第152話 怪しい獣人族

※次回は金曜日に更新予定!!



 屍の森西部。


「おお! その若さであのエノドア自警団の副団長を務められるとは!」

「それに美しいときている!」

「ふふふ、そんなにおだてても何も出んぞ?」

「いやいや、世辞なんかじゃないですよ!」


 地にあぐらをかいて座りながら談笑しているのはエノドア自警団Bチームのリーダーを務めるヘルミーナと港湾労働者組合チームの三人だった。

 山菜取り中に偶然居合わせた両チームは最初警戒し合ったが、話をするうちにだんだんと盛り上がり、今ではすっかりおしゃべりに夢中となっている。


「やれやれ……すっかり意気投合しちゃって」

「これは長くなりそうね」


 ヘルミーナのチームメイトであるエドガーとネリスはお互いため息を交えながら盛り上がるヘルミーナとマッチョな大男たちを眺めていた。


「それにしても……気にならなかったか?」

「何が?」

「あの獣人族チームだよ」


 エドガーが話題を振ったのは、このサバイバルに参加している中で唯一どの町村にも所属しない獣人族チームについてだった。


「この辺りじゃ見かけない顔だったわね」

「ウサギとカエルもそうだが、あの一番後ろにいたでっかい仮面のヤツ……前に似たような雰囲気のヤツにあったことがある――気がする」

「え? ……気のせいじゃない?」

「いや、たぶんそうじゃないかと思うような気がするんだ……」

「曖昧すぎでしょ。もっとちゃんと――」

「何ぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

 ふたりが会話をしている途中、ヘルミーナの大絶叫が森の中に響き渡った。


「ど、どうしたんですか、ヘルミーナさん!」


 慌ててネリスが声をかけると、ヘルミーナは驚愕に肩を震わせ、強張った表情である事実を語りだす。


「こちらにいるパーベル港湾労働者組合の方々は、密入国者を追ってこの大会に参加されたらしい」

「「み、密入国者!?」」


 思わぬ不穏なワードに、ネリスとエドガーの声が重なる。すると、港湾労働者組合のリーダーであるトニーと名乗る大男が、事情を説明し始めた。


「先日、うちの港に無許可の小船が停泊しているのを発見したのだ。調べてみると、中には人がいた形跡があり、まだ時間の経っていない濡れた足跡が近くの森へと伸びていた。近隣住民から、その辺りで見かけない獣人族を目撃したという証言も得ている」

「じゅ、獣人族って……まさか――」

「このサバイバルに参加している連中の可能性が高いってわけか」

「だったら、始まる前に声をかければよかったではないか。というか、なんであの連中がこのサバイバルに参加すると知ったのだ?」

「大きな混乱を招いてヤツらを取り逃がすわけにはいかなかったので……もちろん、すでにその件はファグナス様に報告済みだ」


 それでもファグナスがこのサバイバルを中止しなかったのは、要塞村のメンバーが大勢参加していたからだろう。

 トア、エステル、クラーラ、マフレナ、ジャネット、それに各獣人族の長に英雄八極からふたり――これだけでも、小国の軍勢くらいなら制圧できそうな濃さである。ゆえに、チェイスも不審人物がいたらあっという間に捕えるだろうと思ったに違いない。

 さらにトニーの部下が追加の情報を口にした。


「ヤツらが参加すると分かったのは、参加登録のために町長宅を訪ねた獣人族がいると秘書のマリアム殿から通報があったためだ。そのため、我々も一般参加を装い、ヤツらを監視しようということになったのだ」

「そんな込み入った事情があったとは……ふむ。では、我らも協力をしよう」


 事態を把握したヘルミーナがそう宣言する。


「え? し、しかし」

「乗りかかった船ってヤツよ」

「今の話を聞いて見過ごすわけにはいかないものね」


 エドガーとネリスも獣人族を捕えることへ協力を申し出た。


「あ、ありがとう、エノドア自警団の諸君」

「礼などいらんさ」

「そういうこった。これが俺らの仕事でもあるわけだしな」

「やることが決まったならその獣人族たちを探しましょう」

「うむ!」


 疑惑の獣人族チームを探すため、エノドア自警団Bチームとパーベル港湾労働者組合チームは一時休戦し、手を組むことになった。


  ◇◇◇


 屍の森南部。


「これで合計100点を越えましたね」

「それって高得点なのかしら」

「どうでしょうねぇ……他のチームの状況が分かりませんから」


 ローザをリーダーとする魔法使いチームのエステルとフォルは、順調に山菜をゲットしポイントを増やしていった。だが、ローザはふたりから少し離れた位置でそれを見つめている。


「ローザさん……何かあったのかしら」

「先ほどから空を眺めているようですが――っ!?」

「フォル?」


 サーチ機能になんらかの反応があったのか、フォルは振り返ると一点を見つめていた。さらに、気がつくとすぐ近くまで来ていたローザも同じ方向へ視線を送っている。

 すると、ふたりの見つめる方向から三つの人影がこちらへ向かって近づいてきた。


「おっと、次なるターゲット発見!」

「浮かれるな、リスティ」

「…………」

「見ろ。ボスもこう言っている」

「だから聞こえないって!」


 現れたのは獣人族チームだった。


「あなたたちは……」

「この辺りでは見かけない獣人族の方々ですね」

「およよ? あんたたちは確か魔法使いチームだよね?」


 ウサギの獣人族リスティがとぼけた感じで尋ねてきた――が、その手には鞘から抜かれた剣が握られており、戦闘態勢にあることが伝わる。それは隣に立つカエルの獣人族ウェインも同じだった。


「ヤル気満々とは……物騒な連中じゃのう」


 相手に戦う意思があることを悟ったローザはため息交じりにそう告げる。

 彼らは恐らく知らないのだろう――目の前にいるとんがり帽子の幼女が、実は八極のひとりである枯れ泉の魔女であるということを。


「ありゃりゃ、こっちはどうやら全員が戦闘要員みたいだね」

「ふむ。ならばさっきのエルフチームよりは手強そうだ」

「! え、エルフチームって……あなたたち、メリッサたちと戦ったの!?」


 エステルが声を荒げて尋ねると、ウェインが静かな口調で語り始める。


「実際に戦ったのはセドリックという男だけだが……まあ、うん。想定していたよりもずっと強かった」

「一対一だったら正直どうなっていたか分かんないよね」

「!? ま、まさか……セドリック様を――」

「殺してはいない。軽傷程度だ」

「あたしらの目的はそれじゃないしね」

「……ふざけた連中じゃな」


 ここで、ローザが一歩前に出る。

 どうやら、怒りに火をつけてしまったようだ。

 

 小さな体から放たれる強烈な魔力――それは大気を震わせ、肌が粟立つほどの緊張感を漂わせる。


「えっ!? ちょっ!? あの子ヤバくない!?」

「この強大な魔力……まさか……あんな小さな子どもが、伝説の枯れ泉の魔女なのか!?」


 さすがに動揺を隠せないリスティとウェイン。

 と、その時、ふたりの後ろに立っていた仮面の男が前に出る。


「真打ちの登場というわけか」


 ローザが杖を構えて戦闘態勢を取る――が、当の男はただ黙ってその場に立ち尽くしたままだった。


「な、なぜ何も言わないのでしょうか」

「失礼だな、甲冑兵! ボスはすでに話を終えているのにおまえたちがまったく反応を示さないだけではないか!」

「「「えっ!?」」」

 

 ウェインは無視しているというローザたちに憤怒しているようだが、男の話し声などまったく聞こえなかった。


「まったく、仕方がないな」


 ウェインは「コホン」と小さく咳を挟んでから、男の話した言葉を改めてローザたちに伝えた。


「ボスはこう言ったのだ。――『久しぶりだな、ローザ』と」

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