第154話 黒蛇の過去
※次回投稿は火曜日の予定!
「「うっ……」」
リスティとウェインはシャウナと面識がある。しかし、それは自分たちがまだ小さかった時のことで、開始前にシャウナが気づかなかったのはそのためだ。
だが、こうして正面から向き合って、ようやくシャウナはふたりの獣人族の正体を思い出したのだ。
「何年ぶりかなぁ……私が君たちに格闘術を教えていたのは帝国との大戦がはじまる前だからかれこれ二百年近く前かな」
「そ、そうです」
「お、おい、リスティ」
一歩前に出て、少し怒ったような口調で語るリスティ。ウェインが止めようとして手を伸ばすが、リスティはそれを振り払って続ける。
「ある日ふらっと町から姿を消したかと思えば、人間たちと共闘してなんか英雄みたいになっちゃって……私は、私たちはずっと帰ってきてくれるのを待っていたのに」
「リスティ……」
涙ぐむリスティ。
止めようと差し出した手で握り拳をつくるウェイン。
その涙に心当たりがあるのか、シャウナは神妙な面持ちとなった。
「黒蛇のシャウナ……」
一方、突然のシャウナ登場にタマキも動揺していた。
この世界に暮らす者で、黒蛇のシャウナを知らないという者は少ないだろう。もちろん、ヒノモト出身のタマキも知っていたし、要塞村にいると知った時は半ば冗談だろうという気持ちだったが、まさか本当にいるとはと今でも信じられないでいた。
「…………」
ここで、仮面の男が一歩前に出ると――装着していた仮面に手をかけるとなんの躊躇いもなく取り外す。直後、男の背中まで伸びる長い白髪が解き放たれた。
「ボス!?」
思わぬ行動に声をあげたウェイン。だが、シャウナは特に驚いた様子もなく、「ふっ」と小さく笑ってから男へと語り掛ける。
「やはり君だったか――ライオネル」
リスティやウェインと顔見知りだったこともあって、仮面の男も面識がある人物だろうと構えていたシャウナは、想像通りだった人物の登場にどこか安堵さえ感じさせる声色だった。
「え?」
その一方で、タマキは困惑していた。
タマキの想定では、シャウナとの面識があるということで恐らく相手は八極のひとりだろうと考えていた。しかし、現れた白髪の大男はこれまでに得た八極メンバーの外見的特徴と比べて誰にも該当しない。そもそも、ライオネルという名前自体に心当たりがなかった。
「少し痩せたんじゃないか? ふたりのお守で心労が絶えないってところかな」
「…………」
「そういう意味で言ったわけじゃないさ。その件については、私も悪いと思っている。だが、あの時はこのまま帝国を放ってはおけないと判断しただけだ」
「…………」
「そこを突かれると耳が痛いな。しかし、私とてなんの勝算もなく彼に力を貸していたわけではない。彼には優れた仲間が大勢いたんだ」
「…………」
「その通りだ。ふふ、君にはすべてお見通しということか」
「いやちょっと待って」
タマキは平坦な口調ながら、動揺がうかがえる。
シャウナ、白髪の男、そしてリスティとウェインの視線が一斉に向けられて一瞬怯むが、どうしてもここはツッコミを入れておかなければならないだろうと思い、呼吸を整えてから改めてシャウナに問う。
「どうして会話が成立しているのですか?」
「いや、どうしても言われても……なぁ?」
タマキの質問にどう答えたらいいものか分からないシャウナはリスティたちに助け船を求めるかのように視線を向ける。だが、他の三人も「何を言っているんだ?」みたいな表情でまともな返事はなかった。
「そっちの白髪の人は何も言っていないのに、どうしてシャウナ理解して話を合わせられるんですか?」
「ライオネルはシャイだから、あれ以上声のボリュームが上がらないんだ」
「ただの小声ってことですか?」
ちょっと呆れ気味にタマキが言う。
「そうだよ」
「……にしても、よく聞き取れますね、シャウナ様」
「やれやれ、昔のエステルみたいな口をきくな、君は。仕方がない。そこまで言うのなら、私のことを今後『シャウナお姉さま』と呼ぶと約束すればすべてを包み隠さず教えよう」
「……伝説の英雄は意外と面倒くさい人なのですね」
完全にシャウナペースに巻き込まれるタマキ。その様子を見たウェインから「変わっていないなぁ」とため息交じりの愚痴がこぼれた。
場が混沌としてきた中、リスティが口を開く。
「シャウナさん! 私たちの村に戻ってきてください!」
涙まじりの声が屍の森の中に響き渡る。
シャウナは深呼吸をしてからリスティではなくライオネルと呼んだ白髪の男へ尋ねた。
「君たちは私を連れ戻すためにこのサバイバルに参加したのか?」
「…………」
「何? それは本当か?」
「…………」
「! ふっ、君らしからぬ大胆な案じゃないか。まさか、それを知らせるために私を探していたのか?」
「…………」
「ははは、まあ、それはそうか」
「その一方通行会話なんとかならないんですか?」
ふたりのやりとりに慣れたのか、タマキのツッコミは淀みなく発動されていた。
ライオネル率いる獣人族チームは立ち去った。
リスティの質問――自分たちの村へ戻ってこないかという問いに対するシャウナの答えは「NO」だった。
「悪いね、リスティ。私にはまだあの村でやるべきことがあるんだ。あの村――要塞村の地下迷宮や遺跡には、私が村を出ていった原因を解決できるヒントが眠っているみたいだからね」
「…………」
「それにしても、あの泣き虫だった子ウサギがこんなに立派な成長を遂げているとはね。君の成長を間近で見られなかったのは残念だ」
「シャウナさん……」
「だが、そうした問題がすべて片付いたら……その時は、いろいろと考えるつもりだよ」
最後に、リスティの頭を優しく撫でると、頬を膨らませながらもリスティは深く頷き、シャウナの考えに一応は納得したようだった。
あとに残されたのは事態を呑み込みきれていないタマキとシャウナのふたり。
「あの、シャウナさん」
「なんだい?」
「あなたは……いつか要塞村を出ていくつもりなのですか?」
「…………」
タマキの言葉に、シャウナは何も返さない。
苦笑いを浮かべ、「うーん」とわざとらしく唸っている。
だが、その行動で大体の心情は察せられた。
シャウナ自身もまだ迷っている。
それが本音だろう。
「さて、タマキくん……悪いが、今日のことは他言無用で頼むよ」
「え? で、でも」
「私の今後にはついてはまだどうなるか分からない。さっき話した通り、私の目的が果たされた時どのような道を歩むかは……まあ、その時の気分次第だからね」
「……適当ですね」
「知らなかったかい? 蛇は気まぐれ者なのさ」
そう言って、シャウナはいつものように笑った。
「さて、ボチボチ帰るとしよう。ジャネットたちを置いてきてしまったので怒られるなぁ……どう言い訳しようか。一緒に考えてくれるね?」
「なぜ私が?」
「君もクレイブたちを放置してきたんだろう?」
「あ」
シャウナとタマキは肩を並べてチームメイトのもとへと急いだ。
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