第266話 その頃、女子たちは……

 トアがゼイル王に謁見している頃――ナタリーをリーダーとする女子組は、ドレス選びのため、城内のとある一室に集まっていた。


 その目的は舞踏会へ向けた準備。

 やはり、女性の場合はいろいろと時間がかかるというナタリーのアドバイスを受け、エステル、クラーラ、マフレナ、ジャネットの四人が集まっていた。


 ちなみに、このドレスはすべて要塞村に住むモンスターたちが手掛けている。以前、服飾関係の仕事で実績をあげたことがある彼らは、「こんなこともあろうかと」と言わんばかりに今回のドレスを用意してきた。どうやら、前々から、ドレス作りに興味を持ち、いろいろと研究&試作を行っていたらしい。


「さて、と……メルビンたちが用意したドレスは……ああ、これね」


 要塞村から持ってきたドレス――その出来栄えは「素晴らしい」の一言に尽きる。


 正直なところ、ナタリーはモンスター組のドレスについて、あまり高い期待は持っていなかった。ナタリーはモンスター組が服飾関係に強いことを知ってはいたが、実物は見たことがなかったのである。

 

 モンスター組が完成したドレスを持ってきた時、ナタリーは雷属性の魔法を食らったような衝撃を受けた。

 正直、そこらの仕立屋に頼んでも、これだけ完成度の高いドレスを手に入れるのは難しいだろう。モンスターが作ったとは到底思えなかったが、ナタリーはその制作工程を目の当たりにしているので、疑う余地はなかった。

 ナタリーは、彼らの腕前を見て、要塞村市場が完成したあかつきには、彼らの店をオープンさせるべきだろうなぁ、と密かに思っている。


 そのドレスを、エステルたちは順番に着ていくわけだが、その前にやるべきことがある。


「ドレスの前に、まずは――お風呂ね」

「「「「お風呂?」」」」


 ナタリーからの指示を受け、お城のお風呂を貸してもらうことに。

 要塞村のお風呂も広いが、やはり城の風呂となるとそのスケールが桁違いだった。


「要塞村のお風呂とはだいぶ違う――というか、広すぎるわね」


 クラーラが呆れたように言う。


「ちょっと落ち着きませんね」

「わふわふっ」


 ジャネットもマフレナも、初めてのお城のお風呂に戸惑いを隠せない様子だった。

 一方、エステルだけは動揺も見せず、落ち着いている。というのも、養成所時代、夏の長期休暇で、大臣令嬢であり、聖騎隊の同期であるネリスの実家に何度か泊りにいった経験があった。さすがに城のお風呂ほどではないが、あそこもかなり大きなお風呂だったので、それほど衝撃を受けなかったのだ。


 風呂から上がると、今度はメイクの時間になる。


「メイクなんてしたことないわよ!」

「わ、私も!」

「わふぅ……私もです」


 ここでも、未経験であるクラーラ、ジャネット、マフレナは大きく動揺。

 一方、聖騎隊時代に式典へ何度も参加したことがあるエステルは、メイクの経験があるのでここでも落ち着いていた。


「大丈夫よ、みんな。メイクは専門の人がやってくれるから」

「そ、そうなの? ……て、お風呂の時も思ったけど、エステルは随分と落ち着いているわね」

「そ、そうかしら?」

「慣れている感じがありますが……」

「わふっ! 頼もしいです!」

「そ、そんなことないわよ」


 今でこそ普通に接しているが、要塞村に来るまでは人間社会との接点がほぼ皆無だった亜人の三人にとって、こういった状況に慣れているエステルは頼もしく映った。


 その後、舞踏会はメイクもそうだが、髪型も整えていくことに。

 問題はどんな髪型にするか――という点に女子たちの関心は集まった。


「そういえば、前にも髪型を変えた時があったわよね」

「ありましたねぇ」

「わふっ! あの時は楽しかったです!」


 髪型変更ブームが流行った時の話をするエステルとジャネットとマフレナ。しかし、ただひとり、クラーラだけは浮かない顔だった。


「あれは……ねぇ?」


 遠い目をするクラーラ。

 あの時、クラーラはフォルの勧める帝国流行ヘアーにチェンジしたのだが、それがあまりにもぶっ飛んでいて、酷い目に遭っていたのだ。

 それを思い出した三人は「あっ」と声を揃えて察し、以降、その話はスルーとなった。


 しばらくすると、城内にいる家臣たちへの挨拶回りを終えたナタリーが合流し、彼女のアドバイスをもらうことにした。


「そうねぇ……クラーラはポニーテールをほどいてロングに。マフレナはアップにしてみましょうか。それから、エステルとジャネットは――」


 的確に指示を飛ばしていくナタリー。それに応じて、女子たちの髪をセットしていく、城のメイドたち。

 しばらくすると、


「うん! いいじゃない! 四人ともとっても可愛いわよ! あとはドレスを着るだけね!」


 満足げに額の汗を拭うナタリー。

 一方、女子四人はメイクを終えたお互いの顔を見て驚き合っていた。いつも顔を合わせているはずなのに、なんだか別人のように感じてしまう。


「な、なんだか、新鮮ね」

「そ、そうね」

「わ、わふぅ……」

「ま、まだ本番じゃないのに、なんだか緊張してきました」


 初めてのメイクに、どちらかという戸惑いの色が強い四人。そこへ、メイドたちがドレスを持ってメイク室へと入ってきた。


「さて、メインディッシュが来たわね」


 早速ドレスをチェックしていくナタリー。

 だが、何か思いついたようで、ニヤッと微笑んでからエステルたちの方へと向き直る。


「なんだかこうしていると、結婚式っぽくもあるわね」

「「「「えっ!?」」」」

「四人の花嫁かぁ……ふふ、こんなに可愛い子たちを全員お嫁さんにできちゃう幸運な旦那さんは、一体どこの誰かしらねぇ」


 それとなく、四人の相手が同一人物っぽく話すナタリー。

 もちろん、その旦那さんとはトアを想定している――そして、それはエステルたちも同じだった。そのため、四人はメイクをしていてもハッキリ分かるくらい、顔が紅潮していく。


「ふーん……満更でもなさそうね」


 四人のリアクションを見て、ナタリーはそう呟く。

 そして、パンパンと手を叩き、ボーッとしている女子たちの意識を元に戻した。


「さあ、このドレスを着たらいよいよ会場入りよ。ケイス王子の話だと、すでにトアは着替え終わっているようだから、ちょっと急ぐわね」


 ナタリーからの指示を受け、四人はいよいよドレス着用へ。


 


 そして――セリウス王国舞踏会の幕が上がる。

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