第206話 原因追及
トアと聖騎隊時代に同期で、現在はエノドア自警団に勤める親友クレイブの性別が入れ替わったことに対する緊急対策本部は、要塞村の集会場に急遽設けられることになった。
「じゃあ、順番に説明をしていってもらいたいと思います」
集会場に集まったのはトア、ローザ、シャウナ、クレイブの四人に、エステル、クラーラ、エドガー、ネリス、タマキの九人。
その中で、まずはクレイブから事態の発端について説明を受けることに。
「今日、俺はエノドアから少し離れた位置にある森の中を警邏していた。というのも、先日その一帯でハイランクモンスターが出現したという通報があったからだ」
「そういやあったな、そんな通報」
「最近は要塞村の人々が追い返しまくっている影響からか、そもそもモンスター自体が近寄らず、めっきり目撃情報も減っていたのですが」
これについてはエドガーやタマキも承知済みだったようだ。
「それで、俺は通報通り、森の中で巨大なカマキリ型のモンスターに遭遇し、一戦を交えた。結果として、退治することはできたのだが……気づいたら女になってここの地下遺跡で倒れていた」
「話が急に飛びすぎじゃない!?」
声を荒げるネリス。
だが、それも無理はない。
いくらなんでも前後関係がなさすぎる。これでは手掛かりを得ることはできそうにない――誰もがそう思っていると、
「なるほど……やはりな」
シャウナだけは違う反応を見せていた。
それを察知したローザが問いかける。
「シャウナよ。何か知っているようじゃな」
「ああ……実は、クレイブが発見された場所にこんなものがあった」
そう言って、シャウナは一枚の紙をローザに手渡す。それには何やら模様のようなものが描かれていた。
「これは……魔法陣か?」
ローザはすぐにその正体に気づく。
「そうだ。この魔法陣の効果を解析できれば、クレイブを元に戻すこともできるんじゃないか?」
「しかし……見たことのない魔法陣じゃな」
「恐らく、これは大昔に描かれた魔法陣……現在君たち《魔法使い》のジョブを持つ者が使っているものとは別物だろう」
「ならば解析には少し時間がかかりそうじゃな。エステル、お主はこれを知らないか?」
「いえ……でも、太古の魔法陣って興味あります!」
「ワシもじゃ。こいつは研究のしがいがあるぞ」
「はい!」
魔法陣ということで、《大魔導士》のジョブを持つエステルも食いつき、ローザもそれに乗っかってテンションが上がる。すると、
「ちょっとちょっと! それが魔法陣っていうのは分かったけど、それとクレイブが女の子になるのと何が関係あるっていうのよ!」
魔法談議に花を咲かせかけていたローザとエステルを止めたのはクラーラだった。ふたりもハッと我に返り、トアたちへ説明を再開する。
「クレイブよ。さっきも言った通り、この魔法陣が意味しているところはハッキリ言って分からん。何しろ、大昔の魔法陣じゃからな……これから調べてみんことにはなんとも言えん」
「そうですか……」
魔法陣の効果については不明――だが、ローザはある予測を立てていた。
「しかし、私の見立てではクレイブの性別が入れ替わった原因はこの魔法陣にあるわけではないと思う」
「? どういうことですか?」
てっきり、この魔法陣の持つ効果によってクレイブの性別が入れ替わったのだとばかり思っていたトアたちは、その視線を否定したローザへと向ける。
「この魔法陣が持つ効果はクレイブの性別変更よりも……むしろ一瞬にして森の中から古代遺跡へ移動した方にある」
「っ! 転移魔法か!」
シャウナの叫びに、ローザは頷くことで答える。
「そうじゃ。この魔法陣の効果はまず間違いなく転移……ただ、ワシらが今使用しているものとはまるで違う代物だ」
「え? じゃ、じゃあ、クレイブが女の子になった原因は?」
「それについてはさっぱり分からん」
あっけらかんと答えるローザ。
「これは完全に憶測じゃが、恐らく転移した時の衝撃で近くにあった《そういった効果》のある薬品でも頭からかぶったんじゃないか?」
「「「…………」」」
「そんなバカな」――と一蹴したいところだが、被害者経験のあるトアとクラーラは複雑な表情を浮かべる。そんな効果のある薬なんて存在するわけがないと言い切れなかったのだ。
「んで、まとめるとクレイブを戻す手段は今のところないってことね」
状況を静観していたエドガーがバッサリとまとめる。
「そうなるのぅ。まあ、これまで被害に遭っている者の経験上、それほど長い時間同じ状態でいられたためしはないし、そのうち戻るじゃろ」
「しょうがねぇか……ま、いざとなったらトアと結婚でもすりゃいいんじゃないか?」
冗談半分に笑いながら言うエドガー。
しかし、
「…………」
期待していたクレイブからの「バカなことを言うな」というようなツッコミはない。
トアは「あはは」と苦笑い。
そして、エステルとクラーラからドス黒いオーラをまとった視線を食らう。
「あんた……とんでもないトラップを踏み抜いたわね」
「ご冥福をお祈りいたします……」
ネリスとタマキからは憐みのこもったリアクションが返ってきた。
「え? マ、マジに捉えるなって! ジョークだよ、ジョーク!」
「相手とタイミングを選んで言うべきじゃったな。クレイブの場合……冗談では済まされんかもしれん」
「えぇ……」
結局、具体的な対策は何も講じられないまま、その場は解散となった。
「とりあえず、俺はエノドアに戻る。多少動きづらいことを除けば、特になんの問題もないからな」
「ビジュアル面で相当な問題を抱えているって考えはないのかよ……」
予想以上にサバサバしているクレイブ。
だが、原因がハッキリとしない以上、深く考えたところで答えは出ない。これくらいあっさりしていた方が、周りとしても気が楽だと、トアたちはそういうことにしておいた。
同時刻――フェルネンド王国。
「!?」
「どうした、ミリア」
「プレストン先輩……今、私のお兄様がとんでもないことになっている気がします!」
「分かった。んじゃ、とっとと警邏にいくぞ。ただでさえシスター・メリンカたちを取り逃がしたことで立場が危ういんだ。おまけにオルドネスはヒノモトの潜入調査から戻って以降なんか様子がおかしいし……ここらで適当に悪人しばいてポイント稼いでおかないとな」
「くっ……すっかり牙の折れたワンコに成り下がっています……」
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