第233話 戦利品?
なんの前触れもなく屍の森に現れた巨大アリは、とうとう要塞村へと狙いを定めて襲撃してきた。
突然の侵略者に対し、要塞村も応戦。
八極のひとりであるシャウナを筆頭に、圧倒的な戦力で迫りくるアリたちを撃破していったのだが、その戦闘中、アリたちを操っている黒幕の存在を感じ取ったシャウナは、クラーラを連れて森の中へとやってきていた。
「黒幕がいるって話でしたけど、もしかしてあのアリに何か心当たりが?」
「見たことも聞いたこともない生物であることは間違いない。――が、彼らが集団で要塞村を襲ってきたのには何かわけがあるに違いないと思うんだ」
「それなら、やっぱり神樹では?」
「普通はそうなんだが……モンスターの類なら、今の要塞村に近づこうともしないだろう」
その言葉を耳にしたクラーラは、「どうして?」と続けようとしたが、守護竜シロをはじめとして、外見にもインパクトある村民が多いことから、神樹の魔力を目当てにやってくるモンスターたちはあきらめてしまうのだろう。
「レラ・ハミルトンやちょっと前のアネスのように、野心の塊だったり、己の実力に絶対の自信を持った者ならば、こちらに兵を差し向けて魔力を奪おうとするのではないかと考えただけだよ。まあ、もっとも、森の方から怪しげな気配を感じたということもあるが――お?」
解説の途中で、シャウナは何かに気づいて足を止める。
その視線の先には、よく見知った人物たちがいた。
「む? ここで何をしておるんじゃ、シャウナよ」
「ローザか。君も黒幕探しかい?」
「ていうか、トアたちはどうしたんですか!?」
「騒々しいのぅ。トアたちならひと足先に村へと戻った。ワシはちょっと気になる気配を感じたものでな」
どうやら、シャウナの感じた気配をローザも感じ取ってここへ来たらしい。クラーラには何も感じないが、そこは百戦錬磨の八極――わずかな空気の違いを見抜いたという。
「さて、何が出るかな」
「ワシとしては初めて見る種族じゃがら、じっくりと研究をしたいところじゃがな」
この状況を楽しんでいるかのようなふたり。
一方、クラーラは何が飛び出してくるから分からない不安が――あったのだが、先を歩くふたりの妙な頼もしさに、そのような気持ちは吹っ飛んでいた。
しばらく歩いていると、不意にふたりの足が同時に止まる。
「? 何かありましたか?」
「ああ……狙い通り、黒幕が現れたよ」
「えっ!?」
クラーラは咄嗟に剣を構える。
だが、ローザとシャウナはそういった素振りを微塵も見せない。
もしや、からかわれたのか――そう思い、剣を鞘へ収めようとした時だった。
「ギガァァァァァッ!!」
茂みの奥から姿を見せたのは要塞村を襲ってきたアリよりも一回り大きなサイズで、全身が赤色をしており、鎌状の手が二本から四本に増えている。どう見ても、要塞村を襲ってきたアリの上位種であると思われた。
「こ、こいつがボスですね!」
「……違うな」
明らかに他のアリとは様相が異なり、強そうな見た目をした新種。だが、ローザとシャウナもお目当ての存在ではなかったためか、表情は冴えない。
「とりあえず、こちらの虫には用がないので……ご退場願おうか」
シャウナが一歩前に出る。
その瞳は人間のものではなく、蛇の瞳へと変貌していた。これは、シャウナが臨戦態勢に入った証でもある。先ほど、要塞村の前でアリを蹴り飛ばした時は普通だったので、軽口を叩けるだけの相手とはいえ、そのサイズから少しは力を入れて戦わなければいけないと判断したらしい。
だが、ここで思わぬ事態が。
「…………」
赤アリは四本の鎌状の手を引っ込めた。それだけにとどまらず、背を向けてスタスタと森の奥へと歩いていく。しばらくそのまま進むと足を止めてチラリとこちらを振り返った。
このような行動から、ローザはある仮説を口にした。
「ワシらについてこいと言っておるようじゃな」
上位種であっても人間の言葉は話せないようなので、あのように行動で示しているようだ。
「ワシらを襲ってきてついてこいとは……何が目的なんじゃ?」
「おもしろいじゃないか。何が出るか、ついていってみよう」
「だ、大丈夫ですか……?」
ローザとシャウナは赤アリの行動に興味津々といった感じで、スタスタと進んでいく。そのふたりに挟まれる形になっているクラーラは、戸惑いを見せつつも置いていかれないために追いかけるのだった。
◇◇◇
ローザと別れたトアたちは要塞村へと戻っていた。
そこでジンたちから要塞村にもアリが襲ってきたと報告を受けた。しかし、すでにアリたちは撃退した後で、黒幕の存在を感じ取ったシャウナとクラーラが森へ向かったという。
ローザも同じようなことを言ってトアたちと別れて森を調査しに行ったため、やはり何か潜んでいるかもしれないと感じ、数名を引き連れて援護に向かおうとしたのだが、
「わふっ! 帰ってきましたよ!」
マフレナが叫び、指さした方向へ村民たちの視線が集まる。
その先にはローザ、シャウナ、そしてクラーラの三人が森から抜け出て要塞村へと歩いてくる姿があった。
トアたちは無事を確認するため駆け寄るが、そこで思わぬ光景と出くわした。
「あー……えっと……ただいま?」
気まずそうに苦笑いを浮かべているクラーラの腕には――小さな赤ん坊が抱かれていた。
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