第5話 奴隷商 俺にとっては デパートだ

俺の経営する冒険者パーティが二人体制になって半年ほど経った。


いつの間にやら俺も11歳。


魔導学園の卒業は最大18歳まで引き伸ばせるとはいえ、卒業したらしばらくブラブラできるぐらいの纏まった金がないことには安心して学問にも打ち込めない。


俺は心配性なんだ。


世の中には絶対というものはない、齧っていたスネが牙を剥くという事もありえるからな。


金持ちになるのに早すぎるということはない。


ま、とにかく1つ年も食ったことだし、心機一転でしっかり稼いでいかないとな。


というわけで今日はピクルスを連れて、久々の辛気臭い奴隷商館へとやってきた。


さすがにもうピクルスも、自分が売られるだのなんだのと騒ぐこともない。


「どんな子がお仲間になるんですかねぇ」なんて気楽なもんだ。


だいたい俺が手に入れた奴隷を売るなんてよっぽどのことだ。


なんせ奴隷には、そいつが金が稼げるようになるまで、治療や生活費、あとは教育費なんかで頭が痛くなるような大金をかけているわけだからな。


俺からすれば、労働者に対しては教育こそが最大の投資なんだ。


俺の基本方針は『他人を鍛える』だからな。


教育……投資……


実費で受けさせられた資格講習……


受かっても上がらない給料……


うっ、頭が……


……まあいい、とにかく奴隷はどれだけ投資しても一身上の都合により退職することはない。


この世界にも労基署的な場所はあるが、やつらが奴隷にかかずらう事などない。


つまり一度の教育で育った社員が文字通り死ぬまで勤めてくれるわけだ。


そのうち頭脳労働の奴隷を育ててどこかに派遣とかしてみるか?


冒険者奴隷は手軽だが上がりが少ないからな、当たれば大きいが……




「サワディ様、奴隷の準備ができました」




おっと、今は奴隷を見ようか。




「それじゃあ見せてもらおうかな」




商館長のペルセウスが華麗に一礼すると、丁稚が欠損奴隷達を並べていく。




「ロースです、17歳、元冒険者、片腕と片目がありません」




赤毛を逆立たせた気の強そうな魚人族の女だ、右腕が肩口からなく、残った左目で眼光鋭くこちらを見定めている。




「チキンです、14歳、元商家の丁稚でした、先に錬金術師に買われて内臓がいくつかないとのことです」




椅子に座らされた矮躯で丸刈りの人族の女だ、青い顔に荒い息でつま先を見つめている。


多分そう長くないな。




「フィレです、16歳、元家事手伝い、いくつか骨が曲がっていてまともに歩けません」




16歳には見えない老婆のような羊人族だ、目の奥に闇の魔術痕が顕著に見られる、これは無理だな。




「メンチです、18歳、元正規兵、全身に火傷があります、左腕もありません」




こいつも死にかけだ、焼け焦げてて種族もわからん。




こりゃあ俺がなんでも治せると思って、まともな奴隷を安く仕入れるバーターで駄目そうな奴隷を引き受けてきたんだろうな。


まぁいいか、その分俺も安く買えるわけだしな。




「あの羊人族以外全部買うから、値引きしてくれよ」


「チキンもよろしいのですか?ギリギリなのですが……」




奴隷商も一応死にかけてる本人の前では『何がギリギリ』とは言わないんだな。




「学校の実験じゃあ引き抜いた背骨をそのまま再生したこともある」


「それは……いやはや、このペルセウス、恐れ入りました」




結局奴隷3人を財布の中身の二分の一ぐらいで買えたのでホクホクだ。


歩けないチキンとメンチは、ケンタウルスのピクルスの背中に載せて帰ることになった。


大幅増員だ、これからも他人をガンガン鍛えでビシバシ稼ぐぞ~!!




ーーーーーーーーーー




ダークな世界観はだいたいフレーバーなので。


主人公達のまわり(だけ)は平和なので。


ゆるふわです。

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