第277話 少女の願い
【お知らせ】
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8万文字以上の大改稿!
WEB版とは違った展開で描かれる要塞村の日常!
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お楽しみに!
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トアたちが診療所へ到着すると、すでに起き上がっていた少女はローザとケイスから質問を受けているようだった。
「おお、トアか。ちょうどいいところに来たな」
「村長、この子……あなたに用があるみたいよ?」
「えっ? 俺に?」
「は、はい」
少女自ら、そのことを肯定した。
当然ながら、トアとは初対面。それでも、少女はトアに用件がある――つまり、トア・マクレイグ個人というより、要塞村の村長という立場を持つ者に用があったのだろう。
「私の名前はココと言います」
「ココか。俺は要塞村の村長、トアだ」
「僕はマスターの忠実なる側近でフォルと申します。ちなみにこちらは村長第二夫人であるエルフ族のクラーラ様です」
「ちょっと、第二夫人ってどういうことよ! 言っておくけど、私たち四人の間ではお互い順位をつけない、みんなでトアと一緒にいようって決めたんだからね。勝手に順位づけして他の子を困惑させるようなマネは――」
「ほんの軽い冗談のつもりでしたが、まさかここまで食いつくなんて夢にも思っていませんでした」
とりあえず、何やらもめているフォルとクラーラはスルーしておいて、ココから詳しい事情を聞くことにした。
「それで、俺への用件というのは?」
「じ、実は……グウィン族を救っていただきたいのです」
「グウィン族を?」
救うとはまた穏やかな表現じゃない。救いを求めているということは、現状、窮地にあるということでもあるのだから。
「グウィン族に何かあったのか?」
「……ついこの前、謎の集団に私たちの居住用テントが襲撃を受けました」
悲痛をにじませる声色で、ココは自分が体験した出来事を語っていく。
――数日前。
いつも通りの朝を迎えていたグウィン族。
家畜と共に移動しながら生活する遊牧民である彼女たちは、現在、大陸の中央部西寄りに広がるアーストン高原で生活していた。平和で穏やかな日々だったが、突然、家畜が大量死してしまい、おまけに拠点としていたアーストン高原で栽培していた野菜も枯れ果てるという異常事態まで同時発生してしまった。
「アーストン高原か……」
「地平線まで広がる大草原があるところじゃな」
「はい、そうです。……今、みんなは飢えに苦しんでいて……でも、長老や他の大人たちはこれも自然の導きだと言って特に何か手立てを講じたりはしていないんです。それで、とうとう私のお母さんも倒れて……」
「じゃあ、うちを訪ねてきたのは……」
「なんとか食料を手に入れようと、私はテントを抜け出して周辺を調べていました。その時に旅の行商人が、この要塞村に凄い村長がいて、その人のところで商売をするんだって話をしていたんです。本当は彼らと行動を共にすればよかったのでしょうけど、これまで他の人間と接点がなかったので、話しかけるのが怖くて……」
「だからひとりで屍の森にいたのか」
「はい……五日かかりましたけど、なんとかたどり着けてよかったです」
事情を嗚咽交じりに語るココ。
これは想定していた以上に深刻な事態となっているようだ。
「古い掟に縛られた部族か……トアよ、どうする?」
「助けたいと思います」
即答するトア。
しかし、ココの口ぶりからすると、長老や大人たちが、一族以外の介入を良しとするとは思えない。
「……受け入れてもらえるかどうか分かりませんが、水や食料をココに預けるしかないですかね」
「神樹の聖水を使えば、体調も回復するじゃろうし、その手しかないか」
「一応、調合しておいた栄養剤も入れておくわね」
「あ、ありがとうございます!」
ココは深々と頭を下げると、一族が暮らすテントへ持ち帰る品の準備をするため、ローザと共に診療所をあとにする。ただ、要塞村からアーストン高原まではかなり距離があるため、翌日、改めて出発することになった。
その後、事情を知った市場の商人たちから、さまざまな品が提供された。
「大変だったなぁ、お嬢ちゃん」
「こいつも持っていきな」
「この薬草は効き目抜群だぜ!」
「あ、ありがとうございます!」
商人たちとココのやりとりを、トア、フォル、クラーラの三人は少し離れた位置から見守っていた。
「……でも、一族が消滅するかもしれないのに、何も策を講じないっていうのも変よね」
不意に、クラーラがそんなことを口にする。
「銀狼族や王虎族の方々は新天地を求めて大移動し、なんとか一族滅亡の危機は免れましたからねぇ。文化の違いといえばそれまでなのでしょうが……」
「……なんだかそれだけに限らない気がするんだよなぁ」
トアの言葉に、クラーラとフォルは頷いて応える。
「あの子を疑うわけじゃないけど……気を引き締めた方がよさそうね」
「でしたら、明日の遠征組は戦闘重視ということで?」
「そうなるだろうね」
もしもの事態に備えるため、トアは村長室へと戻り、アーストン高原へ向かうメンバー選びを始めるのだった。
◇◇◇
アーストン高原最東部。
ラヌカ湖周辺。
そこに、四人の若者がいた。
「先ぱ~い、あの子どこにもいないんですけど~」
「うるせぇなぁ。ユーノ、ガルド、そっちはどうだ?」
「見つかりませんでした」
「ウガァ!」
ミリア、プレストン、ユーノ、ガルド――フェルネンド聖騎隊に所属するオルドネス隊の四人は、ある人物を捜しにここまでやってきたのだ。
「こうなると、もうあそこに見える屍の森へ逃げ込んだとしか思えませんね」
「屍の森か……」
ミリアとプレストンが見つめる先にあるのは、広大な森。セリウス王国では屍の森と恐れられているという場所だ。
「まあ、あそこならセリウス兵に見つかる心配もなさそうだし、ちょっと調べに行くか」
「本気ですか? あそこにはハイランクモンスターがうようよいるって聞きましたよ?」
「ウガッ! ウガッ!」
「かといって、このまま手ぶらでは帰れんだろ? ……そもそも、俺たち聖騎隊にはもうあとがねぇんだ」
「そ、それはそうですが……」
言い淀むユーノ。左右で色の違うオッドアイが、不安げに揺らめく。
一方、プレストンの苛立ちは増していった。
「クソッ! こんなことになるなら、さっさと金だけ奪って聖騎隊から逃げればよかったぜ!」
「今さら悔やんでも遅いですよ、先輩」
「わーってるよ。ともかく、奥までは行かず、近辺を調査だ。仮に、あのココって女がこの森に入ったとしたら……生きては出て来られねぇだろうからな」
プレストンが先頭となり、屍の森へと入っていくオルドネス隊。
そんな彼らの背中からは、どこか悲壮感が漂っていた。
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