第156話 聖剣の作り方
ファグナス家主催の屍の森サバイバル大会。
白獅子のライオネル乱入により、いろいろとうやむやになりかけたが、なんとか滞りなく進行し、見事トア率いる村長チームが勝利を収めた。
その翌日。
要塞村にファグナス家から例の豪華賞品とやら運ばれたわけだが、
「え? これ?」
気の抜けたような声で優勝賞品を指さすのは村長チームの一員として優勝に貢献したクラーラ。同じく優勝メンバーのマフレナも横で困惑している。
ハイランクモンスターがうろつく森での山菜取り。
それを乗り越えた先に待っていたのは――およそ三十センチほどの金色に輝く鉱石だった。
「なんでも、エノドア鉱山で採掘された珍しい魔鉱石らしい」
トアがそう説明するが、もっと見た目に派手なものを期待していた他の村民たちからは落胆の色がうかがえるため息が漏れていた。しかし、ジャネットのリアクションによってそんな暗いムードが吹き飛ぶ。
「こ、ここ、これは……聖鉱石!!」
「せ、せいこうせき? 何よ、それ」
興奮するジャネットに驚きつつクラーラが尋ねると、鼻息荒く解説が始まった。
「これは魔鉱石の一種なのですが、その中でも最高級と呼ばれる代物です!」
「普通の魔鉱石とどう違うの?」
今度はエステルが質問する。
「魔力の伝達力が違います。例えば、これを加工して武器にすると、使用者の魔力を何倍にも増幅させて威力を増していくのです」
「つまり、たくさんの魔力を持った人が使うほど、とっても強い武器になるの?」
マフレナが首を傾げながら自分なりにまとめた意見を述べると、ジャネットは勢いよくサムズアップしながら「その通りです!」と叫ぶ。職人であるドワーフの血が騒ぐのか、これまでにないテンションの高さだった。
「なら、こいつを加工して武器を作ってもらいたいな。できたら剣で」
優勝チームのリーダーであるトアは、商品の聖鉱石を武器に加工することを決断。クラーラやマフレナもそれに異論はないようで、その加工をジャネットへ依頼する――だが、その話を聞いた途端、ジャネットの表情が曇った。
「ああー……実は私、聖鉱石の加工はやったことがないんですよ」
「難しいのか?」
「かなり……あ、で、でも、うちの父なら経験があるはずです」
「ジャネットのお父さんって……確か八極のひとりだったわよね」
クラーラの言葉に、ジャネットは無言でうなずく。
ジャネットの父――《八極》鉄腕のガドゲル。
かつて、ローザやシャウナと共に帝国軍と戦って勝利し、世界に平和をもたらした英雄のひとりだ。
「……トアさん、お願いがあります」
「な、何?」
「しばらくの間、この要塞村を離れます。この聖鉱石を加工し、最高の武器をトアさんに贈るために!」
真剣な眼差しと口調でそう宣言するジャネット。
こうして、久しぶりの里帰りが決定したのだった。
◇◇◇
「またえらいモンを持って帰ってきたな」
故郷である鋼の山に聖鉱石を持って戻ったジャネットは、早速父ガドゲルに聖鉱石を見せ、加工を依頼する。
「トアさんはこの聖鉱石の力を利用できる剣が欲しいみたいで……できる? お父さん」
「…………」
娘を溺愛し、尚且つドワーフ族の中でも最上級の腕を持つガドゲルならば、この願いをすんなり受け入れると思ったのだが――
「ジャネット……そいつはできねぇ相談だ」
「えっ!?」
ガドゲルはジャネットからの願い出を断った。
「ど、どうして!?」
「ジャネット……聖鉱石の加工はおまえがやるんだ」
「わ、私が!?」
ジャネットだけでなく、周囲のドワーフたちも同様に驚いていた。
「私じゃまだ無理だよ!」
「何を言う。おまえの腕ならできる」
「で、でも……」
「それによく考えてみろ。こいつはトア村長へ贈る物だろう?」
「う、うん」
「だったら、尚更おまえが作った方がいい」
ガドゲルはドカッと近くにあったイスに腰を下ろして話を続ける。
「ゴランからも話を聞いているが……要塞村のトア村長は大層な人気者だそうじゃねぇか」
「! ま、まあ……」
「幼馴染にエルフに銀狼族――ライバルも多いそうだな」
「!! うぅ……」
「そのライバルたちが見ている前で聖鉱石の剣――聖剣を渡してみろ」
ジャネットが聖鉱石を加工して作った剣をトアに渡すことで起きることについて、ガドゲルは次のように想定した。
『わあっ! 凄い剣だ! ありがとう、ジャネット! 結婚しよう!』
「――いやいやいやいや! トアさんはそんな単純な人じゃないよ!」
「さすがにこれは出来すぎかもしれんが、トア村長のおまえに対する好感度はググーンと上がるだろう」
「ぐ、ググーン……」
ライバルが多いことに対してはジャネットも危惧していた。
エステル、クラーラ、マフレナ、そして自分を含めた四人は現在同盟を組み、トアに対しての抜け駆け行為を固く禁じている。だが、今回はトアからの依頼ということもあってその抜け駆け行為には当たらない。つまり、合法的にトアの好感度を稼ぐ絶好の機会でもあった。
「やるしかねぇよなぁ、ジャネット」
「……分かったわ、お父さん!」
ジャネットの瞳に焔が灯る。
トアのために最高の剣を生みだそうと、ドワーフ族ジャネットはかつてない気合とヤル気に満ちて父の工房へと足を踏み入れた。
――一週間後。
「わふわふっ! トア様! ジャネットちゃんが戻ってきました!」
フォルと共に一日のスケジュールを確認していたトアのもとへ、息を切らせながらマフレナが報告をする。慌てて要塞村の外に出ると、そこにはどこか誇らしげにも見える笑みを浮かべたジャネットの姿があった。
その手には薄茶色の布で覆われた細長い物体が握られている。
「トアさん……お久しぶりです」
「ああ。もしかして、その手にあるのが――」
「はい。あなたのために作った……聖剣――その名もエンディバルです」
ジャネットはトアの前に立つと、そう言って持っていた物から布を取り外す。その中身は言葉通り剣だった。それもただの剣ではない。
「す、凄い……」
その剣は、まるで神樹から放たれる魔力のような金色をしていた。朝日をいっぱいに浴びて輝く聖剣を手にしたトアは軽く素振りをしてみせる。
「よく手に馴染む……最高の剣だ。ありがとうジャネット!」
興奮気味に語るトアの様子を見て、他の村民たちも集まってきた。皆、金色に輝く聖剣を前に、ジャネットへ称賛や労いの言葉をおくっていた――が、
「…………」
当のジャネットはなぜか無言。
俯いたまま動かなくなっていた。
「? ジャネット?」
様子がおかしいことにきづいたエステルが顔を覗き込むと、驚くべき事実が発覚する。
「! トア! 大変よ! ジャネットが!」
「え? どうかしたの!?」
慌てた口調でトアを呼ぶエステルを見て、村民たちの間に緊張が走る。
「エステル! ジャネットがどうかしたの!?」
「……すっっっごい幸せそうな笑顔で気絶しているわ」
次の瞬間、村民たちは一斉にズッコケた。
とにもかくにも、サバイバル大会の優勝賞品で得た聖鉱石で、トアの新しい武器――聖剣エンディバルが誕生した。
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