第19話 三男が 奴隷使って 悪巧み
おかしい……
おかしいぞ……
何がおかしいかって、研究室で造魔の研究をしていたらいつの間にか13歳になっていた事だ。
まるで不思議な時空に飲み込まれたかのように、あっという間に時間だけが吹っ飛んでいった。
この2年ほどで
その後はそれまで研究室で一度も見たことがなかったチャラチャラした伯爵家の坊っちゃんが看板になり、そいつもこの間王都へと招聘されていってしまった。
研究のけの字も知らないような人材を引っこ抜いてどうするんだろうか……
まぁ、そいつがいなくなったところで、晴れて
適切な看板がいなくなったし、これからは王都の研究室がバリバリ進めていくらしいから、学生研究の範疇ではなくなったということもある。
正直ホッとした。
ようやく解放されたんだからな。
これでしばらくは呑気に芝居見たり食べ歩きしたり、楽しい放課後生活を送れる……はずだった。
だがしかし、有り余る才能は、俺につかの間の休息すらも許さなかったのだ。
「できてしまった……」
「これはまた新機軸だねぇ、魔結晶なしで造魔を作り出せるとは……」
できたのは
期せずして低コスト化の先に突き抜けてしまったのだ。
造魔がスマートフォンなら、これの性能は鉱石ラジオぐらいのもんだが、自分のあまりの才能にちょっと怖くなってしまうところもある。
「これ、さすがに表に出せないですよね……」
恐る恐るマリノ教授に聞くと、教授は首を横に振った。
「そんなことはない、学問に禁忌などないよ」
「でも、もう責任者を引き受けてくださる方はいませんよね?」
「いないならば、呼んでくればいい。心配しなくていい、君の
「あ、ありがとうございます……」
マリノ教授のその言葉にホッとした俺は、研究室の床にへたり込んでしまった。
こんな技術、誰がどう見たって
功績とは、その中身が大事なんじゃない。
誰が受け取るかが大事なんだ。
貴族がいたずらにつつけば物理的に弾け飛ぶような平民には、過ぎたもの……というか許容量を超えた功績なんだよな。
残念なことにこの感覚を持っている貴種ってのは、教育者以外にはあんまりいない。
だから平民は魔法使いを徹底的に避けるんだ。
怪物に人間の倫理は通じないからな。
研究室の事はマリノ教授に任せておくとして、俺は俺で金儲けをしなきゃいけない。
長年の夢である、マイ劇場建造計画。
今やそれは俺が細部に凝りすぎたのか、とてつもない予算を必要とするものになっていた。
なら、慎重派の俺だってちょっとぐらい危ない橋を渡らないとな。
「きちんと目張りをして、外から見えないように出入りしろ。間違っても近辺の者に悟られてはいかんぞ」
「メンチさん、土が溜まってきました」
「土は冒険者班が少しづつ外に捨ててくること。ゆっくりでいい、バレないようにやれ」
元漬物工場である
その中では、秘密の工事が行われていた。
魔結晶なしで動く造魔が作れるならば……
周囲の魔素を取り込んで、魔結晶を生成する造魔も作れるよな?
つまり、今作っているのは魔結晶プラント。
いや、魔素を吸って魔物を生み出すという仕組み的にはダンジョンと一緒だから、人造ダンジョンという事になるかな。
造魔を孵化させる魔素を川向こうのダンジョンから引いてくる予定だから、真ダンジョンになるのかもしれんが、まぁどうだっていいことだ。
とにかく大事な事は買えば高く、取ってくるのも大変な魔結晶を無尽蔵に手に入れられるという事だ。
これは笑いが止まりませんよ。
劇場にも高価な魔具の舞台装置を作りまくってやるからな。
おっと、また予算が必要になってしまったな。
これは奴隷をもっと働かせないとな。
「坊っちゃん、魔法が切れたぜ」
「おお、おつかれ」
ヘルメットを被って土に塗れた姿の魚人族のロースに、身体能力強化の魔法をかけてやる。
ぞろぞろとロースの後ろに続く奴隷たちにも同時にかけた。
この、複数の相手に再生や強化をかけられる手法は自分で見つけたんだ。
学校でも教わってないから一般的じゃないのかもしれない。
冒険者奴隷が増えてきて、いちいち再生するのめんどくさいなーって思って、魔力を蒸気にするイメージで部屋に満たしてみたらたまたま上手くいったんだ。
今じゃあ魔力の形は自由自在だ。
蒸気にしちゃうと効率が悪いから、今は網みたいな形にして奴隷たち全体にかぶせてる。
やはり天才だな。
「よぉーし!力湧いてきたぞ!」
「おぉ!」
「もうちょいやるか!」
そんな奴隷たちは今、工場の地下20メートルほどからダンジョンに向けてひたすら横穴を掘ってくれている。
空気の問題は、こないだ発明した魔結晶なし造魔で解決した。
小さいプロペラを回す形のものを大量に作り、竹のダクトに仕込んで大量に配置したんだ。
ほんとはトンネル掘りも造魔にやらせたかったけど、さすがに崩落したら中の奴隷が全員死ぬからな。
安全第一で人力作業だ。
「あんまたいしたもんでもないけど、酒差し入れしといたから今日も頑張って!」
「おお、酒かぁ!ありがてぇや」
「お酒だぁ!」
「やるぞー」
奴隷達は絶対服従とはいえ、やはりモチベーションの維持には細心の注意を払わなければな……
前世の会社の役員は調子こいて下をいびり過ぎてホームから電車に突き落とされたんだ……
俺も上に立つ側に回った今、明日は我が身だ。
奴隷に酒を差し入れたり小遣いをやったところで、俺にとっては端金、惜しまず使わないといかん。
この間金をかけて喫茶店なんか作って
もっと色々考えて、少しづつでもガス抜きをしていかなければな……
全く、人を使う側ってのも、なってみるとなかなか大変なもんだぜ。
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