第229話 乙女たちの戦い【聖戦編】
その日、クラーラ、エステル、マフレナ、ジャネットの四人の女子に、フォルから「我、準備万端なり」という知らせを受けた。
四人は揃って調理場へ向かうと、すでにエプロンを装着したフォルが仁王立ちで待機していた。
「おまたせしました。それではこれより本格的にチョコ作りに取りかかりましょう」
「分かったわ!」
「よろしくね、フォル」
「わっふぅ! 頑張ります!」
「お、お手柔らかに……」
四人とも料理は不得手というか、あまり経験がないので、ここは要塞村でも一、二を争うフォルに依頼をしようと思った――が、
「待ってください! スイーツ作りとなれば譲れません!」
そう言って、調理場のドアを勢いよく開けたのはメリッサだった。
「メリッサ!? エノドアのお店はいいの!?」
「確かにあちらは今日に合わせて特別なフェアを実施していますが……それはルイスたちだけでカバーできます! でも、要塞村のみなさんがトア村長に渡すチョコレートについてはやはり同じ女子である私の方が――」
いつになく多弁でアツいメリッサをなだめつつ、ここはひとつ実際に互いにチョコを作ってもらい、それで教えてもらう講師役を決めようということになった。
――一時間後。
「完成しました!」
最初に出来上がったのはメリッサの方だった。そのチョコを見た女子たちの反応は、
「凄い! 綺麗なハート型ね」
「わあ、可愛い♪」
「わふぅ~、食べるのがもったいないです~」
「形以外にもさまざまなところで工夫が凝らしてありますね」
それぞれの視点から感想を述べていったため、バラバラのようにも思えるが、その中身はすべてメリッサ作のチョコを高評価するものばかり。
これは勝っただろう、とメリッサがフフンと鼻を鳴らしてフォルへと視線を移す――と、そこにはメリッサの予想しなかったフォルの姿があった。
「…………」
女子たちから歓声を聞いてさぞ驚いているだろうと思いきや、まったく動じる素振りを見せない。どうやら、フォルにはフォルで何か勝算があるようだった。
「くくく、メリッサ様……今回ばかりはさすがのあなたも見誤りましたね」
「えっ!?」
フォルからの指摘を受けたメリッサが逆に大きく動揺した。
「確かにあなたの作ったハート形チョコは可愛らしい。女性陣が夢中になるのも頷けます」
「そ、それじゃあ、何を見誤ったというのですか!?」
「女性陣が夢中になっている――この言葉の真意が分かりませんか?」
「? ――っ! まさか!?」
メリッサはフォルの指摘の内容に気づき、思わず膝から崩れ落ちた。
「どうやら理解したようですね。チョコをもらうのは男子です。女子から高評価でも、男子がまったく同じ反応をするとは限りません」
「! い、言われてみれば……」
エステルはフォルの言うことも一理あると感じていた。その横で、あまり腑に落ちていないといった表情のクラーラがフォルへ尋ねる。
「じゃあ、あんたはまったく別のアプローチをしているってこと?」
「むろんです」
間髪入れずに答えるあたり、相当自信がありそうだ。
だが、ここでマフレナとジャネットが異変に気づく。
「わふ? でも、チョコがありませんよ?」
「そういえばそうですね。……というか、メリッサさんが作業している時、ほとんど何もしていなかったような……」
ふたりの指摘通り、フォルの調理スペースにあるのはボールに入った溶けたチョコレートのみ。特別何かを調理したような形跡はない。
「あんたまさか……口から出まかせを」
「落ち着いてください。本格的な調理はここからはじまるのです」
「ふ~ん……その手順は?」
「まず、裸になります」
「…………」
「クラーラ様、無言でカカオを放り投げる構えをしないでください」
「準備段階からすでにアウトだってことよ! 裸になる必要なんてないでしょ!」
いつものセクハラだと判断したクラーラだったが、どうやらフォルにはフォルで言い分があるようだ。
「違います! ここからが本番なんです!」
「……本番?」
「そうです! 裸になったあと、全身にチョコをコーティングし、リボンを巻きつけて『私ごと召し上がれ♡』のメッセージを添えれば――」
ドゴォン!
クラーラが全力で投げ込んだカカオが、フォルの兜に命中。鈍い音を立てたあと、地面をカカオと共にコロコロと転がっていった。
結局、メリッサと一緒にそれぞれ工夫を凝らしたチョコを作り、無事トアに手渡すことができたのだった。
翌日。
「そういえば、みんなからチョコをもらったあとに部屋へ戻ったら、机の上にもう一個チョコが置いてあったよ」
「え? でも、一緒に作ったのは私とエステルとマフレナとジャネットの四人だけよ? 私たち以外でトアにチョコをあげる人って――」
「どうかした?」
「……いえ、なんでもないわ。たぶん、知らない方がいいと思う」
「?」
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