第3話 気分良く 作ってみれど 空回り

福利厚生、懐かしい言葉だ。


役員しか使えない保養所や、社宅という名の簡易宿泊所……月1万円までの交通費……うっ、頭が……


とにかく、福利厚生は大事なのだ。


従業員に報いるには給与の増額が1番の方法だが、うちの会計には俺以外に給与の項目がない、みんな奴隷だからな。


だからこそ、普通の企業よりも一層福利厚生に力を入れなければならないのだ。


ケンタウルスのピクルスがずっとうちの馬小屋に寝泊まりしているのもまずいが……


鳥人族のボンゴの寝床問題もなかなかに重大だ。


今寝泊まりしている従業員用の部屋がいつでも空いているわけではないし、下手に俺の部屋の隅とかで寝られても色々と困っちゃうわけだ。


幸い積立金が金貨10枚分ほどあったので、その金で奴隷達用の小屋を建てることにした。


小屋といっても家の中庭に建てれるようなこぢんまりしたやつだ。


そう融通の利くものではないが、一応入るピクルスとボンゴにも意見を聞いておこう。





「今度お前らの小屋を作るけど、なにか欲しいものはあるか?」


「あ、私は藁を敷きたいので土間が欲しいです」


「土間か、なるほど。ボンゴは?」


「…………ト……レ…………」


「トイレが欲しいみたいです」




ボンゴは無口なやつなのだ。


決して嫌われてるわけじゃないと思いたい。






小屋は近所の工務店に発注したが、衣食住の住だけでは片手落ちというところだろう。


衣は普段の冒険者としての装備とパジャマ、あと数枚の古着があればまぁ事足りるしな。


だいたい小屋ができるまで、彼女らは正式に私物を置く場所もないのだ。


となれば今できることは食だ。


普段の飯は家の料理長が作っているから手を加えられないが……


まぁたまには?


ご褒美として俺の作る異世界激ウマ料理でも食わせてやることにする?


しゃーなしだけどね?


やれやれ、これは久々に転生者知識で俺TSUEEEEしてしまう時が来たのかな?




「ご主人様、これはちょっと……」


「…………ま…………ず…………」




が、残念。


俺の用意したポテトチップスは不評だった。


俺も一枚つまんでみる。


ぐじゅぐじゅだ。


食べてみると、カリッとも言わず、生の芋の風味がした。


なんだろう、ポテチって芋切って揚げるだけの簡単料理じゃなかったのか。


薄切りに失敗した時点でやめときゃよかったな。




「揚げ芋なら冒険者ギルドから一本西に入った通りに美味しい屋台がありますよ」


「…………さ……く……」


「そうそう、サクサクで香ばしいんで是非ご主人様も今度是非」


「うーん、こういう料理はもうとっくにあったって事かぁ」


「庶民の食べるものですから……ご主人様がご存じないのも無理はないかと……」


「…………な……い……」




気遣わしげな奴隷たちの視線が心に染みるぜ。


今度、またの機会があれば甘いものでも食わせてやろう。


さすがに生クリームのケーキは食ったことないだろう。


俺も食ったことないんだし。


問題はまたもや俺がケーキを作ったことがない事だが……


まぁなんとでもなるだろう。


俺はクヨクヨしない、金持ちだからな。


いつでも心に余裕があるんだ。




「えっ、口直しになんか食ってこいって……こんなにいいんですか?」


「…………ふ……と……」


「気にすんな、今日は失敗したが、次は美味いもん食わせてやるからな」


「あ、はは……楽しみです……」


「…………ね……ず……」


「ん?ねず?」


「いやいや!えっと……なんでもないんですよご主人様!なんでも!」




ボンゴは相変わらずよくわからんやつだ。


結局衣食住の食の充実は、普段一日に銅貨一枚やってる小遣いを、銅貨一枚半に増やすことで解決した。


要するに好きなもん買い食いしてこいって事だ。


最初からこうすりゃ良かったかな?


まぁこういうのは気持ちだからな。


俺も社長からよく寸志という名の気持ちをもらったもんだ。


気持ちよりもボーナスのほうがよっぽど良かったがな。

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