第14話 精霊族の条件
トアとローザは要塞村へ戻ってから精霊たちの受け入れについて話し合っていた。
ちなみに、クラーラとマフレナは警備の仕事へ就いている。
「さて、精霊側から提示された条件じゃが……作った野菜を村のみんなに分け与えることには同意をしてくれたのじゃが、その際、見返りが欲しいとのことじゃ」
「見返り……」
「難しい話じゃない。簡単にいえば物々交換をしようという提案じゃ」
なるほど、とトアは理解を示した。
フェルネンド王国王都では貨幣や紙幣が流通しているが、ここではそのような物は存在していない。今はまだ小規模だから助け合いの精神で運営が可能となっているが、これから村人が増えていくとなるとそれは難しくなるだろう。
だからといって貨幣などの類は銀狼族や王虎族たちには縁がないだろうから、浸透するまで時間がかかるだろう。
なので、地の精霊たちの物々交換という提案はむしろ歓迎すべきものだとトアは感じた。
「もらう一方というのは確かによろしくないですからね。狩りで得た肉と交換という形でやっていきましょう」
「ワシもそれがいいと思う」
「じゃあ、その線で――というより、よく精霊族がこの要塞村へ移住してくれる気になりましたね」
「あやつらも命の長い種族じゃからなぁ。あそこでの野菜作りに張り合いのなさを感じていたようじゃ」
「張り合いのなさ?」
「食べてもらう相手が欲しかったということじゃ。その見返りとして、自分たちの知らない物事に触れてみたいと思った……そう語っておったぞ」
「体だけじゃなくて好奇心も強い種族みたいですね」
「そういうことじゃ。それに、神樹が復活し、高質の魔力を得られるようになったというのもあやつらがここへの移住を決めた要因のひとつじゃ」
「魔力が?」
「精霊族は魔力を吸収して糧とするからのぅ」
「へえ~」
何はともあれ、これで要塞村の野菜不足は解消する。
と言っても、今のところの消費者はトア、クラーラ、ローザの三人だけだが。
しかし、物々交換による物の流通という提案は、今後もいろんな場面で活用されそうだ。
「村の掟みたいなものを定めておいた方がよさそうですね」
「うむ。それがいいじゃろうな。幸いにも、ここにおる住人たちは互いに協力をし、種族同士を尊重し合っているため険悪なムードがあるわけじゃない。……まあ、お互い訳ありでここに辿り着いた者ばかりじゃから、事情を察せられるのじゃろう」
長い間、魔力供給が断ち切られて動かぬ鉄クズとなっていたフォル。
故郷を失い、放浪の旅を続けてきた銀狼族と王虎族。
他種族との関わりを求めていた精霊族。
村長の家をぶっ壊して森を追い出されたクラーラ。
……最後は何か違う気がしないでもないが、それぞれ事情があってこの要塞村へとたどり着いていることは事実だ。
「……俺、頑張ってここをいい村にしますよ」
「期待しておるぞ、村長よ」
《枯れ泉の魔女》として世界大戦を駆け抜けた英雄の一人からエールをもらい、トアは誇らしい気持ちになった。
聖騎隊に入って村を滅ぼした魔獣を倒す――その夢は叶わなくなってしまったが、ここでの新しい仕事に精を出していこうと気持ちを切り替えていた。
(父さん、母さん、それに村のみんな……誓いを守れなくてごめんなさい)
トアは心の中でそう呟いて、精霊たちに移住後の挨拶をするため、住処となる場所へと向かった。
◇◇◇
地の精霊たちの住処はトアたちが住居として利用している部屋よりも、大きめに改装したものだ。通常だと家族持ちの者が使用するほどの広さだが、精霊たちはここで八人が共同生活を送ることになっている。
「素敵な部屋なのだ~」
精霊たちをまとめる長のリディスは満足した様子だった。
「村長殿~、感謝するのだ~」
「気に入ってもらえて何よりだよ」
ふよふよと空中を漂うリディス。
ゆるふわウェーブの緑髪は、まるで水面を漂う葉っぱのように揺れ動いている。
「……随分とのんびりした長ですね」
「地の精霊は大体みんなあんな感じじゃ」
ローザの言う通り、長以外の七人も似たように空中を漂っていた。
「それじゃあ早速畑仕事を始めるのだ~」
「「「「「「「おお~」」」」」」」
なんともゆるゆるしたかけ声を放つリディス。地の精霊たちはそんなリディスのあとを追って部屋を出ていった。
「だ、大丈夫かな」
「心配ならばついていけばよい。あやつらの仕事ぶりが分かるはずじゃ」
「は、はあ……」
「では、あとは任せたぞ。ワシはちょっと寝てくる」
そう言い残して、ローザはさっさと自分の部屋へと戻っていった。
「そういえば前に一ヶ月寝ていたって言っていたなぁ……あんまり遅かったら起こしに行った方がいいのかも」
しばらくは様子見をしようと結論を出して、トアは精霊族の働きぶりをこの目で確かめるため、彼女たちの職場へと向かった。
地の精霊たちが働く場所――農園は要塞村にある彼女たちの部屋からすぐ近くの場所に作られていた。
「ここか……」
すでに土は耕されており、畝が出来上がっていた。しかもその数と長さが半端ではない。理由はトアたちが入手している種がある野菜の他にも、精霊たちが独自に野菜を作ろうとしているものがあるからだが、さすがにこの規模は予想以上だ。
「畝の数……軽く五十はあるぞ……しかも一つ一つがかなり長いし」
あまりのスケールに呆然と立ち尽くすトアのもとへ長のリディスがやってくる。
「村長~、いらっしゃいなのだ~」
「やあ、リディス。凄い規模の畑だね」
「そうでしょうか~」
リディスの反応は意外なものだった。
「いや、かなり広いでしょ、この畑」
「我々の計画ではもっとも~っと大きくする予定なのだ~」
「そうなのか? でも、あんまり大きくしすぎると、モンスターに荒らされたりするんじゃないかい?」
「モンスターごときに我々の畑は好きに荒らさせないのだ~」
そこはのんびり屋でも地の精霊。おそらく秘めた実力は要塞村の中でもトップクラスに位置づけられるだろう。トアはその愛らしい見た目とのんびりした性格ですっかり忘れていたのだが、目の前で宙を漂っている存在は、大地の加護に守られた精霊たち。本来ならこうして口を利くことさえ叶わないのだ。
「そう考えると……俺って今、結構凄いことしてる?」
「どうかしたのか~?」
「あ、い、いや、こっちの話ですよ。それで、収穫にはどれほどかかりそうですか?」
「一番早くて明日なのだ~」
「なるほど、明日ですか――明日!?」
とんでもない超スピードだった。
しかし、地の精霊たちはむしろ「何をそんなに驚いているんだ?」といわんばかりにカクンと首を傾げていた。
「わ、分かりました。じゃあ、村のみんなにも物々交換の件は話しておきます」
「よろしくなのだ~」
「ああ、それから――今日の夜、歓迎会を開こうと思うので、夕方くらいになったら要塞村の方に来てくださいね」
「分かったのだ~。ありがとうなのだ~」
トアが発案した歓迎会を、精霊たちは喜んでくれたようだった。
「さて……俺はリペアとクラフトで要塞の改装作業に取りかかるとするか」
新たに加わった仲間の働きぶりに触発されて、トアは自らの仕事へ精を出すため要塞村へと戻った。
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