第230話 森が消えた!?

【お知らせ】

月曜日以降、投稿が不定期になります。

週2~3話ほど投稿していく予定です。

よろしくお願いします<(_ _)>







 その異変に最初に気づいたのは、銀狼族の仲間と共に狩りへと出かけていたマフレナであった。


「わっふぅ!?」


 目の前に広がる衝撃的な光景に、軽快なマフレナの動きが思わず鈍り、とうとう足を止めてしまった。あとから追いついた他の銀狼族たちも、あまりの衝撃に立ち尽くしてしまう。


「た、大変です……早くトア様に知らせないと!」


 マフレナは大至急トアに森の異変を知らせるため、村へ戻ることにした。その際、スピードアップのため、金狼の姿へとチェンジ。それに伴い、マフレナの美しい銀髪はあっという間に金色へと変わった。

 仲間たちには残って他に異常がないかどうか探しておくよう伝えると、マフレナ真っ直ぐ要塞村へと戻っていった。



  ◇◇◇



 狩りの途中で戻ってきたマフレナから緊急事態であることを知らされたトアは、月一で行っている神樹の大掃除を途中で切り上げて集会場へとやってきた。

 そこではすでにマフレナによって召集された各種族の代表者の他に、シスター・メリンカやケイス医師も加わっていた。


「じゃあ、マフレナ。何があったのかみんなに話してくれ」

「わふっ!」


 トアからの指示を受けたマフレナが、目撃した情報について説明を始めた。


「金牛を追って森の中を進んでいくと、急に開けた空間に出たんです。……でもその場所には本来、そのような空間はないはずでした」

「? 本来あり得ない空間? それってつまり――」

「以前までなら木々があったはずなのに、今日行ったら何もなかったってことね?」


 クラーラの抱いていた疑問を、エステルが詳細な形に言い直してマフレナへと告げる。それを受けたマフレナは、ゆっくりと頷いた。


「森が消えたとは……妙な案件じゃな」


 これに首を傾げたのは八極のひとり、ローザだ。

 帝国との大戦以降、ここにいる誰よりも長く屍の森で暮らしていた彼女にとっても、それは初耳の減少だったからだ。


「セリウス王家にいた頃、王国史の勉強はしたけど……木々が突然消えるなんて事例は耳にしたことがないわ。シスターはどう?」

「私も初耳です」


 屍の森があるセリウス王国の歴史に詳しいケイスや、フェルネンドでの生活が長いシスター・メリンカも知らないという。さらに獣人族組やエルフにドワーフといった種族も情報を持っておらず、フォルも聞いたことがないとお手上げ状態だ。


「これだけの種族が顔を揃えて誰も知らないとはね」

「そういうお主はどうなんじゃ、シャウナよ」

「皆目見当もつかないね。とりあえず、現場を見てみないことにはなんとも言えないかな」

「ふむ」


 シャウナの言う通りだ、とばかりにローザは頷く。それを見たトアはゆっくりと腰をあげると、円卓に並ぶ各種族の代表者たちを見回しながらこう告げた。


「とりあえず現場を調査してみましょう。ローザさん、エイデンさん、ケイスさん、それにフォルとマフレナとエステル、そして僕の計七人で向かいます。他の人たちは何かあった時のために、要塞村で待機していてください。何か異議はありますか?」


 トアからの指示を受けた代表者たちは口を揃えて「異議なし」と宣言。

 こうして、消えた森の調査が本格的に始まった。



  ◇◇◇



 現場へとたどり着いたトアたちはその光景に開いた口がふさがらなかった。 

 マフレナからの報告を受けて想像していた森の姿よりも、ずっと悲惨な空間が視線の先に広がっていたからだ。


「た、確かに森が消えている」

「一体何があったんじゃ?」


 トアとローザが呆然と立ち尽くしていると、頭上から声が。


「トア村長! 南西の方角にある数本の木が不自然な動きをしています! 恐らく、元凶はあそこにあると思われます!」


 空を飛ぶ冥鳥族のエイデンがそう報告してくれた。


「不自然な動きをしている木……何かいるのかしら?」

「行ってみれば原因が分かるでしょう」

「それもそうね。じゃ、行くとしましょうか」

「わふわふ!」


 ケイス、フォル、マフレナの三人が先陣を切って目的地へと進んでいく。


「――て、ケイスさんは非戦闘要員なんだから先走ったら危ないですよ!」

「あらあら、心配してくれるのはありがたいけど――これでも結構やるのよ?」


 そう語るケイスの手には、いつの間にか斧が握られていた。しかも、ドワーフたちによる要塞村オリジナルの斧だ。


「さすがにあなたたちほどずば抜けた力はないけれど、自分の身くらい自分で守れるわよ?」

「た、頼もしいです」


 ケイスの思わぬ一面に驚きつつ、さらに前進。やがて、エイデンの示した木のある場所へとたどり着いた。


そこにいたのは見慣れない生物だった。


二メートル近く体は真っ黒で、二足歩行という人間らしい特徴をもっている。しかも単体ではなく、この場にいるだけで五体確認できる。どうやらこの生物が木にかじりついていたようだ。


「な、なんだ、こいつらは!?」

「ギギ?」


 トアの叫びに反応したその生物が振り返る。

 その顔に、集まった面々は全員ギョッと目を見開いた。


「あ、あれって……」

「マスター、ジャネット様を連れてこなかったのは好判断でしたね」


 森の木々を食い荒らしていたのは巨大なアリだった。

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