第155話 大宴会の夜
※次回は木曜日投稿予定!
ズドォン!
強烈な砲撃音が辺りに響き渡る。
サバイバル終了が近づく合図の大砲の音だ。
しばらくすると、続々と参加選手が森から戻ってきた。それぞれのチームがカゴにたくさんの山菜を敷き詰めている。
「みんなかなりの数をゲットしているな」
「うちのチームはシャウナさんを探す時間もあってあんまりゲットできなかったんですよ?」
「ははは、それについては申し訳ないと思っているよ、ジャネット」
シャウナはライオネルたちの件を後で村長トアに報告をするつもりだが、余計な心配をかけるわけにはいかないと他の村民たちには伏せておくことした。
だが、約一名――シャウナの異変に気づく者がいた。
「シャウナよ」
「ローザ……」
かつて八極として共に戦った枯れ泉の魔女ことローザだ。
「あの獣人族の件じゃが……仮面をつけておったのはもしや――」
「……ライオネルだ」
「! やはりか……」
ローザは対峙した時にライオネルの正体に気づいていた。サバイバル参加の目的を問いただすために後を追っていたが、結局見失ってしまったのだ。
「この件をトアには?」
「報告はするつもりさ。彼の耳にも届けておいた方がいいと思ってね」
「ヤツらはなぜこのサバイバルに参加したのか……何か言っておったか」
当然、ローザが気になるのはその点だ。
「彼らがここへ来た理由はふたつ。ひとつは私を連れ戻すため」
「連れ戻す? あの獣人族の集落へか?」
「ああ。もちろんそれは丁重に断った。……だが、問題というか、ちょっと驚いた話があってね。実は――」
「あれ? おふたりともどうかしたんですか?」
ローザとシャウナが珍しく神妙な面持ちで会話をしていることで、何かあるのではと察したトアが声をかけてきた。
「トア村長……ちょうどよかった。この後の打ち上げ会で少し話したいことがある」
「悪いが、ワシらに付き合ってもらうぞ」
「え? え?」
有無を言わさず、トアは八極ふたりとの会談へ参加することとなった。
◇◇◇
「優勝は村長チームです!!!」
執事ダグラスが高らかに告げると、詰めかけた者たちから大歓声があがった。
「やりましたね、トア様!」
「結局、地道に集めるのが一番効率的ってことね」
「ああ。でもこれはチームでの勝利だ。さあ、表彰台へ行こう」
トア、クラーラ、マフレナの三人はエニス夫人から特製の勲章を授与され、さらに注目されていた豪華優商品が贈呈される――はずだったが、その商品についてはかなり大きな物らしいので後日村へ運ぶとのこと。
表彰式が終わると、屋敷のシェフ、さらにフォルやメリッサといった腕自慢たちによる山菜調理が始まった。屋外ではあったが、落ち着いて食事ができるよう、ありったけのイスやテーブルが設置されていく。ちなみに、サバイバルへ参加した者だけでなく、観客にも無料で振舞われるらしい。
「うははは! 今日は宴会だあああ!」
すでにほろ酔いとなっているチェイスの絶叫で、夜の大宴会がファグナス邸前で行われることとなった。
「さあ、みなさん! 僕やメリッサ様の作った山菜料理を召し上がれ!」
フォルがエステルたちのもとを訪れ、大皿を差し出す。そこには湯気が立ち、食欲を促す香ばしい匂いのする料理が盛られていた。
「わふっ! おいしそうです!」
「いただくわね、フォル」
「ホント……戦闘用のはずなのに、なんであんた料理が得意なのよ」
「もう趣味になりつつありますからねぇ」
エステル、クラーラ、マフレナ、ジャネットの四人は感想を口にするが、料理を食べると揃って「おいしい!」と瞳を輝かせていた。
周囲もうまい料理と酒の組み合わせが絶妙にマッチしたこともあってか、あっという間に要塞村でやっている宴会のごとく大変な盛り上がりを見せていた。
そんな賑わいから少し離れた位置のテーブル席に、トアとローザとシャウナの姿があった。
「さすがはファグナス家だ。惜しみなく出しているこの酒もかなりの上物じゃぞ」
「そういったところが彼の地位を不動のものにしている証だろうね」
「あ、あの……」
酒と料理に舌鼓を打つシャウナとローザに、トアは申し訳なさそうに声をかけた。
「おっと、すっかり本題からそれてしまったね」
シャウナはグラスに注がれた酒を飲み干すと、体をトアへと向けた。だが、意外にも話はトアの方から切り出された。
「シャウナさんが伝えたいのは、途中から離脱した獣人族チームの人たちについてですよね」
「ははは、さすがはトア村長だ。隠し事は通じないね」
笑ってこそいるが、シャウナの目の色は心から笑っているという感じには映らない。いつもの軽妙な調子を残しつつ、今からの話の根幹にあるのはとても真面目なもののようだとトアは構えた。
そんなトアに対し、シャウナは淡々と語っていく。
やってきたのはかつて住んでいた集落の仲間であること。その目的はふたつあり、ひとつは自分を連れ戻すこと。もちろんはそれは断ったこと。さらに、
「驚くべき計画を聞かされたよ」
「な、なんですか?」
「彼らは――ここファグナス領に新たな村をつくり、移り住む予定らしい」
「ええっ!?」
「前に住んでいた場所――ああ、別大陸なのだが、そこの治安が悪くなってきたようでね。新天地を探していたところ、私やこの要塞村の噂を聞いてその下調べに来たようだ」
「え? 要塞村の?」
別大陸にいる獣人族たちにも名前が知れ渡っていることに、トアは驚いた。
「意外かい?」
「ま、まあ……そんな大それたことをしてきたって実感がなくて」
「この顔ぶれだけで十分他の国でも話題になるくらい規格外な村じゃろう」
ローザがグラスに口をつけたあとにそう告げた。
何かをしたわけではないが、村民のメンツだけで要塞村の名は思わぬ広がりを見せているようだった。
「いつどこに村をつくるのかは未定らしいが、すでにファグナス殿にはこの件について話を通しているようだ」
「なるほど……て、じゃあファグナス様は正体を知っていたってことですね」
「そうなるな。それと、セドリックたちに勝負を挑んだのは、要塞村に住む者たちが噂通り強いかどうか確認するためだったらしい」
「へぇ……でも、そうなるとセドリックは災難でしたね」
「先ほど謝ったが、彼は腕の立つ獣人族がいると興奮していたよ」
「あはは、セドリックらしいですね」
「うむ。――ああ、そうだ。あの仮面の男についても教えておこう」
獣人族チームのリーダー的存在だった仮面の男。その正体についてはトアも話を聞いた時から気になっていたところだった。
「彼はライオンの獣人族で、名はライオネルという。私とは腐れ縁のようなものさ」
「ライオネル……」
「そうそう。以前、夜の要塞村で君に話したことがあったろう――ヴィクトールの誘いを断った者が三人いると」
「は、はい。覚えています」
「ライオネルはそのひとりだ」
「うえっ!?」
つまり、そのライオネルという人物は実力的に八極と肩を並べるほどの強さだということ。
「昔は《白獅子のライオネル》と呼ばれていてね。とても強いのだが、彼はその……ちょっとシャイなんだ。だから断ったんだよ」
「そうだったんですか……」
「たが……もし加わっていたら私の八極での活躍は霞んでしまっていたかもしれないな」
そう語るシャウナは昔を懐かしむように星空を仰いだ。
「また心強い味方が加わることになるのぅ」
ローザがいつの間にか酒でいっぱいに満たされたグラスを掲げながら言う。トアとしても、今回ほとんど顔を合せなかったので、正式に会える日が待ち遠しいと思った。
こうして、ファグナス家を舞台にした大宴会は、明け方まで続くのだった。
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