第259話 兄への報告
「要塞村のみなさま! 初めまして! セリウス王国第三王子のジェフリーです!!」
大きな声で村民たちへ挨拶をするジェフリー王子。
最初こそ、まさかの王族登場にざわついていたが、よくよく考えたらケイスも王子だし、そもそも、ジェフリーはケイスの弟なので、村民たちが彼を受け入れるのにそれほど時間はかからなかった。
「噂には聞いていましたが、本当に凄い村ですね、ここは……」
とりあえず、応接室へ通し、ケイスと共に話を聞こうとしたのだが、その道中でジェフリーは要塞村の様子に興味津々といった感じで辺りを見回していた。
「銀狼族、王虎族、大地の精霊、モンスター、ドワーフ……あらゆる種族が協力し合って村を作っている……」
村民たちの生活を眺めるジェフリーの瞳は輝いていた。
「うふふ、あっちにはエルフの子もいるわよ?」
「エルフ!? あの森の賢者とうたわれる知的な種族の――」
「チェェェェストォォォォォッ!!!!」
ジェフリーの言葉を遮るように轟く雄叫びと轟音。それは、
「わっふぅ♪ さすがはクラーラちゃん!」
「お見事ですね、クラーラ様。これで昼食に使おうと思っていたピザ窯用の薪は調達できました」
クラーラが薪を調達するため、近くにあった木を自慢の大剣で切り倒した際に発生したものであった。
「……知的……」
「ジェ、ジェフリー王子、あの子はエルフの中でも特別なんですよ!」
エルフ族に対しての風評被害が広がりそうなので、しっかり誤解を解いておかなくてはと思ったトアだった。
その後、応接室へたどり着くと、早速ジェフリー王子から来訪の理由を聞くことにした。
「それで、ジェフリー王子、今日の来訪についてですが――」
「今は王子なんてつけなくてもいいよ。さっき聞いた話では、君と僕は年齢が同じだし、普通に呼び捨てで構わないよ。あと、敬語も今は控えてくれると嬉しいかな」
「い、いや、しかしそんな――」
トアは助言を求めて、ケイスへ視線を移す。
「いいんじゃない? どうせここにはあたしたち以外いないんだし、ジェフリーがそれを望んでいるのであれば、他の村民と接するようにしてあげれば」
「わ、分かりました……」
「…………」
仕切り直そうとしたトアだが、ジェフリーがボーっと一点を見つめていることに気づいた。
「? ジェフリー王子?」
「っ! す、すまない! 女性口調になっている兄さんに慣れていなくて……」
トアたち要塞村の住人からすれば、むしろ女性口調じゃない時のケイスの方が余程レアなのだが、実弟のジェフリーにとってはそちらの方が違和感があるらしい。
「まあ、そのうち慣れるわよ」
「そ、そうでしょうか……」
少し気落ちした様子のジェフリー。
その理由について、本人の口から語られた。
「……僕はずっと、ケイス兄さんのような人になりたいと思っていました。強くて優しくて賢い――まさに僕の目指す王族の姿です!」
「あたしよりバーノン兄さんの方が適しているんじゃない?」
バーノンというのは、王子である三兄弟の長兄。
現在は遠征中のため不在だというが、王位継承権第一位で、次期国王にもっとも近いとされている人物だ。
「もちろん、バーノン兄さんもとても優秀ですし、尊敬しています。――しかし、兄さんたちはそれぞれタイプが違うじゃないですか」
「タイプが違う? どういうふうに?」
許可が下りたので、同年代の子と接するように、トアはタメ口で尋ねる。
「バーノン兄さんは無口で不愛想なんだ。あ、でも、いつも民や自分の世話をしてくる使用人にも気を配れる器の大きな人なんだよ。あまり感情を表に出さないから、誤解をされやすいってだけで」
「なるほどね」
その説明で、タイプが違うという先ほどの発言の意味が理解できた。
「確かに、ケイスさんはいろいろと口に出るタイプだよね。社交的って言えばいいのかな」
「そうなんだ。だから、ケイス兄さんは昔から友だちが多いタイプなんだ」
まるで普通の友人同士のように語り合うトアとジェフリー。
「ふふ、すっかりセリウス王国の王子様と打ち解けたわね、トア村長」
「あっ」
王族に対してフランクに接するのはケイスで慣れているといえば慣れているが、すこしやりすぎたかもしれないと強張るトア。
だが、ジェフリーはむしろ今のような関係を望んでいるようで、「これからもさっきのような調子で頼むよ」とお願いされた。
もしかしたら、セリウス王家の人間は、あまり立場へこだわりがないのかもしれない。
「そういうことならば」と、トアは改めてジェフリーへと問いかけた。
「ジェフリー、今日はどうして要塞村に?」
「目的はふたつあります。ひとつはどうしても、ケイス兄さんに僕の口から直接伝えたかったある報告をするためです」
「「報告?」」
トアとケイスは互いの顔を見合わせる。
見当もつかないといった様子のふたりを見たジェフリーは、「コホン」と咳払いをしてからその報告の内容を告げた。
「実は……結婚するんです」
「「結婚!?」」
それはまさかの報告だった――が、驚くのはそれだけではない。
「あ、相手は一体誰なのよ!?」
「ヒノモト王国のツルヒメ様です」
「ええっ!?」
つい先日、サクラの花見で一緒にいたツルヒメと、ケイスの弟であるジェフリー王子の結婚――どうしても付きまとってしまうのは、
「ジェ、ジェフリー、その結婚は……あなたの意思なの?」
政略結婚ではないかと心配する兄ケイス。
しかし、弟ジェフリーは笑顔でそれを否定した。
「兄さん、俺は真剣なんだ。本気でツルヒメ様に惚れたんだ!」
力強く言い放つジェフリー。
どうやら、ケイスの心配は杞憂だったようだ。
「あ、えっと、報告っていうのはつまり……結婚するっていうことだったのか」
「でも、あなた報告はふたつあるって言ったわよね?」
「はい!」
そうだった。
先ほどのジェフリーの話では、彼はあともうひとつ、兄であるケイスに報告することがあるはず。
「あぁ……そのことなんですが、どちらかというと報告というよりお願いなんですよ……」
少し言いづらそうにしているジェフリー。
「お願い? ……いいわよ。あたしにできることなら、なんでも言って頂戴」
「で、では――」
兄からの言葉を受けて、ジェフリーはお願い事を口にした。
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