第275話 新たな出会い

【お知らせ】


「無敵の万能要塞で快適スローライフをおくります ~フォートレス・ライフ~」ですが、本作の書籍第2巻が6月10日に発売されます! 


8万文字以上の大改稿!

WEB版とは違った展開で描かれる要塞村の日常!


さらに!


第2巻発売を記念しまして、カクヨムの作品フォロワーの方々に、メルマガ形式の「要塞村通信」を配信していきます!


イラストの先行公開や、ここでしか読めない限定SSもあります!


お楽しみに!


…………………………………………………………………………………………………




 要塞村の市場がついにオープンを迎える。



 村民たちと商人たちの関係は良好で、ついには一緒に宴会を楽しむくらいまで馴染んでいたのだった。

 その要塞村の市場だが、初日から大盛況だった。

 エノドアとパーベルのみに具体的なオープンの日にちを知らせていたが、そのふたつの町以外からも客が押し寄せていた。


「大盛況ですね、マスター」

「こんなに人が集まるとは……」


 離れた位置から、市場の様子を眺めていたトアとフォル。


「この喧騒……しばらくは続きそうですね」

「みんなの生活スペースとは反対側にあるから、こちら側の日常に影響もなさそうだし……あるとするなら、出店しているメンバーかな」

「セドリック様たちが出しているエルフのカフェは年中オープンしていますが、モンスターのみなさんの服屋は川での漁が行われている春から秋にかけては小規模での運営になるそうですね。あとはパーベルから戻ってきた、テレンス様が店主を務める地下迷宮のアイテム屋さんくらいでしょうか」


 この市場では、要塞村の村民が運営する店は少ない。その大半は、ホールトン商会のナタリーか、セリウス王家のゆかりのある商人たちで構成されている。


「これが……要塞村の新しい日常となるわけだ」


 トアは、さらなる発展を遂げた要塞村の姿を目の当たりにし、感激に震えていた。




 その日の午後。

 

 市場での盛り上がりが少し収まってきたということで、トアは昼食をとるために一旦部屋へと戻ろうとした。ちなみに、フォルはアイリーンと昼食をとる約束をしているらしく、地下迷宮へ向かうため、今はひとりだった。

しばらく歩いていると、突然周囲に影が落ちる。


「ん? ――シロ?」 


 見上げると、影を作ったのは要塞村を守る守護竜シロの巨体だった。


 かつて、マフレナが森で拾ってきた卵から孵化し、母竜の死亡に伴ってこの要塞村で暮らすようになった白いドラゴンのシロ。穏やかな性格をしており、要塞村では子どもたちの遊び相手として活躍していた。


 そのシロは、トアに何か用件があるらしく、訴えかけるような眼差しを向けていた。


「どうした、シロ。何かあったのか?」

「ガウッ!」


 シロはひと吠えしてから、顔を屍の森へと向けた。


「? 森に何かあるのか?」


 トアの問いかけに頷くシロ。森の中に一体何があるというのか――真相を確かめるため、トアが森へ入ろうとすると、


「トアよ。そこで何をしておる」


 声をかけてきたのはローザだった。


「ローザさん? いや、俺はシロが森の中に何かを発見したみたいなんで、それを確認しに行こうと思って」

「……そうか。シロも何かを感じ取ったか」

「えっ? シロ『も』ってことは……」

「ワシも感じ取ったのじゃ。――異様な気配をのぅ」


 眼光鋭く森を見つめるローザ。

 

「行ってみましょう、ローザさん」

「そうするかのぅ」


 トアとローザ、そして、空を舞ってシロが、森の中に潜む気配の正体を探るために歩を進めていった。

 最初は特にこれといって異変を察知できなかったトアたちだったが、いつも漁をしているキシュト川に近づくと、周囲の様子は一変する。肉眼でその変化を確認することはできないが、研ぎ澄まされた感覚が、迫り来る異変を捉えたのだ。


「気をつけるのじゃ、トアよ!」

「はい!」

「ガウガウ!」


 警戒しながらさらに前へと進むトア、ローザ、シロ――と、「ボゴッ!」という音と共に地面が盛り上がった。


「! 下か!」


 地中から姿を現したのは――サメだった。

 グラウンド・シャークと呼ばれるモンスターが、トアへと迫る。


「はあっ!」


 ジャネットが聖鉱石を加工して作ってくれた聖剣エンディバルに神樹の魔力を注ぎ、力いっぱいそれを振り下ろす。強大な魔力を帯びた一撃を食らったグラウンド・シャークは一瞬にして塵と化した。


「……ローザさん、今のって――」

「うむ。気配の正体とは別物じゃろうな」

「ガウ!」


 本命はまだ別にいる。

 それが、ふたりと一匹の共通認識だった。


 直後、あちこちの地面が先ほど同様に大きく盛り上がった。


「どうやら、敵はまだまだおるようじゃのぅ」

「群れだったわけですね。――って、あれは!?」


 トアが視界に捉えたのはグラウンド・シャーク――ではなく、


「た、助けて!!」


こちらへ向かって走ってくる少女だった。その後ろには地中から出たグラウンド・シャークの背びれがふたつ。どうやら、二匹のサメに追われているようだ。


「すぐに行くぞ!」


 トアは駆け出し、少女の救出へと急ぐ。

 それを阻むように、地中から四匹のグラウンド・シャークが飛び出してきて、トアへと襲い掛かる。――が、


「邪魔だ!」


 神樹の魔力と聖剣を手にしたトアを止められるはずがなく、一匹目と同じように塵と化していく。そして、少女を自分の背後に隠れさせると、追ってきた二匹も同じように聖剣で倒したのだった。


「うーむ……魔力の扱い方や剣術の腕はさらに上達したな。……これは本当に、ヴィクトールを超えるかもしれん」


 トアの圧倒的な力を前に、ローザは思わずそんなことを呟く。一方、すべてのモンスターを追い払ったトアは、少女へと振り返る。


 褐色の肌に緑色の髪。

 動物の皮で作られたと思われる服は、この辺りでは見かけないデザインをしていた。服だけでなく、身につけている装飾品も、見慣れない物ばかりだ。恐らく、かなり遠くの地方からやってきた子なのだろうとトアは結論付けた。

 それはともかく、今は少女の安否が優先だ。


「もう大丈夫だよ。怪我はしていないか?」


 そう尋ねると、緊張の糸が切れたのか、少女は口をパクパクと動かしながらも声が出ておらず、しまいにはトアへもたれかかるようにして気を失ってしまった。


「お、おい!」

「怪我はないようじゃが、随分と衰弱しておるな」

「みたいですね。要塞村へ運びましょう」

「…………」

「? どうかしましたか、ローザさん」

「いや、なんだかそうしておると……浮気現場を目撃した気分になってのぅ」

「へ、変なこと言わないでくださいよ!」


 当然トアにそのような下心はないのだが、脳内で怒っているエステルたちの顔が浮かび、ゾクッと嫌な寒気が背中を伝ったのだった。

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