第16話 鋼の山の住人
「うおおおおおお!!」
まず先制したのはトアだった。
体長三メートルを優に越えるゴーレムの頭上まで跳躍すると、落下の勢いを利用して剣を突き立てた。ゴーレムの頭頂部を捉えた剣先が深く刺さり、振り解こうと頭を振るが、トアは必死に食らいついて手を放さない。
「このっ!」
ゴーレムの圧倒的パワーにも怯まず、そのまま真横に剣を振り抜く――その結果、ゴーレムの首が宙を舞った。
「はあ、はあ、はあ……」
荒れる呼吸を整えて、トアはギュッと拳を握る。
強くなっている。
それも――これまでより数段上のレベルで。
「それだけの腕があるなら最初から言いなさいよね」
「トア様……素敵です!」
「いや、そんな――て、二人とも、ゴーレムは」
「倒したわ」
「倒しました」
「早っ!?」
強くなっている自分に若干酔い気味だったトアであったが、その酔いも一瞬で吹き飛んでしまった。そう思うと、なんだか急に恥ずかしくなってくる。
「……コホン。お、襲われていた人はどうなったんだ?」
咳払いを挟んでから、トアはゴーレムに襲われていた人物へ視線を向けた。
「す、すまねぇ、助かったぜ」
襲われていたのは男性だった。
しかし――髭を蓄えたおっさん顔でありながら、その体はかなり小柄だ。小柄というか、子ども並みであった。
「ま、まさかあなたは……ドワーフ族?」
「そうだ。俺は鋼の山に住むドワーフのゴランという者だ」
ドワーフ族といえばモノ作りのスペシャリストだ。
武器から建築物まで作ってしまう種族として有名である。
人間たちはその器用さを利用しようとドワーフ族を取り入れたがっているが、そうした邪な感情に敏感なドワーフ族たちは滅多に人間へ力添えをしたりしない。なので、ドワーフ族は人間が寄りつかないこういった辺境の地をねぐらとしていることが多いのだ。
「最近になってここら辺にある神樹ヴェキラが復活したという噂が出たんでな。一族を代表して見に来たわけだが……あんたら知らんか?」
「神樹ヴェキラ? ああ、それはなら俺たちの村にありますよ」
「村? ……ここは人間たちの間じゃ屍の森と呼ばれて恐れられていると聞いたが――うぅん? もしかして、エルフ族に銀狼族か!」
「そうだけど?」
「わふっ! その通りです!」
クラーラとマフレナがそれぞれドワーフ族同様に特異な能力を持った種族であると知ったゴランのトアを見る目が変わった。
「あんた……一体何者だ?」
「え?」
「ただの人間のようだが、だとしたらなぜエルフに銀狼族といった種族を連れ従えているのか……弱みでも握っているのか?」
「失礼ね。トアはそんなことしないわよ!」
「そうです! 私たちは望んでトア様といるんです!」
断固抗議するクラーラにマフレナ。
それでも、ゴランは信じられないといった様子。
「さっきあんたは『神樹は自分たちの村にある』と言ったな? ということは、人間たちが神樹をよみがえらせたのか?」
「いや……たぶん原因は俺ひとりだと」
「っ! ば、バカな! あり得ん! あり得るわけがない! 人間の中でも最高位の魔法使いと言われるあの《枯れ泉の魔女》でさえ、何十年とかけて研究を進めてきたがどうすることもできなかったというのに!」
「その魔女さんでしたら今うちの村の住人になっています」
「…………」
いよいよ喋ることがなくなったのか、ゴランは沈黙した。
「あの……とりあえず、僕の村へ来ますか? 怪我の治療もしないと」
「僕の村、か。まるで村長みたいな言い方をするのだな」
「トアが村長よ」
「村長さんですよ!」
「……もう驚き飽きちまったよ」
苦笑いを浮かべたゴランは脱力しきってそう呟いた。
◇◇◇
ゴランの怪我の治療を行うため、トアたちは狩りを中断して一旦村へと戻った。
「こ、こいつは驚いた……あの廃墟がここまでになるか」
要塞村を訪れたゴランはその活気に唖然とした。
廃墟同然で朽ち果てていた無血要塞ディーフォルは、トアのリペアとクラフトによって見違えるほど綺麗に生まれ変わっていた。
それだけではない。
ゴランをもっとも驚かせたのは、要塞村の住人たちであった。
銀狼族、王虎族、大地の精霊――それぞれがS級種族であり、通常ならば互いの存在は知っていても接点など持たない。それがどうだ。この要塞村ではそれぞれの種族が協力をし合い、立派な村として成り立っている。
「か、簡単に人間へ靡かない連中ばかり……ほ、ほほ、本当に人間のあんたが村長なのか?」
「あ、ああ、まあ、はい」
ゴランの動揺がうつったのか、トアもなんだか現状が信じられなくなってきた。
そこへ、さらに混乱を招く存在がやってくる。
「なんじゃ? 早い帰りじゃったの」
あくびを噛み殺しながら話しかけてきたのはローザだった。
途端に、ゴランの態度が急変する。
「っっ!? か、枯れ泉の魔女殿!」
「うん? なんじゃ、ドワーフか。……そういえば、この近くに鋼の山があったか」
「は、はい! し、しかし、なぜあなたのような御方がこのようなところに?」
「なぜも何も、今ワシはこの村に厄介となっておる。そこにおるトアという少年がここの長をしているが、その長から許可もちゃんと得ておるぞ」
「!?!?!?!?!?!」
あっけらかんとした態度で言い放つローザの態度に、ゴランの思考はパンク寸前にまで陥っていた。
冷静になってみれば、王国聖騎隊の教本に記載があるほどの偉人であるローザとこうして当たり前のように接しているのは相当凄いことなのだ。これまで、仕事ばかりを考えてきたトアは改めて自身の周りで起きている事態がとんでもないことなのだと認識した。
同時に、それを楽しんでいる自分がいるとも知れた。
先ほどの戦闘も含め、自分が変わりつつある――そう実感した。
「なんだか嬉しそうじゃのぅ、トアよ」
「っ! そ、そうですかね?」
自分でも気づかないうちに表情へ出ていたらしい。
「て、あ、あれ? ゴランさんは?」
「フォルが治療のため連れて行ったぞ。ああ、それと、ゴランは――というより、ドワーフ族は神樹ヴェキラに興味を持っているようじゃ」
「俺もそれは本人の口から聞きました」
「……鋼の山に住むドワーフ族とは付き合いが長い。ここ数年は音沙汰なしじゃったが、基本的には話の分かる気の良い連中じゃ」
「なら……友好関係を結べそうですね」
トアはこの出会いを機にドワーフ族とのつながりを持とうと考えていた。これについてはローザも賛同する。
「あやつらとならワシも面識があるし、銀狼族や王虎族、それに精霊たちともうまくやっていけるじゃろう。話をしに行くならワシも同行するが?」
「是非お願いします」
こうして、トアはローザを連れてドワーフ族のゴランのもとへ向かった。
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