第25話 地下迷宮調査結果

【訂正】前話に登場した新キャラ「ネリス」の性別が男になっていましたが、正しくは女の子です。なので、前回の話を一部改稿しました。すいませんm(__)m




 モンスター組の歓迎宴会から一夜が明けた。

 銀狼族の遠吠えから始まる要塞村の朝は活気に溢れている。

 神樹ヴェキラを中心に、かつては武器庫や会議室として使用されていた部屋をリフォームした住居から、次々の村人たちが出てきて朝の挨拶を交わす。ちなみに、モンスター組にはキシュト川での漁をお願いする予定で、今は浴場造りに参加しているうちから数人を借りてきて船などの必要道具を一緒になって作っていた。

 また、この要塞村へ住むにあたり、彼らからひとつ要求があった。

 それは――「名前が欲しい」というものだった。

 

「人は名前を付けることで個を識別する判断材料としています。それを、是非とも我らにもいただきたいのです」


 モンスター組のリーダー格であるオークからの依頼で、トアは近日中に名前を付けることを約束した。


「ここもだいぶ賑やかになってきたな」

「そうね。最初は私とフォルくらいしかいなかったし」

「そのあとすぐに私たちも合流しましたよ!」


 トアは井戸で水を汲みながら、クラーラやマフレナと他愛ない会話に花を咲かせていた。そこへ、ひとりの少女が近づいてくる。


「おはようごさいます、トアさん、クラーラさん、マフレナさん」


 眼鏡の似合うドワーフ族の少女――ジャネットだ。


「おはよう、ジャネット」

「おはよう」

「おはようございます!」


 いつもと変わらぬ朝の挨拶を終えると、ジャネットが眼鏡をクイッと指で持ち上げる。その顔つきは真剣そのものだ。


「あの、トアさん」

「うん? 何?」

「実は、テレンスさんたちがトアさんにお話しがあるそうで、先ほど探していたようです」

「テレンスさんが?」

「はい。それで、もし見かけたら自室にいるから声をかけてほしいとのことです」


 テレンスといえば、昨日の朝にジャネットが作った武器を渡して地下迷宮へと潜った調査隊の隊長だ。

 

「そういえば、昨日は戻ってきてすぐにいろいろとあったから地下迷宮調査の結果報告を聞いていなかったな。ありがとうジャネット。早速行ってみるよ」

「いえいえ。私は昼まで自室で執筆活動をして午後から工房に入る予定でいますので、もし何か用件がありましたら今言った場所にいますから」

「了解だ」


 予定では、夕方頃に戻るテレンスから、地下迷宮の様子を聞くはずだった。

 それを思い出したトアはクラーラとマフレナを連れてテレンスのもとを訪ねる。


「村長! 待っとったぞ!」


 部屋に入ると、やたらとテンションの高いテレンスが出迎えた。さらに、部屋にはもうひとり先客がいた。


「可愛らしい少女ふたりを侍らせてご登場とはのぅ……お主も偉くなったものじゃ」


 ローザであった。


「ローザさん? どうしたんですか?」

「どうしたも何も、ワシはこの要塞を研究しておった者じゃぞ? 地下迷宮の件が気になるのは至極当然のことじゃろう?」

「ま、まあ、それは……」

「そういえば、ローザさんって地下迷宮を探索したりしなかったんですか?」

「わふっ! それは私も気になっていました!」


 クラーラとマフレナにずいっと詰め寄られたローザはバツが悪そうにふたりから目を逸らして答える。


「……正直、地下迷宮はジメジメしていてあまり好かんのじゃ」

「そんな理由だったんですか!?」


 ただ単純に好きか嫌いかの問題だった。


「ともかく! テレンスが持ち帰った情報を皆で見ようではないか!」


 強引にパスを渡されたテレンスは「え? え?」と動揺しながらも昨日の探索で得たアイテムを机に出した。


「これは……発光石じゃないですか!」


 今度はトアのテンションがおかしいくらいに高くなった。


「発光石? 何ですか、それ」


 銀狼族には馴染みのない物であるらしく、マフレナは首を傾げていた。

 

「発光石っていうのは簡単に言うと暗闇を照らす光を生み出す石のことだ。特別高価な代物ってわけじゃないけど、ここで手に入るなんて……」


 月明かりだけでは光源が物足りないと感じていた。一応、たき火などをして確保をしていたが、それでは安全性に問題があった。しかし、これなら火事などの心配もない。


「発光石は比較的入口から近い位置にたくさん落ちておった。まだまだあるぞ」

「そうなんですか!? これをランプ代わりにして要塞内に設置すれば、夜でも快適に過ごせますよ!」


 興奮しながら発光石を握りしめるトア。

 だが、報告はこれだけではなかった。


「とりあえず、昨日は入口から近い位置を中心にしていろいろと探ってみたが……思っていたよりも深く、なかなか骨のある空間のようだ」


 そう語るテレンスの表情はどこか楽しげだった。

 まるで未知なる土地へ冒険に向かう少年のようだ。


「冒険――そうだ。まさにテレンスさんは冒険者ですね」

「冒険者? ……いい響きだ! 気に入ったよ、村長! 俺たちは今日から冒険者だ!」


 テレンスのテンションは頂点を越えて大爆発。

 渾身のガッツポーズと雄叫びで喜びを表現していた。


「大袈裟なおじいさんね」

「わふふ、テレンスさんっていつもはクールな感じなので、これだけ賑やかな人だったとは驚きです」


 クラーラはちょっと呆れ気味に、マフレナは楽しそうに言う。

 一方、トアとローザはテレンスの戦利品に興味津々。

 

「のぅ、テレンス……今日も地下迷宮に潜るのか?」

「その予定だが」

「だったら、俺たちもついて行っていいですか?」

「えっ!? 村長とローザ殿もか!? い、いや、ふたりが加わってくれるのなら心強いのは確かだが」


 それが偽りない本音だった。


「なら、私もお供するわ」

「わふっ! 私も行きたいです」

「では僕も行きましょう」


 いつの間にか部屋にいたフォルも参戦を表明した。


「あんたいつからそこにいたの!?」

「神出鬼没が僕の取り柄ですので」

「そんな取り柄はゴミ箱にでも捨てなさいよ!」


 フォルの登場に一番驚いていたクラーラが抗議の声をあげるが、他の者たちはそれを無視して話を続ける。


「では、今から十分後に神樹前で落ち合うとしよう。それぞれ、自分に合った武器を持って集合だ」

「「「おー」」」


 こうして、クラーラとフォルの意向を一切汲み取らないまま、トアたちの「冒険者」としての戦いが始まろうとしていた。

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