第220話 波乱の予感

 式場の外で不穏な気配が見え隠れする中、そのような事情を把握していない出席者たちは着々と集まりつつあった。


 受付時間を過ぎると、いよいよ式が始まる。


「それではこれより誓いの儀式をはじめます」


 神父が主役のふたりの前に立ち、結婚する意思の最終確認を行う。当然ながら、新郎新婦ともに「誓います」と宣言。その後、誓いの口づけをすると、割れんばかりの拍手と歓声が式場を包み込んだ。


「ヘルミーナ、今日は来てくれてありがとう」

「君と私の仲だ。当然だろう?」


 誓いの儀式を終えると、その後は立食形式で、新郎新婦がそれぞれ出席してくれた友人、同僚、親戚などへ挨拶して回るというのが通例となっている。新郎新婦と絡んでいない時は、それぞれ好きに食事をしたり会話を楽しんだりしていた。

 ヘルミーナも、式へ出席したかつての同僚たちと過去を懐かしみながら再会を喜び合っていた。

 同僚たちの会話の中では、元の職場であるフェルネンド王国についての話題も出た。


「国民の不満がとうとう限界に達し、革命が起きかけているという情報もあるのよ」

「革命、か……確かに、あそこまで歪にゆがんでしまっては、一度根っこから破壊する必要はあるかもしれん」


 ネリスの父である元大臣のフロイドとともに国を出たヘルミーナ。それからエノドア自警団へと入ったわけだが、今でもフェルネンドのことは気にかけていた。


 と、その時、


「きゃっ!?」

「うおっと!?」


 ヘルミーナは背後を通過していた人物の存在に気づかず少し後ろへ下がったため、その人物とぶつかってしまった。


「す、すみません、よく周りを見ていなくて」

「いえ、こちらこそ。お怪我はありませんか? ――ん?」


 ぶつかった男性はヘルミーナの手を取るとジッと見つめている。


「な、何か?」

「っ! あ、い、いえ、すみません。よく鍛えられたいい腕をしているなと感心をしておりまして――ああっ! あまりこういったことを女性に言うのはよくないですね! 申し訳ありません」


 男性はヘルミーナの鍛え上げらえた肉体に興味を持ったようだった。一方、鍛えることが趣味にもなっているヘルミーナからすれば、素直に自分を筋肉を褒められて嬉しくないはずがない。


「そんなことはありません。日々鍛えているので、そのように言っていただけるのはむしろ光栄です」

「ほう……日々鍛錬を。失礼ですが、お仕事は何を?」

「ある町の自警団で働いています」

「自警団!? あなたのような美しい人が町を守るために戦っているとは……いやいや、感服いたしました」

「そういうあなたもかなり鍛えられているようですが?」

「まあ、私も体を鍛えるのは趣味みたいなもので――あっと、そういえばまだ名前を言っていませんでしたね。ステッド・ネイラーと申します」

「ヘルミーナ・ウォルコットです」


 筋肉談義で盛り上がるヘルミーナと男性。

 その様子を、式が始まるということで監視する位置を変更したクレイブたちも見ていた。


「おいおいおい、どうなってんだよ、あれは!」

「ヘルミーナさんとステッドさん……めちゃくちゃいい雰囲気じゃない!」

「盛り上がっている内容が筋肉ってとこは引っかかるが、共通の趣味っていうのは大きなアドバンテージになるぞ!」

「ふたりとも、本来の任務を忘れすぎだぞ」


 はしゃぐふたりをたしなめるクレイブ。

 と、何やら気配を感じ、振り返ると、そこにはひとりの成人男性が立っていた。


「盗み見とは感心せぬな」


 八極のひとり、百療のイズモだった。


「! イズモ殿!」

 

 まさかの八極登場に、クレイブたちは大きく取り乱す。だが、当のイズモ本人は、慌てる若者たちの様子を「だっはっはっ!」と豪快に笑いながら眺めていた。


「お主たちは確かエノドアという鉱山の町で自警団をしていたはず。この町に仕事場を移したのか?」

「ああ、いや……そういうわけじゃないんすよ」

「ちょっとした助っ人です」


 エドガーとネリスが縮こまりながら言う。


「ほう? 助っ人? ……ふむ。どうやら祝言の只中のようだが、誰か知人が結婚でもしたのか?」

「知人というか……上司が出席しているんです」

「? 出席だけか?」


 事情を知らないイズモは首を傾げる。

 一応、三人の上司がヘルミーナという女性であるということは、以前、ツルヒメ救出の際に知り得ている。

 

「お主たちが心配するようなことはないと思うが――む?」


 話の途中で、イズモは何かしらの気配を感じたらしく、周囲へと視線を巡らせている。


「……気のせいか?」

「どうかしましたか?」

「いや、実は人を探しておってな。似たような男がいた気がしたが、どうやら気のせいだったようだ」

「誰かと会う約束が?」

「そうだ。では、某はこれで失礼する。また会おう」

 

 知り合いと会う約束をしているというイズモは、クレイブたちにそう別れを告げて去っていった。


「それにしても驚いたなぁ……まさか百療のイズモがいるとは」

「ここで誰かと落ち合うみたいだけど、一体誰とかしら?」

「もしかして、他の八極もいるんじゃねぇか?」

「ローザさんとシャウナさんは要塞村にいるはず。となると、残りの五人のうちの誰か、か」


 三人がイズモの目的について議論を交わしていると、すぐそこにできていた人混みから大きな歓声が聞こえてきた。


「お? 式が終わったか?」

「……いえ、何か違うみたいよ」


 群衆の異様な熱気。

 何事かと近づいていくと、突如群衆が割れてひとりの大男がこちらへ吹っ飛んできた。


「きゃっ!?」

「ネリス、危ねぇ!」


 咄嗟にネリスを抱き寄せるエドガー。一体何が起きたのかと吹っ飛んだ男を見ると、顔に殴れたあとが残っていた。その直後、群衆の先から別の男の声が響く。


「さあて、もう終わりかい?」


 どうやらケンカのようだが、大男を吹っ飛ばした方の男の格好を見て、クレイブたちの表情が引きつった。


「あの時の……囚人服の男!?」








【 あとがき 】


いつも「無敵の万能要塞で快適スローライフをおくります ~フォートレス・ライフ~」をお読みいただき、ありがとうございます。


本作はカドカワBOOKS様より、2月10日に書籍第1巻が発売されます。これも読んでいただいたみなさんのおかげです。本当にありがとうございます。


現在、ツイッターにてキャライラストや予約情報などを掲載中です。

これからも要塞村の面々をよろしくお願いいたします。<(_ _)>


キャライラストや予約情報などはこちらから! 

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