第189話 お約束の大宴会
※次回は1月2日に変更です!
シスター・メリンカと子どもたちが無事に要塞村へ到着したその日の夜は盛大に宴会が行われることになった。
夜までの間、トアとエステルがシスター・メリンカと子どもたち、そして同行していたジャンに要塞村を案内することに。ちなみに、護衛として村までついてきてくれたライオネル、リスティ、ウェインたちはシャウナに案内してもらっている。
まず紹介したのがシスターと子どもたちの新しい住まいについて。
「要塞内にあるスペースを利用してこんなふうにしてみたんだ」
そう言ってトアが扉を開けると、その先にあったのは以前の住まいである教会と同じような造りになっていた。
「凄い……あんなに大きくて綺麗なステンドグラスまで」
「うちの村のドワーフたちによる自慢の逸品だよ」
ナタリーからシスター・メリンカたちをセリウスに移住させる計画があることを聞いてから密かに作っていたのだ。
「ここは礼拝堂で、奥に居住用のスペースがありますよ」
「ホントに!?」
「行ってみようよ!」
子どもたちは新しい住まいに興奮しっぱなしで、トアの話の途中ではあったが待ちきれなくなり、探検感覚で部屋のチェックへと向かった。
「あ、コラ」
シスター・メリンカが止めようとするが、子どもたちはあっという間に部屋の奥へと消えていった。
「元気いっぱいですね」
その光景を見たエステルがクスッと笑いながら言う。
「本当に。もうちょっとお淑やかになってくれると助かるんだけどね」
ふと、シスターはトアとエステルの昔を思い出す。
教会に来た頃のふたりは心身ともにひどく衰弱していた。特にエステルは両親を失ったショックからまともに会話すらできなくなっており、しばらくは幼馴染であるトアにベッタリでほとんど依存状態だった。トアが視界からいなくなるとパニックを起こしてしまうほどで、症状がひどい時はトイレにまでついていったほどだ。
そんなエステルが人並みの生活が送れるまで回復したのはひとえにトアの献身的なサポートがあったからだ。
シスター・メリンカはそんなふたりが聖騎隊へ入るのを本心では止めたかった。
両親や知人を殺した魔獣への復讐。
理解できるところもあるが、命を落とす危険もある大変な仕事だ。できることならそんな危ない仕事じゃなくて、農家でもしながらふたり仲良く暮らしていってほしいというのが願いであった。
結局、トアは適性職診断の結果が振るわなかったようでフェルネンド王国を去り、エステルもその後を追って国を出た。
それからの足取りをジャンに尋ねたが、彼にも情報は入っていなかった。
なので、こうして元気に笑顔でいるふたりの姿を見られて本当に良かったと思う。心なしかフェルネンドにいた頃より幸せそうにさえ映った。
そんな時、
「パパ~♪ ママ~♪」
緑色の髪をした十歳くらいの女の子が、そんなことを言いながら並んでいるトアとエステルの腕に絡みつく。
「アネス!?」
「ど、どうしたの? サンドラちゃんたちと遊ぶって言っていたじゃない」
「えへへ~♪」
トアとエステルの腕をとってご満悦なアネス。
要塞村の面々からすると見慣れた微笑ましい光景であり、さながら本当の家族のようなのだが、シスター・メリンカの表情はそれとは真逆のものだった。
「え? トアがパパでエステルがママ? え? 子ども? え?」
何も知らないシスターにはとんでもない衝撃展開だった。ただ、衝撃を受けたのはシスターだけでなく、その後ろにいるジャンも「マジか……」と茫然自失。
「ごめんなさい。アネスがご迷惑を――」
振り返って謝ったトアは、シスター・メリンカとジャン隊長がドン引きしていることに気づく。何か変なこと言ったかな、と疑問に思っていると、横で「ママ♪」とエステルに抱きついているアネスが目に入り――理解する。
「あっ! ち、違います! 俺とエステルの子どもじゃないですよ!」
必死に誤解を解こうとするトアだが、幼い頃からふたりの仲の良さを知っているふたりからすると「なくはないな」と考えていた。しかし、年齢的な問題から実子でないと結論付けてホッとする。
「でも、あのふたりならきっといい夫婦になりますよね、シスター」
「ええ。それは間違いないですね」
アネスは実の子どもというわけではないが、あのふたりがここで一緒に暮らしているのなら本当の子どもができるのも時間の問題だろう。
シスター・メリンカとジャンがそう思っていると、
「トア♪」
「トア様~♪」
「トアさん♪」
立て続けにやってくる三人の少女たち。
それぞれトアを経由してお互いに自己紹介をしたのだが、その後のトアとのやりとりを見ている限り、この三人がトアに対して好意を持っているのは明らかだった。
「……羨ましい」
「え?」
「――はっ!? う、うぅん!」
思わず漏れた本音を誤魔化すように咳払いをしてから、ジャンはトアの肩をポンと叩く。
「トアよ」
「なんでしょうか?」
「女を泣かせる男は最低だ。そのことを肝に銘じておくんだ」
「? は、はい」
唐突にそんなことを言われてよく意味が分からなかったが、ジャンがあまりにも真剣な顔つきをしていたので思わず頷いたのだった。
◇◇◇
新年を迎える宴会の準備は着々と進んでいった。
料理の中心となるのはいつもの食材にプラスして、里帰りから戻ってきた各種族からのお土産も加わった豪華バージョン。
日が暮れていくにつれて、あちこちから美味しそうな匂いが漂ってくる。
ジンは若手たちを率いて金牛の肉を焼き、王虎族のゼルエスも魚を焼いていく。そこに、フォルが持ってきた、大地の精霊が運営する農場で採れた野菜や果実を使った特製のソースをかけていく。さらに、メリッサを中心としたエルフ族の女の子たちが同じく大地の精霊印の野菜や果実を使用したデザートを用意。
「「「「「うわあぁ……」」」」」
教会から来た子どもたちは、見たこともない豪勢な料理の数々に瞳を輝かせていた。ちなみに、獣人族組はシャウナと一緒に宴会を楽しんでいる。
「さあ、みなさん。遠慮なさらず食べてください」
フォルがそう呼びかけると、子どもたちは歓声をあげて料理へと飛びついていった。誰に教わったわけではないが、厳しい教会の運営状況を敏感に察知していた子どもたちは、少ない食事でも文句を言うことはなかった。
だから、目の前に並ぶ食べきれないくらいの料理に感動したし、それを食べていいと言われたら飛びついてしまうのも無理ない話だ。
「す、凄いわね……」
「よければお酒もありますよ」
「おっ! なら俺はそれをもらおうかな」
大の酒好きでもあるジャンは早速ドワーフたちが鋼の山から持ってきた酒をもらうために彼らのもとへと向かった。
「相変わらずお酒好きなのね」
「あははは……」
昔からジャンを知るトアとエステルは「やれやれ」といった感じにその背中を見送る。それから、シスター・メリンカは子どもたちを見なければいけないとトアたちと別れて料理の並ぶテーブルへ。ふたりと入れ替わる形で、トアたちのもとへはクラーラ、ジャネット、マフレナの三人がやってきた。
「ほら、トアたちも宴会を楽しみましょうよ!」
「料理の準備も万端ですよ」
「わふっ! 早く行きましょう!」
三人からの誘いを受けたトアとエステルは笑顔で駆けだす。
要塞村のにぎやかな夜はまだ始まったばかりだ。
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