第246話 男3人ぶらり町巡り

 港町パーベル中心にある時計台前。


「待たせたな、トア」

「ううん。俺も今来たところだよ、クレイブ」


 トアとクレイブはテレンスが経営する地下迷宮アイテムを売る店の視察をするため、このパーベルで待ち合わせていた。


「では行こうか」

「うん」

「ちょっと待てぇい!」


 歩きだそうとするふたりを叫び止めたのはエドガーだった。


「どうした、エドガー。いつにも増して、やかまいしぞ」

「どうしたもこうしたもあるか! ……なんでアイテム屋の視察におまえがついていってんだよ」

「前々からダンジョンのアイテム屋というものには興味があったのでな」

「本当かぁ~?」


 疑いの眼差しを向けられたクレイブは、心外だと言わんばかりに抗議をする。


「大体、どうしておまえまで来るんだ? パーベルの店へは俺とトアのふたりきりで訪れるという予定だったのに」

「いちいち誤解を生むような言い方をするんじゃねぇよ。俺は、アレだ……おまえらの護衛だよ。要塞村の村民から依頼を受けてな」

「護衛だと? 俺とトアがいれば、大概の事態は解決できる」

「うん。ねぇ、エドガー、それは誰からの依頼?」


 トアからの質問に、エドガーは首を横に振って「答えられない」というジェスチャーを出した。


「そいつはいくら村長のトアでも教えられねぇな。俺には守秘義務がある」

「守秘義務などあってないようなものだろう。依頼人を吐いたらどうだ?」

「自警団のメンバーとは思えねぇ発言すんな!」


 ギャーギャーと騒ぎ立てたが、結局、パーベルの店へはエドガーも同行する運びとなった。

 エドガーが強引にトアとクレイブに同行しようとした理由――それは、数日前のある出来事がきっかけだった。



  ◇◇◇



 ――数日前。

 要塞村にて。


 この日、エドガーは村で使う魔鉱石を届けるため、ドワーフたちの工房にいた。それが終わると、村の奥様方からのご厚意を受け、昼食をご馳走になり、食べ終わったらエノドアへと戻る予定だった。


「さて、そろそろ行くかな」


 食器を片付け、装備を点検し、エノドアへと戻ろうとした時――エドガーに声をかける者がいた。


「ねぇ、エドガー……」


 クラーラだった。

 心なしか、テンションがいつもより低い。


「あん? どうした、クラーラ」

「あなたは聞いてる? ――トアとクレイブのこと?」

「? あのふたりがどうかしたのか?」

「……パーベルに行くんだって」

「ふむ」

「ふたりっきりで」

「うん。……うん?」

「待ち合わせて」

「お、おい、クラーラ?」

「エドガーくんは知っていたの?」

「!? エステル!?」


 いつの間にか、背後にエステルが立っていた。

 その表情はクラーラと同じようにどこか影があって、うつろな感じだ。


「あのふたりが揃って出かける……何も起きないはずがなく……」

「何も起きねぇよ! エステルは知ってんだろ! 養成所にいた頃から、あいつらはよく一緒に出かけていたけど何もなかったろ!」

「つまり初犯ではないということですね?」

「ジャネット!?!?」

「わふっ」

「マフレナ!?!?!?!?」


 気がつくと、エドガーは四人に取り囲まれる形となっていた。


「だあーっ!! わーったよ! 当日は俺も行って様子を探ってくる! これで文句はないだろ!」

「「「「もちろん♪」」」」

 

 最初からそれが狙いだったらしく、女子四人組は「頼んだわよ」と念を押してそれぞれの仕事に散っていった。取り残されたエドガーはしばらく放心状態だったが、


「ご苦労様です、エドガー様」


 フォルがやってきて、お詫びとばかりに特製のフルーツジュースを振る舞ってくれた。

 それを一気に飲み干すと、エドガーはひとつ大きく息を吐いて話し始める。


「ま、たまには男子三人で遊びに行くのも悪くねぇわな」

「女性陣が直々に乗り込めれば問題ないのですが……クラーラ様にはハンナ様が、エステル様にはアネス様が、マフレナ様にはシロ様が、そしてジャネット様にはこの僕がいて、なかなか村を空けられない状態でして」

「……最後はなんか違わないか?」

「ジャネット様は僕の母になってくれる女性です」

「そのよく分からん根拠はどこから湧いてくるんだよ……つーか、俺だって自警団の一員なんだからな」


 ともかく、エドガーはトアとクレイブの監視係として、パーベルについていくことが決まったのであった。



  ◇◇◇



 こうして始まった男子三人によるパーベル巡り。

 テレンスの店の売り上げなどをチェックした後は、潮の香りが漂う港町をゆっくりと見て回ることにした。


「しっかし、こうして三人だけでどっか行くってのは久しぶりだな」

「そうだね。フェルネンドにいた頃は割としょっちゅう出かけていたけど、こっちへ来てからはなかなか時間が合わなかったから……」

「特にトアは村長職で俺たちよりも忙しい毎日だったしな」


 三人は昔の思い出話に花を咲かせながら、街を歩く。

 ふと、クレイブの表情がわずかに暗くなったことに気づいたトアが、声をかけた。


「どうかしたの、クレイブ」

「あ、いや……あの頃の話をしていると、妹の――ミリアのことが気になってな」

「ああー……そういやあの子、おまえにベッタリだったもんな」

「同じ聖騎隊に入るって張り切っていたしね」

「まあ、しっかり者だったから大丈夫だとは思うが……」


 普段は見せない、兄としての顔つきになるクレイブ。

 

「俺たちが抜けてから、フェルネンド絡みでいい話は聞かねぇからな。この前、姉貴が言っていたんだが、今の王政に不満を持つ反乱軍が出てきたらしいぜ」

「反乱軍……さらに治安が悪化しそうな話だな」

「大陸一の栄華も今や昔のことってわけだ」


 以前、元聖騎隊のジャン・ゴメスが、ネリスの父で元大臣のフロイド・ハーミッダの助力を得て、シスター・メリンカや子どもたちなど、多くの人々をこのセリウス王国へと移住させることに成功した。


 だが、その中にミリア・ストナーの姿はなく、クレイブは人知れず落ち込んでいたのだ。


「大丈夫だよ、クレイブ。ミリアならきっと元気にしているよ。もし、何かあったら、あの子のことだから何かしらのサインをこっちへ寄越すよ」

「トア……」

「まあ、心配してもしょうがねぇし、おまえんとこの実家はフェルネンドでも随一の名家だからな。大丈夫だろう。もしなんかあった時は、全力で手を貸すぜ?」

「ありがとう、ふたりとも」


 クレイブは励ましてくれたトアとエドガーに感謝し、頭を下げる。

 その日、三人は夕暮れが迫るまで、楽しい時間を満喫したのだった。

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