第4話 槍投げて 狼取って 肉食って

「やっぱこのご主人様の作った槍投げ機ってやつ、結構いいべ、草食み狼にもバシバシ当たるし」


「…………だ……め……」


「あー、ボンゴちゃんの貰ったダーツちゅうのはいかんかったねぇ、刺さりよってもそんまま逃げよるもんで」


「…………な……く……」


「なくしたぐらいで怒らんべ、ご主人様は慈愛のサワディ様だでな」




最近私とボンゴちゃんのパーティーは狩り場を1つ上に移した。


さすがに二人で狸や鶏を狩るのは過剰戦力だし。


狸は害獣で鶏は食料資源だけど、草食み狼は害獣にして食料資源なんだって。


狩り場を移してみるとたしかに実入りは今までよりずっと良くなった。


私達のお小遣いも1日に銅貨2枚に増えて嬉しい限りだ。


狩りのあとはお腹が空くからボンゴちゃんと色々食べ歩きするのが楽しいんだ。


最近ではちょっとだけお金を置いておいて、休みの日に肉串や芋揚げを買いに行ったりもする。


実家の家にも入れてもらえず畑の隅で残飯を食べてた頃とは大違いだ。


私達用の小屋まで作ってもらえた。


これで雨が降っても寝られる、本当にご主人様は神様だ。


こないだも『新しい狩り場で使え』って装備を手ずから作って下すった。


よくわからん槍投げ機と、よくわからん短くて重たい手投げ矢だけど、まぁその気もちが嬉しいよね。


ヘニャヘニャな動きで槍投げながら『戦闘はアウトレンジだ!』って言っていたけど。


たしかに槍投げ機を使うと、遠くからの一撃で終わることが多くてとても楽だ。




「…………い……た……」


「あいよぉ〜」




次の獲物が来たみたい。


槍投げ機に槍をつがえ、振りかぶる。


ボンゴちゃんがダーツで牽制して、狼がまごまごしているところに槍を投げ込んだ。


ボッ!といいながら金属の補強の入った槍が身を捩りながら飛んでいき、狼を肩口から貫通して地面に縫い止めた。




「…………そ……く……」




地面に降りてきたボンゴちゃんが即死した狼のまわりのダーツを拾い集める。


これで6頭目、今日の目標は達成だ。


さあさあ!


帰って屋台に繰り出そう!






「おう、奴隷組じゃねぇか。こないだの火炎蜘蛛の時は助かったぜ」


「ああ、アグリのおっちゃん。なぁんも、冒険者は助け合いよ」




町へと帰る道すがら、曲剣を背負った冒険者仲間のアグリさんと出会った。


アグリさんはぶっきらぼうなふりしてるんだけど、優しい猪人族のおじさんだ。


ときどき「お前らちゃんと食わしてもらってんのか?」って屋台の肉団子をご馳走してくれたりする。


一昨日に火炎蜘蛛に追いかけられて岩場から逃げてきた所を助けたときも、お高い桃のタルトを奢ってもらった。


製菓店は奴隷じゃ入れないとこにあるから、嬉しかったなぁ。




「しかしお前らの主人も心配性だな、火炎蜘蛛が殺せるぐらいなら草食み狼なんぞより上狙ったほうが儲かるだろうに」




アグリさんは私の背鞍にくくりつけてある狼を見てそう言うが、ご主人様の言うことには安全マージン?を取っているそうなのだ。




「…………あ……ん……」


「あん?そうか、安全か。たしかに稼いでも取り上げられちまうんじゃ面白くねぇわな、それなら安全な方がいいな」




アグリさんは複雑そうな顔をして「またな!」と狩り場に向かって行った。


心配してくれてありがとう、私は今幸せだよ。






「おっ、今日も腹ペコが帰ってきたな」




私達の姿を見て、串焼き屋台の店主のテシンさんが読んでいた新聞を放り出して火鉢に肉を置いた。


ここの屋台は肉の量は普通だけど、他と比べると塩が多くて味がはっきりしてる。


狩りの後にはここの肉串が一番美味しいんだ。


ご主人様が塩飴ってのをくれたんだけど、あれは美味しいからとっておきのおやつとして取ってある。




「今日はどうだった?」


「いつもどおりだよぉ、狼六匹で終わり、安心安全だべ」


「いつもどおりが一番いいんだ、いつもどおりできなくなった奴から死ぬからな」


「あたしらはご主人様が色々決めてくれるで、楽だよぉ」


「まぁお前らのとこのシェンカー家は超金持ちだし無理もさせんわなぁ、いいとこに買われたよ」


「サワディ様はすごい人だべ、この槍投げ機もサワディ様が作ってくれただ」




木製の槍投げ機をひらひら振る私を見て、テシンさんは渋く笑った。




「サワディといえば芝居狂いで有名だな」


「そうそう、将来は自分の劇場を持つんだって、まだ小さいのに夢は大きいんよ」


「三男だって話だしなぁ、跡目争いからは降りるって表明でもあるのかもな。っと……そういやそのサワディ様がよ、こないだ裏の揚げ芋屋に急に現れたらしい、女連れで」


「あぁ~、そりゃあたしがお薦めしたんよ、美味しいですよって」


「お前なぁ……そりゃお前らには気さくな主人だか知らんが、魔導学園の生徒だぞ?魔法使いってのは俺らからしちゃおっかねぇもんなんだよ。あんまりビビりすぎて揚げ芋屋のやつ、次の日屋台休みやがったぞ」


「はぁ~、そんなもんかいね。悪いことしちゃったかな?」


「俺らの中にゃああいつらの馬車の前横切っただけで片足ぶった切られたやつもいるんだわ」


「ひぇ~、そりゃおっかないね」


「だからな、お前らも知り合いじゃない魔法使いには気をつけろよ」




そう言ってテシンさんは、使い込まれた木の義足をコンコンと叩く。


不意に突風が吹いた。


大勢の人の行き交うメインストリートのすぐ上を、魔導学園のえんじ色の制服を纏ったドラグーンが魔法生物の黄金竜に跨って飛び抜けていった。


よくあることだ。


近くにいた山羊人族のおばあさんが、蹲って黄金竜に向かって手を合わせている。


この人は多分私と同じ、魔法使いに救われた側の人なのだろう。


その日の肉串は、いつもより少しだけ塩辛かった。




ーーーーーーーーーー




フレーバーなんで。


シリアスはあっても主要人物の鬱展開とかはないです。


ゆるふわです。

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