第273話 始まる共同生活

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WEB版とは違った展開で描かれる要塞村の日常!


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お楽しみに!


…………………………………………………………………………………………………




 要塞裏村長室。



 村長であるトアの新たな私室であり、エステル、クラーラ、マフレナ、ジャネットたちとの共同生活スペースでもある。


「共同生活、か……」


 村長室の一角にある部屋。

 クラーラの私室として与えられたその部屋は、これまで暮らしていた部屋よりも広く、収納スペースもたくさんあった。

 これには理由がある。


「さあ、ハンナ。新しい部屋よ」

「あーい!」


 魔界にいるという魔虫族の赤ちゃんで、クラーラが母親代わりを務めるハンナの存在であった。

 ドワーフ族たちへ依頼していたベビーベッドにハンナを寝かすと、「キャッキャッ」と嬉しそうにベッドを転がり回った。


「ふふ、やけに今日は元気ね」

「クラーラが嬉しそうにしているのが分かるのよ、きっと」


 背後から声をかけられ、思わず「ひゃっ!?」と変な声が出たクラーラ。その声の主は、同じくこの村長室で暮らす少女だった。


「エ、エステルか……」

「もう、驚きすぎよ」


 クスクスと笑うエステル。

 その横には、彼女が母親代わりを務めている大地の精霊女王アネスの姿もあった。


「わあ~、広いね、ママ」

「そうね。これだけ広ければ、生活空間が窮屈になることはなさそうね」


 部屋を見て回るエステルとアネス。すでにこれから始まるトアとの共同生活に対して余裕を見せている。


「うぅ……私はまだ緊張しているっていうのに……」

「どうかしましたか、クラーラさん」

「わふぅ……顔色がよくないですよ?」


 またも声をかけられて飛び上がるほど驚くクラーラ。


「そ、そんなに驚かなくても」

「ごめん……なんだかいろいろと余裕がなくて」

「わふ? 大丈夫ですか?」


 同じくこの部屋で暮らすことになっているジャネットとマフレナだった。ふたりとも、自分の部屋に持ち込む私物の入った箱を持っていた。

 マフレナは替えの服くらいで、量は多くないが、逆にジャネットは大量の箱を抱えていた。人間でいうと十五、六歳ほどだが、そこはドワーフ族という種族だけあり、重量のある箱を四つも抱えながら、平然としていた。


「みんな……落ち着きすぎじゃない?」


 クラーラにはそれが疑問だった。

 エステルはアネスと手遊びをし、ジャネットはハンナを抱き上げてあやし、それを眺めるマフレナが、「シロちゃんもここで一緒に住めればよかったのに」と残念がっている。

 いたっていつも通りの三人。


「ね、ねぇ……みんなは緊張とかしないの?」

「「「?」」」


 クラーラからの質問に、三人は揃って首を傾げた。

 そして、まずエステルが口を開く。


「私はどちらかというと楽しみの方が強いけどな」

「わふっ! 私もです!」

「私も同じ感じですね」

「あっ……」

 

 トアとの生活が楽しみ――そう語る三人の明るい表情を見て、クラーラはハッとなる。そうだ。自分だって、トアから一緒に暮らそうと誘われた時、心から嬉しいと思えた。今さら変に気を張る相手じゃない。一からこの村の発展を見届けてきた。

 そんなふうに思考を変化させると、これまでうじうじ悩んでいたのがなんだかバカらしく思えてきた。


「ああー、もう! 緊張してたのは私だけってこと!?」

「むしろ、クラーラさんでも緊張するのかと」

「どういう意味よ!」

「わふっ、私たちの中では二番目にトア様と付き合いが長いですし、もう慣れっこだとばかり思ってました!」

「ぐっ……ていうか、幼馴染のエステル以外はそんなに付き合いのある期間変わらないんじゃない?」


 そんな、なんでもない会話をしているうちに、私物の搬入は終了。あとは、持ってきた私物を部屋に飾りつけたりして、午後の時間を穏やかに過ごした。


 やがて、徐々に空が赤みを増してきた頃、エステルたちは夕食の準備に取り掛かることにした。この部屋で迎える、初めての夕食の準備だ。


「さあ、じきにトアも帰ってくるでしょうから、気合を入れて作りましょ!」

「「「おー!!」」」


 フォルを師匠にして、密かに料理修行に励んでいた四人。

 その成果を発揮すべく、夕食作りを始めた。



  ◇◇◇



「ふぅ……これで大体の目途は立ったな」


 フォルやジンを中心に、新しく用意してくれた村長室へと戻る道中、トアは今日の仕事を振り返っていた。


 本日はナタリーとケイス立ち合いのもと、要塞村市場に出店を希望する商人たちと面談を行った。全員、ホールトン商会とセリウス王家から推薦された者たちなので、身元などはハッキリしており、人間的にも信頼をおけそうな好人物ばかりだった。


 商業関係では素人のトアでも、商会幹部のナタリーや王家にいた頃は経済関連の公務もこなしていた実績があるケイスが参加してくれたことで、アドバイスを受けながら順調にこなしていくことができた。


 結果、本日この要塞村を訪問した十二人の商人たちには、要塞村市場での出店を村長が正式に認めるという形で落ち着いたのだった。


 仕事を終えて帰路に就くトア。

 やがてたどり着いた村長室の扉を開ける。


「ただいま」

「「「「おかえりなさい」」」」

 

 トアが部屋へ入ると、エステル、クラーラ、マフレナ、ジャネットの四人が笑顔で出迎えてくれた。全員、色違いのエプロンを身につけているところを見るに、夕食の準備中だったのだろう。


「さあ、ご飯できているから、みんなで食べましょう」

「ああ、そうだな」


 エステルに腕を引っ張られ、トアは食卓へ。

 そこに並べられた料理の数々に、思わず目を丸くする。


「す、凄いね」

「わふっ! 頑張りました!」

「おいしくできると、料理も楽しいですよね」

「私はまだ材料を切るって段階だけど……これからしっかりマスターしていくから!」


 それぞれ役割を分担し、協力してご飯を作ったらしい。


「パパ! 私も手伝ったんだよ!」

「あ~い」


 ハンナを抱っこしたアネスが元気に言う。その頭を優しく撫でながら、トアはエステルたちに向き直った。


「みんな、ありがとう」


 トアに笑顔でお礼を言われた四人は、顔を赤くしながら照れ笑いを浮かべた。

 こうして、共同生活初日の夕食は賑やかなスタートを切ったのだった。

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