第151話 開戦
※次回は水曜日に更新予定!
「えー、それでは、開戦前のあいさつを主催者であるエニス・ファグナス様より頂戴したいと思います」
司会のダグラスはそう告げると、壇上にひとりの女性が上がる。赤を基調にした派手なドレスに身を包み、さらに金髪の縦ロールという全体的に派手な格好をした女性だ。
彼女こそ、チェイス・ファグナスの妻であり、このサバイバルの主催者――エニス・ファグナスであった。
報告のために何度かファグナス邸を訪れているトアやローザは顔見知りだが、それ以外のメンバーはほとんど初見だ。
その第一印象は皆同じであった。
若い。
この一言に尽きる。
「お、おいおい……レナード町長の実の母親ってことは確実に四十歳以上だよな?」
「そ、そのはずね」
「四十歳以上!? とてもそうは見えない……」
「信じられないな……」
エドガー、ネリス、タマキ、クレイブたちエノドア自警団組は全員が初見のため、その若さに唖然としていた。一度あいさつをしたことがあるジェンソンは特にノーリアクション。その横で、同じく初見のヘルミーナは困惑していた。
「……外見だけなら私より若い?」
二十代と言われても信じてしまいそうなエニスの容姿を目にしたヘルミーナの額から、大粒の汗が流れ出る。
一方、その衝撃的な容姿は要塞村や他のチームの面々も驚かせていた。
「みなさん、本日は私が企画したイベントにご参加いただき、ありがとうございます」
穏やかで静かなしゃべり方は、さすがは貴族夫人といった感じだ。
「早速ですが、各チームに得点表をお配りします」
エニスの合図で、使用人たちがチーム代表者に一枚の紙を渡していく。そこには、どの山菜を獲得すればいくつ加点されるかが記されていた。
「制限時間内にどれだけ集められたか、その合計点で勝者を決めます。終了時間を迎えるまでに現在の場所に戻ってこられなければ失格とします。終了時刻はそこにある大砲が放たれてから十分以内としますのでご注意を。とりあえず、重要事項はこんなところかしら」
説明は終わった――と、思いきや、
「あ、重要なことをひとつ言い忘れていたわ」
そう言って、エニスは最後に重要なルールをひとつ付け足す。
「各チーム同士での妨害はありですよ。もちろん、相手が採集した山菜を奪うというのも有効です」
それを耳にした各チームは騒然となる。
つまり、実力行使で奪ってもよいわけだ。
簡単なルール説明が終わると、チーム内では作戦会議が行われた。
「大物を狙って奥へ行きすぎると制限時間内までに戻ってこられないというリスクがつきまとうってわけか。近場でコツコツと点を重ねた方がいいかな?」
「何言っているのよ、トア。うちには秘密兵器があるじゃない」
「秘密兵器?」
配点表を見ていたトアがクラーラの方へ視線を動かすと、そこにはドヤ顔で胸を張るマフレナの姿が。
「銀狼族であるマフレナの嗅覚があれば、そこに記載されている高得点の山菜をピンポイントで探せるわ」
「わふっ! お任せください、トア様!」
自信満々のマフレナ。
これなら期待できそうだ。
「よし! なら、俺たちでマフレナを援護しながら山菜を収穫していこう」
「そうね。それが一番効率的だわ」
作戦は決まった。
あとは開始の合図を待つだけだ。
すべてのチームに配点表が行き渡ってから数分後。
「それではただいまよりスタートいたします」
ダグラスは参加者をスタート地点に集める。各チームの配点表にはそれぞれ最初にどこへ向かうかの指示が書かれている。トアたちのチームはスタート直後に真東へ向かうように記されていた。
選手たちが集まると、屋敷の周辺に集まった観衆たちから歓声があがった。
要塞村だけでなく、エノドアやパーベルの住人も大勢いた。
自警団チームや港湾労働者組合チームには応援団までできている。
「思っていた十倍くらい盛り上がっているなぁ……」
「イベントごとに飢えているんじゃない?」
「わふっ! なんだか楽しみです!」
トアたちのチームは程よく気合も乗ってきた。
コンディションがピークに達したと同時に、エニス夫人がスタートの合図となる大砲の導火線に火をつける。そして、「ドン!」と青空に砲弾が放たれた瞬間、九チームの選手たちは指示された場所へと散っていった。
◇◇◇
屍の森東部。
「わふっ! こっちにもありましたよ!」
「でかした!」
「えっと……あった! ゴールデンマイタケ! 得点は20点ね」
「これでトータル70点か……」
トアたちのチームは順調に点数を重ねていく。
だが、どれも小物ばかりで得点は低かった。中には100点を越える物もあるので、これを他のチームが大量に採集していたら太刀打ちできない。
「もっと大物を狙っていくべきか……」
「でもそうなると、森の奥へ行かなくちゃいけないわ」
「あまり奥へ行くと時間内に戻れないかもしれません」
「だよねぇ」
高得点を狙いたいが、それにはリスクも伴う。距離が遠くなるという点もあるが、奥へ行けば行くほどモンスターは強力になるのだ。トアたちの実力からすれば倒すこと自体問題ではないだろう。だが、耐久力の高いモンスターを相手にすれば、それだけ時間を取られることになり、採集の効率は大きくダウンする。
「……意外と奥が深いぞ、このサバイバル」
「そうね。ま、だからこそおもしろいんだけど」
「わふっ! わふっ!」
クラーラとマフレナは闘志全開。
すっかりこのサバイバルに魅了されていた。
要塞村の住人の中ではこういうノリにもっとも適したふたりだなぁ、と思うトアであったが――直後、気配を察知して戦闘態勢を取る。それはクラーラとマフレナも同じで、さっきまで浮かれた感じだったが、敵の接近を察して表情を引き締め、戦闘態勢へと移行していた。
そんな三人の前に現れたのは――
「ほう? 誰かと思ったら村長殿でしたか」
「! ジンさん!?」
ジン、ゼルエス、エイデンの三人で構成された親父チームだった。
◇◇◇
屍の森北西部。
エルフチームの三人は北西部で順調に採集を続けていた。
だが、そこに別チームが迫る。
「セドリック!」
「お姉ちゃん、下がって!」
飛び出していきそうになる姉メリッサを食い止める妹ルイス。
ふたりの視線の先には剣を杖のようにして跪くセドリックの姿があった。そんなセドリックの目の前にはふたりの獣人族が。
「ふーん、エルフ族ってあんま戦闘向きじゃないって聞いたけど、結構やるじゃない」
「安心しろ。殺しはしない。実力測定のようなものだ。しかし……我らふたりを相手にここまで粘るとは……恐るべし、エルフ族」
剣を持つウサギの獣人族リスティ。
巨大なハンマーを担ぐカエルの獣人族ウェイン。
そのふたりの背後には仮面の男が仁王立ちしていた。
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