第207話 強力ライバル登場?
深夜の地下古代遺跡。
「こ、これは!?」
クレイブが発見された遺跡で、シャウナはある驚きの発見をする。その声に反応して、同行していた銀狼族と王虎族の若者も駆け寄ってくる。
「どうしましたか、シャウナさん!」
「何かありました!」
「ああ……こいつを見てくれ」
シャウナは集まってきた若者たちに壁を見るよう指をさす。そこにあったのは、
「……壁画、ですか?」
「ああ。恐らくこの壁画が、クレイブの体に起きた異変と深い関わりがあると思われる。こいつを調べれば、クレイブを元に戻せるはずだ」
「おおっ!」
転移魔法陣によってこの遺跡へと運ばれ、さらに性別が男から女へと変わったクレイブを救う手立て――それが、この壁画の中に隠されているらしい。
周囲がワッと沸き立つ中、ひとりの若者があることに気づいて表情を曇らせる。
「し、しかしシャウナ様、この壁画って……」
「む? 気づいたか。……そうだ。この壁画に描かれていることが事実ならば、急がなくてはいけない。このままではクレイブが危ない」
「ならば一刻も早く知らせなければ!」
「今からすぐに知らせを送ろう。でなければ、エノドアは――いや、この要塞村も大パニックに陥るぞ」
シャウナは足の速さに自信のある銀狼族の若者に、トアへメッセージを届けるよう指示を出し、見送った。
「さあ、我々は調査を続けるぞ。解決へのヒントを探るためにな」
「「「はい!」」」
クレイブを元に戻すため、シャウナを中心とする調査チームはさらに深く遺跡へと潜っていった。
◇◇◇
時間は少し遡って――夕暮れの要塞村。
エノドアに戻ろうとしたクレイブだったが、その前にトアと久しぶりに模擬戦したいと提案し、それを叶えることに。
「女にはなったが、変わらず本気で頼むぞ」
「分かったよ」
トアVSクレイブ。
聖騎隊時代はよくやった模擬戦も、エノドア自警団と要塞村村長という立場になってからは行っていなかった。それが久しぶりにできるとあって、クレイブだけでなくトアも気分が高揚しているようだった。
「いくぞ、クレイブ!」
「おう!」
トアとクレイブは模擬戦ようの木製剣でぶつかり合う。
――だが、
「ぐっ!?」
ふたりの剣が重なった瞬間、まったく手応えなくクレイブの剣が吹っ飛ばされた。あまりにも呆気ない決着に、トアは思わず「えっ?」と声を漏らす。さらにトアだけでなく、ふたりの模擬戦を見守っていたエドガー、ネリス、タマキ、そしてエステルとクラーラも同じような反応だった。何より、クレイブ自身が信じられないといった顔つきで地面に転がる剣を見つめていた。
「ど、どうした、クレイブ」
「エドガー……それが、手に力が入らないんだ」
「力が入らないって……麻痺でもしたの?」
ネリスからの追及に、クレイブは首をゆっくりと横へと振る。
「力が入らないというのは少し言い方に誤りがあった。……全力なんだ。全力を出しているんだが、本来の力が出ないんだ」
クレイブは自身の両手をジッと見つめる。
本当ならもっとやれるはずだと思いながらも、力が入らない。まるで体が別人の物になっているかのように感じてしまう。
大きなショックを受けたクレイブは、結局、エノドアには戻らずそのまま要塞村で過ごすことになった。
見た目だけでなく、筋力まで落ちていることの衝撃はすさまじかったらしく、トアやエステルが口を揃えて「見たことがない」というくらい落ち込んでいた。
「クレイブ、今は仕事を忘れて、ゆっくりと休もう」
「トア……すまない。ありがとう」
気遣うトアに、クレイブは深く肩を落としながら弱々しく礼を言うのだった。
◇◇◇
翌朝。
「ふあぁ~……」
あくび交じりに早朝の要塞村を歩き回るトア。
「今日の朝食は何かな」
朝食のメニューを聞こうと調理場までやってくるが、その時間にはまだちょっと早いかなとも思っていた――と、包丁で何かを小気味よく刻む音と、いい匂いが漂ってきた。
「? フォル?」
いつも調理場に一番乗りしているフォルだからという理由で名前を呼ぶが、そこにいたのは意外な人物だった。
褐色の肌に青い髪。
振り返ってトアを見つめるその人物は、
「ク、クレイブ?」
まさかのクレイブだった。
それだけでも意外なのだが、さらにトアを驚かせる事態が待っていた。
「あ、おはよう、トア♪」
まるで本物の女の子のように穏やかな笑みをトアへと向けるクレイブ。
「へ? あ、う、うん。おはよう、クレイブ」
あまりにも女の子な反応に、トアは戸惑った。しかし、当のクレイブはそんなことお構いなしといった感じにトアへと駆け寄ってくる。
「材料を借りて作ってみたんだ。トアの好きなものばかりよ♪」
「あ、ホントだ……」
テーブルに並ぶ料理はすべてトアの好物。この辺を知り尽くしているあたりさすがはクレイブと言いたいところだが、感心するよりもツッコミを入れるべき場所が他にある。
「く、クレイブ! 一体どうしたんだ!? なんでそんな女の子っぽい喋り方や仕草になっているんだ!?」
「? トアったら、何を言っているの? ――私は昔から女の子じゃない」
「……え?」
トアは衝撃で固まった。
クレイブは自分が男だった記憶がなくなり、心まで女の子になっていたのだ。
「それより味見してくれない? この卵焼き、トアが好きなちょっと甘めの味付けになっているんだけど……」
「へ? あ、えっと、うん」
状況の処理が追い付かず、流されるまま返事をするトア。そんな放心状態のトアへ、クレイブは畳みかけるような連続攻撃をしかける。
「はい、アーン♪」
「!?」
予期せぬ攻撃にトアはたじろぐ。
さすがにそれはちょっと――と拒否をしようとしたが、クレイブ(女)のニコニコした微笑みの前にそんな考えは振り払われ、フォークに刺さった卵焼きパクリと口の中へ。
「どう?」
「お、おいしいよ」
「よかったぁ♪」
ホッと胸を撫でおろすクレイブ。
だが、次の瞬間、
「よかったらふたりも食べてみる?」
そう告げた視線は、トアの背後へと向けられている。
ギギギ、と錆びついたような動きで振り返ると、そこには瞳から光の消え失せているエステルとクラーラの姿が。
「え、エステル? クラーラ?」
恐る恐る、トアはふたりの名前を呼ぶ。
しかし返事はない。
硬直したふたりの少女は、その後、マフレナとジャネットによって救出されるまで固まり続けたままだった。
――調理場が修羅場へと変貌しかけていた時とほぼ同じ頃。
地下遺跡にいるシャウナから伝言を預かった銀狼族の若者が、ローザのもとへとたどり着いていた。
「むぅ……まずいことになったのぅ」
とりあえず、クレイブの性別変化にまつわる新事実を伝えるため、ローザは昨日の話し合いに参加したメンバーを再び集会場へと呼び出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます