第188話 シスターとの再会

※明日が年内最後の投稿になります!

 次の投稿は1月3日から!




「…………」

「ほらみろ。ボスもおまえの軽率な行動にお怒りだぞ」

「だから聞こえないって!」

「あと、シャウナ様の名前を勝手に使うのもまずいと思うぞ」

「あーやだやだ。ウェインはいっつも説教臭いから嫌い!」


 べーっと舌を出すリスティに対し、ウェインは「やれやれ」と額に手を当てながら天を仰いだ。

 一方、急激な展開の変化によって頭が回っていなかったジャンだが、ここへ来てようやく目の前の獣人族たちが味方であることを把握し、剣を構え直す。


「形勢逆転だ、プレストン」


 人数だけの問題ではなく、あの白獅子のライオネルが味方をしてくれるなら負けるはずがない。実力はもちろん、八極に名を連ねることで知名度が抜群に高いシャウナだが、実力でいえばライオネルも負けてはいない。

 思わぬ形で強力な援軍を得たジャン。

 その前に立つプレストンをリーダーとする四人の兵士は固まっていた。


「し、白獅子のライオネル……」

「ウ、ウガゥ……」

「どうしますか、プレストンさん。まともに戦って勝てる相手ではありませんよ?」


 引きつった表情で立ち尽くすミリアとガルド。そして、背後から静かな口調でプレストンの指示を仰ぐユーノ。オルドネス隊は完全に追い込まれていた。


「…………」


 決断を迫られたプレストンは――長槍を引っ込めた。

 こうなってしまってはもう手出しができない。ジャンやあの獣人族ふたりだけを相手にするならまだ勝機はある。だが、ライオネルと戦うとなると話は別だ。あの八極と肩を並べる存在が相手ならばまずかなわないだろう。

 プレストンは本物のライオネルを見たことはない。


 だが、勝てないと断言できる。


 それほどまでに、ライオネルが放つオーラは「圧倒的」だった。ほんの少しでも敵意を向ければ、一瞬にして喉元を食い破られてしまう――プレストンはそう感じていた。


「せ、先輩……?」

「……撤退だ」


 プレストンはボソッと小さな声で呟く。


「あっちと正面からぶつかり合ったところでこちらに勝ち目はない。どうせ正規の任務じゃないんだ。取り逃がしたところで俺たちの評価が下がるわけじゃねぇしな」

「そ、それはそうかもしれませんが……」


 言っていることは理解できるが、ここまで追いつめておいてからの大逆転に、ミリアは納得いっていないようだった。新入りのガルドとユーノも似たような反応だが、三人ともライオネルを止めることができないと判断してプレストンの判断に従う。


「プレストン……」


 助かった安堵に浸るでもなく、ジャンは悲しげな表情でプレストンで見つめる。

 ジャンはプレストンを高く評価していた。エステル、クレイブ、エドガー、ネリスといったハイレベルな同期がいたため、いまひとつ目立たなかったが、例年のレベルならばトップの評価を受けていてもおかしくはない。

 ただ、プレストンの場合は能力以外の点でマイナス要素が大きかった。

 なんといってもその不遜な態度。これが上役たちからの評価を大きく下げる一番の要因となっていた。ジャンはプレストンのこういった行いを正すために自らの隊へと招き入れ、指導を続けていたが、反発したプレストンは結局聖騎隊を辞めてしまった。

 

ジャンはそのことをずっと後悔していた。

 

 あれだけの資質を持っているプレストンならば、訓練次第でもっと化ける可能性を秘めていた。その気持ちは今も変わっていない。崩壊寸前のフェルネンドに置いておくには惜しい逸材だと思っている。


 踵を返し、王都へと戻っていくプレストンたちの背中を眺めながら、ジャンはそんなことを思うのだった。




 プレストンたちの奇襲を受けたジャンたちは、シスター・メリンカに恩義を感じていたリスティとその仲間のウェイン、ライオネルの援護を受けてこれを回避。


「本当にありがとうございました」

「困っているところを助けてもらったらそのお返しをすること。これは我ら獣人族の村の掟その一です!」

「獣人族の村? セリウスにはそんな場所があるのか」


 ジャンが尋ねると、ウェインがそれに答える。


「ええ。といっても、まだ正規の村として認可されているわけではありません。ですが、ファグナス領の領主様と話はついていて、間もなく住民たちの移住が完了します」

「なんと! あの豪傑と名高いチェイス・ファグナス様と!?」


 チェイスの名はフェルネンドにも轟いている。まさかそんな超大物までバックについているなんて、とジャンは開いた口がふさがらなかった。


「念のため、我々がセリウスとの国境近くまで護衛しましょう」

「えっ!? そ、そんな!?」


 ウェインの提案は大変嬉しいものだったが、そこまでしてもらうのは悪いという気持ちもあって、ジャンは酷く狼狽した。


「まあ、これも縁ですから。私たちに任せなさい!」

「…………」

「ボス! 黙っていないで何か言ってよ!」

「いや、さっきからかなり饒舌に話しているぞ。誰にも聞こえないだけで」

「意味ないじゃん!」


 ともかく、獣人族たちから「気にするな」という声をかけてもらったので、ジャンはその厚意に甘えることとした。


「シスター・メリンカ。これでセリウスに――トアたちのところへたどり着けますよ」

「はい!」


 荷台ではシスター・メリンカはもちろん、目覚めていた子どもたちも皆安堵の笑みを浮かべていた。



  ◇◇◇



 獣人族たちに護衛されながら、フェルネンドの国境を越えたジャンと教会メンバーは無事にフロイドたちと合流。

 白獅子のライオネル率いる獣人族たちが護衛についていることは計算外だったようで驚いていたが、彼らの目当ても要塞村にあるということで、このまま一緒に向かうこととなった。

 旅の疲れを癒すため、その日はセリウス騎士団が設営したキャンプに泊まり、翌日、新しい馬車をもらうと、改めてトアたちのいる要塞村を目指して旅立った。



 そして――その日の夕刻。



 ライオネルたちの頼もしい護衛のもと、屍の森を進んでいると、遠くに巨大な建造物を発見する。


「あれだ! あれが要塞村だ!」


 ジャンがそう叫ぶと、ライオネルたちとシスター・メリンカ、そして子どもたちから笑みがこぼれた。

 さらに目的地目指して進むこと一時間。

 馬車はとうとう要塞ディーフォルを目前に捉える位置まで近づいた。


「ここに、トアたちが……」


 馬車から降りたシスター・メリンカは辺りを見回す。

 周囲は銀狼族や王虎族、エルフにドワーフにモンスターなどなど、名前でしか聞いたことのない伝説的な種族が当たり前のように生活を営んでいた。その光景は、まるで絵本を眺めているような気分になってしまう。

 現実離れした景色に呆然としていると、


「「シスター!!」」


 聞き慣れた少年少女の声が届いた。

 振り返ると、こちらに走り寄るトアとエステルの姿が。


「トア! エステル!」


 シスター・メリンカとトアとエステル。

 かつて、親子のような関係だった三人は、この要塞村で再会を果たしたのだった。

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