第6話 実るほど 調子を上げる イキりかな

私が所属している研究室に、とある問題児が入ってきた。


サワディ・シェンカー、11歳の男。


男性なのに攻撃魔法の適性が下限を割ったという話だが、それだけならばまだいい。


魔法自体に適正のない者も毎年一定数存在するからな。


問題はこの男が、援護支援魔法にかけては上級生を含めても主席クラスの実力を持つことだ。


火焔弓の魔法でも藁束1つ灰にできないくせに、死刑囚を使った回復魔法実習では再生困難な背骨を丸ごと再生させたという逸話を持つ。


正直言って生まれてくる性別を間違えたとしか思えない。


まあ女に生まれていれば、それはそれで神聖救貧院 こじきどもの聖女候補にまで上がって苦労したかもしれんがな……


とりあえずは問題児といっても、性別と適正が問題なだけで大したことはない部類なのが救いだ。


生き人形のムドランや美食家ガードリィみたいな本気でやばい奴らはさすがに手におえんからな……


だが重要なのは、その問題児の指導担当がこのクリス・ホールデンだという事だ。


私が指導するからには、これからの数年を滞りなく過ごしてもらわなければ困る。


ゆくゆくは研究者として王都に登るつもりのこの身、問題児に経歴を傷つけられてはかなわんからな。




「む、来たか」


「先輩、おはようございます」




問題児は定刻通りにやって来た。


前回挨拶に来たときも定刻通りだったな。


家族にお高い懐中時計でも持たされているのだろうか?


私も鳥の彫り物の入ったやつが一つ欲しいのだが……父にねだっても誕生日まで待てという。


どうも女心の機微のわからぬ父だ、それだから母にも愛想をつかされるのだ。


おっと、思考が逸れたな。


私の反応を待っていたらしい問題児を研究室の一角へと案内し、机を挟んで向かい側に座った。




「そういえば、なぜ造魔研究を志望した?」


「安い労働力に興味がありまして」


「ふむ、そうか、商家の出だったな」




率直な人間は好みである。


何より商家は目的がはっきりしていて理解しやすい。


造魔術はそう簡単に金に変えられるようなものではないが、物見遊山気分の特待生などよりはよほどましだ。




「いいか、今日は基礎中の基礎、ホムンクルスの造り方を教える。すべての研究はこれが独力で作り出せるようになってからだ」


「はい、先輩」


「まず平底の試験管を用意する。これに素材を積層していくからな」


「はい」


「アサガオ、毛ススキ、ヘチマ水」


「アサガオに、毛ススキに、ヘチマ水をかけまわす」




一生懸命私の真似をしているが、そう簡単なものではない。


何度も失敗して覚えるのだ。




「小麦粉、ドブネズミの心臓、魔結晶」


「魔結晶は何でもいいんですか?」


「最低ランクでいい、これも草食み狼のものだ」


「なるほど」




しっかりとメモを取っているな。


感心だ、最近はメモも取らず思い込みで失敗する学生も多い。




「続けるぞ。精製塩、飛び百足の血、シナモン、竜髭花の根っこ、白砂糖」


「ふむふむ」


「そして上から蒸留水をかけ回し……融合魔術をまっすぐ入口から底へ。次に下から左回りで8の字を描くようにし、底から入り口へ」




私がそうすると試験管の中身は溶けてなくなり、青い皮膚の小さい人間、ホムンクルスが底に溜まった液体から這い出てきた。


しかしホムンクルスは試験管の壁にへばりついて動かない、何かの配分が悪かったのか元気がないな。




「僕もできました!」


「なにっ!?」




彼の持ち上げた平底試験管には、私のものよりも一回り大きく、騒がしく暴れ回るホムンクルスが宿っていた。


そんなはずはない!


そう簡単なものではないのだ!




「この実験をやった事があったのか?」


「いえ、初めてです」


「ではなぜ融合魔術の術式を知っている!?」


「先輩のを真似しました」




彼は事もなげに言うが、それがどれだけ難しいことか。


11歳の子供なんて、元氣を複数の色付き魔素に変換できるだけでも優が貰えるレベルだぞ。




「木が40に水が30、土が23に火が5、光と闇が1づつですよね?魔素変換が丁寧でわかりやすかったです」


「一度見ただけで真似たというのか?」


「ええ、基礎中の基礎なんですよね?」




その通りだが……と返した私の声は、どうしようもなく小さく不明瞭になり。


規格外の年下の問題児は、小人入りの試験管を振りながら屈託なく笑っていた。




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イキリ転生者エピソードその1

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