」
「ああ。――って、じゃあ、そのスープはエステルが?」
「うぅん。私が作ったわ」
「クラーラが!?」
驚くトア。
以前、風邪を引いた時に作ってくれた、骨付き肉メニューのインパクトが強すぎて、今言った普通のメニューはまだ難しいのではないかと思ったが、知らない間に特訓をしていたらしく、その出来は完璧のひと言に尽きる。
「うっまい!」
「ふふっ、それならよかった」
サンドウィッチもスープも、トア好みの味付けになっていた。
「凄いな、クラーラ。こんなに料理が上手になるなんて」
「成長しているのは剣の腕だけじゃないのよ?」
「胸のサイズの成長は芳しくないようですが」
「そうそう。他の三人は順調に育っているのに、私はここへ来てから一センチも大きくなっていないのよねぇ――って、余計なお世話よ!」
強烈な裏拳が炸裂し、どこからともなく現れてセクハラ発言をかましたフォルの頭部を吹っ飛ばす。
その後、頭を回収し終えたフォルは、まず謝罪の言葉を述べた。
「いい雰囲気を台無しにした点については陳謝します」
「まったくもう!」
頬を膨らませて怒るクラーラだが、裏を返せば、フォルがそうせざるを得ないほど、急ぎの用事があるということだ。
そして、恐らく、その用事とは――
「マスター」
「……何?」
「グウィン族の少女が目覚めました」
やはりな、と思いつつ、トアはフォルとクラーラを連れて診療所へと向かった。
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