第274話 見守る者たち
【お知らせ】
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8万文字以上の大改稿!
WEB版とは違った展開で描かれる要塞村の日常!
さらに!
第2巻発売を記念しまして、カクヨムの作品フォロワーの方々に、メルマガ形式の「要塞村通信」を配信していきます!
イラストの先行公開や、ここでしか読めない限定SSもあります!
お楽しみに!
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要塞村市場に出店するため、多くの商人たちが要塞村を訪れるようになった。
彼らがいるのは要塞村にもともと住んでいた村民たちの住居スペースの反対側にあたる位置で、一部の部屋を改装し、彼らが寝泊れる宿屋も用意されていた。
さらに、要塞村のメンバーであるエルフ組のカフェと、モンスター組の服屋も、同じく店を出す商人たちと共にオープンに向けて準備を進めつつあった。
そんな光景を、瞳を輝かせながら見つめる者たちがいた。
「すっげぇ!」
「いろんなお店が出てる!」
「楽しみだなぁ」
シスター・メリンカと共に、フェルネンド王国から移り住んできた子どもたちと、要塞村に住む銀狼族や王虎族の子どもたちだった。
「みんな、商人さんたちの仕事の邪魔にならないようにね」
「「「「「はーい!」」」」」
今日は『働く人々』と題し、社会見学の一環として子どもたちを連れてきたのだ。
忙しなく動き回る大人たち。その姿に、子どもたちは尊敬の眼差しを向けていた――が、不意に、目まぐるしかった人々の動きが、一瞬にしてピタリと停止してしまった。
一体何があったのか、と不安になる子どもたちとシスター・メリンカ。
その原因は、村に近づくふたつの種族がもたらしたものであった。
「あ、あれは……」
商人のひとりが、ゴクリと唾を飲み、ある種族と人物の名を口にする。
「鋼の山に住むドワーフの親方……八極のひとり――《鉄腕のガドゲル》だ!」
多くの弟子を引き連れて、鉄腕のガドゲルが姿を現す。
さらに、
「と、隣にいるのはエルフ族か!?」
ガドゲルの横へ並ぶようにして歩いてくるのは、多くの武装したエルフを従えるオーレムの森の長――アルディだった。
「うぅ……」
「な、なんて迫力だ……まさに歴戦の勇士!」
「滅多に人前へ姿を見せないふたつの伝説的種族の長が揃い踏みとは……」
「きっと、村長に会いに来たんだろう」
「少年とはいえ、あのふたりにわざわざ足を運ばせるなんて……やはりトア村長はただ者ではない!」
騒然となる商人たち。
実際のところ、ガドゲルとアルディは愛娘に会うため、ちょくちょく要塞村へ来ているし、厳しい顔つきをしているが、娘には激甘である。しかし、新たに要塞村で商売を始める彼らにとっては初遭遇となるため、ピリピリとした緊張感に包まれた。
その時。
「「!」」
周囲をキョロキョロと見回していたガドゲルとアルディ。そのふたりがまったく同じ方向を向いて、動きを止める。視線の先にいたのは――シスター・メリンカだった。
「えっ? えっ?」
伝説的存在となっているふたりが、多くの仲間を引き連れて、自分の方へ歩いてくる。まったく心当たりがないがシスター・メリンカは狼狽。
その時、ポン、と何者かに肩を叩かれた。
「これで……全員揃ったな」
銀狼族の長――ジンだった。
◇◇◇
訳も分からぬまま、シスター・メリンカは円卓の間へと通された。
「あの、ジンさん」
「どうかしたか、シスター」
「いえ、どうかしたというか……まったく何も分からないままここへ連れてこられたのですけど……」
子どもたちには「火急の用件だ」と告げ、偶然通りかかったエステルとクラーラに任せてきてしまった。ただ、そうまでしてジンがここに自分を招いた理由を知りたいという気持ちもあったので、その疑問をぶつけたのだ。
「それについてだが……気づかぬか?」
「な、何がです?」
「ここに集いし者たちの共通点だ」
「共通点? ――あっ」
シスター・メリンカは気づいてしまった。
ジン――マフレナ。
アルディ――クラーラ。
ガドゲル――ジャネット。
全員、トアとの共同生活を開始した、嫁候補の父親なのだ。
それに気づいた時、シスター・メリンカは自分が呼ばれた理由を察する。
「……なるほど。私はエステルの母親代理というわけですね」
「それもあるが、幼い頃からトア村長を見てきた、《夫側の母親》としての意見もあなたに伺いたいのだ」
アルディが真剣な眼差しで告げ、ガドゲルがそれに頷く。
「わ、分かりました。どこまでお力添えできるか……自信はありませんが、精一杯頑張らせていただきます」
「ふっ、頼もしい援軍だ」
こうして、シスター・メリンカが正式に加わり、保護者会はスタートした。
「えぇー、それでは、【トア村長とその嫁たち(仮)を見守る会】の定例議会を開始したいと思う」
ジンが司会となって、会を進行していく。
「諸君らも知っての通り、我らがトア村長と愛する娘たちは先日より共同生活を始めた」
「そのようだな」
「君から手紙をもらった時は我が目を疑ったよ」
ガドゲルとアルディは、ジンからの手紙で事情を把握していた。ちなみに、手紙はローザの使い魔である巨鳥ラルゲが届けた。
「あれから数日……実は我が天使のマフレナにそれとなくトア村長との関係の変化について尋ねたのだが――衝撃の事実が発覚した」
「ジンよ! 勿体ぶっていないで教えてくれ!」
「そうだ! クラーラとの進展はあったのか!?」
前傾姿勢でジンへと詰め寄る英雄と伝説的種族の長。
「まあ、そう慌てるな。きちんと説明する。……大きな進展があったのだ。マフレナが恥じらいながらも教えてくれたよ」
「「おお!」」
大興奮の二名に対し、シスター・メリンカは嫌な予感がしていた。それは、要塞村に住む誰よりも長くトア・マクレイグという少年を見続けてきた彼女だから察知できる予感だった。
「トア村長と――手をつないだと!! しかも!! トア村長の方から手を差し伸べたのだ!! マフレナだけでなく、他の三人も同じように手をつないだという!」
力強く言い放つジン。
だが、「やっぱりなぁ」と冷めた反応のシスター・メリンカ。
トアの性格上、女子へ積極的にアピールできるとは思えないので想定の範囲内である答えだった。
しかし、
「うおおおおお!!!!」
親父ふたり組のテンションは最高潮に達していた。ハイタッチまで交わす始末。
「これは大いなる進歩である! 我々が『じいじ』と呼ばれる日も近いぞ!!!!」
「おおおおおおお!!!!!!!!」
「…………」
親父組が盛り上がれば盛り上がるほど、シスター・メリンカは冷めていき――
「どう思う! シスター!」
ジンのそのひと言で、ついに我慢は限界を超えた。
ダン、と机を力強く叩くと、
「生温い」
シスター・メリンカは浮かれる親父たちを一喝した。
「みなさんには失望しました」
「「「えっ!?」」」
豹変したシスター・メリンカに動揺を隠せない親父たち。
「みなさんはトアの鈍さを甘く見ています。長らくエステルと一緒にいたのに、気持ちを伝えるどころか、勘違いして王都を出て、紆余曲折を経てまた一緒になったというのに……未だに手をつないだくらいで大騒ぎしてどうするんですか!」
「し、しかし、シスター、トア村長は――」
「静かに!」
「はいっ!」
銀狼族の長をひと言で黙らせるシスター・メリンカ。
「断言しましょう。今の調子でいったら、千年経ってもあなたたちは『じいじ』になどなれません!」
「「「な、なんだってー!!」」」
稲妻に打たれたような衝撃を受ける親父たち。
結局、この日から【トア村長とその嫁たち(仮)を見守る会】のリーダーはジンからシスター・メリンカへと代わり、鈍すぎるトアと四人の少女たちの関係を進展させるため、陰ながらアシストしていくことを誓ったのだった。
――数日後。
「なぁ、フォル……なんだか最近、シスター・メリンカの俺を見る目が厳しい気がするんだけど……」
「気のせいでは?」
その影響は、静かにトアへと迫りつつあった。
――さらに別の場所。
「おお、ガドゲルではないか。また来たのか」
「トア村長と一緒の部屋で暮らし始めたジャネットが心配なのは分かるが、あまり頻繁に顔を出すとまた怒られるぞ?」
「ローザ……シャウナ……俺は……どうしても『じいじ』になりたいんだ……」
「「はあ?」」
ここでも、シスター・メリンカは強い影響力を見せていたのだった。
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