第26話 地下迷宮を進め!
※本日は夜9時ごろにもう1話投稿予定です。
神樹前で合流後、トアたちは地下迷宮への入口へ向けて出発した。
場所は村の拠点となっている神樹近辺から歩いて十分ほど進んだ場所にある。近くには他よりも天井が高く、大きなテーブルがいくつも設置された部屋がある。恐らく、食堂になる予定の部屋だったのだろう。
「ここか……」
その食堂のすぐ脇に、例の入口は待ち構えていたかのように大きな口を開けていた。
「なんとも不気味な気配じゃな」
「今日は大人数だからそれほど気にはならんさ。昨日なんて四人だけで潜ったんだ」
現在のメンバーはテレンスをリーダーに各種族を代表した三名。それにプラスしてトア、ローザ、マフレナ、フォル、クラーラが加わった計八人だ。
「念のため確認しておきますけど、モンスターは出なかったんですよね?」
「ああ……ただ、かなり不気味な空間だ」
地下迷宮とは旧帝国の武器開発が行われていた場所でもある。
「ここが僕の生まれた場所というわけですか……」
フォルは感慨深げに呟いた。
「フォル……」
「ですが、今の僕は兵器ではありません。マスター……僕はあなたのパートナーです」
「……そうだな。頼りにしているよ、相棒」
「トア様! このマフレナもお忘れなく!」
「私がいることもね」
「もちろんだよ、マフレナ。それにクラーラも。みんな頼りにしているさ」
「かっかっか! 若い者は元気があっていいのぅ」
「まったくだ」
こうした和やかなムードのまま、一行は地下迷宮へと足を踏み入れる。
石段を一歩ずつ下がっていくと、やがて平たい道が現れた。
辺りに転がっている発光石のおかげで視界が閉ざされることはないが、だからといって決して広い空間ではないため、行動はしづらい。
「とりあえず、作業用にと持ってきたこいつをあちこちに設置していこうと思っている」
テレンスがリュックから取り出したのは発光石が埋め込まれたランプであった。これを街灯代わりにするという。
「名案ですね」
早速、トアたちは用意されたランプを取りつけていく。すべての作業が終了しても、まだまだ全容解明にはほど遠い暗さだ。しかし、最低限周囲の様子が探れるくらいには明るくなっていた。
「これなら薄暗さからくる不気味さもなくなるな」
「それでもやっぱりちょっと怖いわね」
「閉鎖空間が持つ特有の圧迫感は人の心に恐怖を植え付けるとも言います」
「わ、わふぅ……その話はあまり聞きたくなかったですよ」
クラーラとマフレナは地下迷宮の異様な気配に気圧されているようだった。
トアだって、決して快適な空間だとは思っていない。
「ここには……何かがありますね」
具体的に何がとは言えない。
あくまでも感覚的な話で、感じ取っている気配が生き物なのかどうかさえ不透明なものなのだが、確実に何かが潜んでいる――それが、その場にいる全員に共通する認識。
その時だった。
ガタンガタン!
「ひゃあああっ!?」
「わっふぅぅぅ!?」
物音に驚いたクラーラとマフレナは同時に飛び上がってトアに抱きついた。
「ちょ、ちょっとふたりとも!?」
エルフと銀狼族の少女の抱き枕と化したトアはなんとかふたりを落ち着かせようと必死に語りかける。
一方、テレンスをリーダーとする調査班メンバーとフォル、それからローザは特に物怖じせず崩れ落ちた箱へ視線を送っていた。
「あれもすべて旧帝国の物か」
「そのようですね。終戦後に連合軍が押し寄せてこの施設に関係する物を片っ端から持ち帰ったのでほとんど何もない状態のようですが」
「人間同士の戦争か……そういえば、百年くらい前はあちこちで争っておったな。最近はめっきり聞かなくなったが……」
「人はその期間を平和と呼ぶのです」
何やら哲学的な会話を繰り広げる熟年組。
クラーラやマフレナも、人間感覚では高齢なのだが、それでもローザやテレンスからすればまだまだ若輩者となる。年齢の感覚が狂いそうだな、と思うトアだった。
結局、この後も目立ったトラブルは起きず、入口付近に発光石を埋め込んだランプを設置したり、周辺を探索してみたりした。
「全体図によればかなり大きな地下空間だっていうのは理解していたつもりだけど、実際にこうして入ってみるとめちゃくちゃ広いですね」
「そうじゃのぅ……奥の方へいけば、さらなる発見があるかもしれぬ」
ローザとしてもこの奥の空間に潜む気配を感じ取っているので、とても気にはなっているようだった。
「だが、今のままでは人手不足は否めん。そこで村長、この地下迷宮を調査するために協力をしてくれる者を村から募りたいのだが」
「冒険者を募集するわけですね。分かりました。許可します」
かつては丸腰だったので反対だったトアだが、今はジャネットたち武器職人のスペシャリストたちが揃っている。この村でメンツを揃えるなら、どの種族の人を選んでも身体能力はかなり高い。そこに職人技で生み出された武器と防具があれば安心だ。
「感謝するぞ、村長!」
「やりましたね、班長!」
「おうよ! これで思う存分調査ができるぞ!」
テレンスだけでなく、他のメンバーも増員できることに喜びを爆発させていた。
相変わらず感情が分かりやすい人だとトアの顔から思わず笑みがこぼれた――まさにその時だった。
「! あ、あれ!」
最初に異変を察知したのはクラーラだった。
その震える人さし指が示す先にあるのは――宙に浮かぶ青白い炎だった。
「「「「「!?」」」」」
その場にいた全員が驚きに目を丸くする。
「ほ、炎?」
「……微量ながら、魔力を感じるのぅ」
メンバーの中でもっとも魔法に精通しているだろうローザも、目の前で起きている現象を正確に説明することができないようで、その小さな顔を一筋の汗が伝う。
「……聞いたことがあるわ」
重苦しい空気を裂くように、クラーラが口を開いた。
「エルフ族の間では時折目撃する者がいるとされる正体不明の青い炎……それは即ち、この世に未練を残して亡くなった死者の魂」
「し、死者の魂?」
「わ、わふぅ……」
なんとも気味の悪い話にすっかり怯えたマフレナはペタンと座り込んでトアの腰にしがみついたまま動こうとしない。
「お、おどかすなよ、クラーラ」
「あくまでも私たちエルフ族の間で知られている伝説よ。本当にあれが死者の魂かどうかは調べてみないと……」
そこまで言って、クラーラは口を閉ざした。
理由は明確。
調べる方法が分からないのだ。
「ともかく、もう少し近づいてみぬことには――」
ローザが青い炎の正体を探るため一歩前に出ると、炎に動きがあった。
一旦空中でピタッと止まったかと思うと、その直後に凄まじいスピードでトアたちのいる方へ飛んできた。
「! 来るぞ!」
テレンスが叫ぶ。
どうやって戦うのか、そういった細かい考えはあとにして、とにかく戦う姿勢をもって炎を迎え撃つ。
二メートルほどの距離まで近づくと、炎は突如ぐにゃぐにゃと形を変えて――半透明の少女の姿になった。
「なっ!?」
トアをはじめ、戦闘態勢にいる全員が突然の変化に絶句し、硬直。
「おじさまぁぁぁぁぁ!!!」
半透明の少女が口にした「おじさま」という単語。
この中で、おじさまというカテゴリーに属していそうなのはテレンスのみ。少女はテレンスの知り合いなのか――と、誰もがそう思っていたのだが。
「会いたかったですわぁぁぁぁ!」
「え? え? ぼ、僕ですか?」
半透明の少女がおじさまと呼んだのは――フォルだった。
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