仲直りと事故
マヨちゃんと加藤さん達が大ケンカをした次の日の朝。
今日は久しぶりに晴れていて、グラウンドでは登校してきた子達が元気よく遊んでいて。そんな中僕はというと、教室で加藤さんが来るのを待っていた。
昨日の加藤さん、凄かったからなあ。昨日の今日だし、きっとまだマヨちゃんの事怒ってるよね。
アレは誤解だったけど、ちゃんと説明しておかないとまたケンカになっちゃいそう。
と言うわけで二人が合う前に誤解を解けるよう、いつもより早く登校してきたんだけど、加藤さん早く来ないかなあ。まさか、登校中に会って、既ケンカになっちゃってるなんてことは無いよねえ……
「真夜子ちゃん、今日こそはちゃんと謝らせないとね」
「でも、ちゃんと来るかなあ? 熱出して寝込んでたりして」
「あの呪い、強力らしいからねえ」
あ、来た。加藤さんだ。
友達二人と一緒に何やら話しながら、教室に入ってくる加藤さん。どうやら話している内容はマヨちゃん絡み見たいだけど……呪いって何?
一人が口にしたその言葉が引っ掛かった。
何だか物騒な事を言ってるけど、やっぱりまだ、マヨちゃんのこと怒ってるのかなあ。これは早いとこ誤解を解いておかないと、厄介な事になりそうだ。
僕は急いで席を立つと、三人に近づいて行く。
「加藤さん、ちょっといい?」
「九十九君、何か用?」
「うん。昨日のマヨちゃんのことなんだけど……」
「え、マヨネーズがどうしたって?」
いや、マヨネーズって……。
マヨちゃんの名前を口にした途端、思いっきり眉間にシワを寄せる加藤さん。
僕は慌てて周りを見回したけど……良かった、マヨちゃんは来ていないよね。もし今のを聞かれてたら、問答無用でケンカになっちゃってたよ。
「あのう、まずは落ち着いて話を聞いてくれないかなあ」
「話すことなんて無いわ。どうせ九十九君は、真夜子ちゃんの味方なんでしょ」
ギロっと睨まれて、思わず圧倒される。うわあ、これは完全に怒ってるよ。
だけど味方も何も、僕はケンカなんてさせたくないんだ。
「待って、話を聞いて。そもそも加藤さん達は、誤解してるんだよ」
「誤解って何? 言っとくけど、先にルールを破って抜け駆けしたのは、真夜子ちゃんなんだからね」
「だからそれが誤解なんだって。マヨちゃんは確かに真田君と会ってたけど、それはお婆ちゃんからお使いを頼まれただけなんだよ」
「は? どういうことよ?」
「実は昨日あの後、マヨちゃんから聞いたんだけど……」
これでようやく事情を話せる。
昨日のケンカの後でマヨちゃんが話した内容を、詳しく説明していく。
そしたら最初は怪訝な顔をしていた加藤さん達も、話が進むにつれてだんだんと真面目に耳を傾けてきてくれた。
「……と言いうわけで、マヨちゃんが渡したのはプレゼントじゃなくてお茶っ葉なんだよ」
「それって本当なの? 真夜子ちゃんのおばあちゃんと、真田君のおばあちゃんがお友達だって? 嘘ついてるんじゃ……」
「それは無いよ。だいたい、マヨちゃんが嘘までついて抜け駆けするような子だって、本気で思ってる?」
「う、うーん……」
昨日本人も言ってたけど、マヨちゃんは恋バナよりも、サッカーボールを追いかけるのが好きな女の子。
そんな普段の様子と、嘘までついて誤魔化そうとする姿は結び付かなかったみたいで、加藤さんもようやくおかしいって思ってくれた様子。
「ちょっと待ってよ。それにしたって何でよりによって、真田君の誕生日にそんな紛らわしい事してるのよ?」
「仕方が無いよ。だってマヨちゃんは、真田くんの誕生日の事を知らなかったんだから」
「けどそんな……う~ん」
今回の騒ぎは、とにかくタイミングが悪かった。お使いを頼まれた日が、たまたま真田君の誕生日で、その場面をたまたま僕と十勝君が見ていて、加藤さんに喋っちゃって。
だけどこれでもう、分かってくれるよね。ちゃんと仲直り、してくれるよね。
「九十九君、それって本当のことだよね。マヨちゃんを庇って、嘘をついてるってことは……」
「本当だよ。疑うなら、誰かに聞いてみてもいいよ。教室に残っていた何人かは、話を聞いてるはずだから」
「それじゃあ、本当に?」
コクンと頷く僕を見て、加藤さん達はようやく信じてくれた様子。
良かった。これでようやく誤解が解けて……。
「待って。それじゃあ勘違いだったって事? ヤバいよ。だってもう、呪いかけちゃったんだよ」
加藤さんの隣にいた一人が、青い顔をする。
また呪い? さっきも言っていたけど、それっていったい……。
「だ、大丈夫じゃないの。あんなもの本当に効くわけ無いんだもの」
「けど、ノートはちゃんとあったよね。それで私達、マヨちゃんの事を……」
えっと、いったい何の話?
おかしいなあ。てっきり勘違いと分かってホッとすると思ってたのにこの反応。いったい加藤さん達、何をしたの?
「ねえ、呪いってどういう事? 変な事、してないよね?」
「な、何もしてないよ。だいたい私達、昨日はあれ以降、真夜子ちゃんとは会っていないんだし」
「でもそれじゃあ、呪いって言うのは?」
「それは……な、何でもないから!」
この慌てよう。どう見ても何でもなくは無さそうなんだけど。
これ絶対に何か隠してるよね。そうだよね!
「ねえ加藤さん、ちゃんと答えて。何をしたか知らないけど正直に言って謝れば、きっと真夜子ちゃんだって怒ったりはしないと……」
「だからあ、何もしてないって言ってるじゃない」
「ご、ごめん」
つい反射的に謝っちゃったけど、怒ってきた加藤さんの声はどこか弱々しくて。それにさっきから、三人とも僕と目を合わせようとしない。
ここに十勝君がいなくて良かった。いたらきっと、「どういう事だ」って言って問い詰めただろうから。そうなったらせっかく仲直りできそうなのに、台無しになっちゃう――
「おい光太!」
大きな声が教室に響く。
ビックリして声のした方、教室の入り口に目をやると、そこには今まさに考えていたその人。十勝君が血相を変えた様子で立っていた。
「十勝君、脅かさないでよ」
「はぁ……はぁ……そんなこと言ってる場合か! 真夜子が大変なんだ。こんな時にお前は、何をやってるんだよ!」
息を切らしながら僕の肩を掴んで前後に揺さ振ってくる。
ちょっ、ちょっと待って。いったいどう言う事⁉
何を言いたいのかはさっぱり分からない。
ただ確かなのは、これほど慌てるくらいの何かがあったって言う事。するとそんな僕らの様子を見ていた加藤さんが、恐る恐ると言った様子で尋ねてくる。
「ね、ねえ。真夜子ちゃんが一体どうしたの? 何かあったの?」
「ああ、実は……って、アレ? お前ら昨日真夜子とケンカしてたよな?」
「え、ええと。それはもう良いって言うか……」
「いつまでも意地悪言うのも気が引けるし……」
目が泳いでいて、明らかに挙動不審。だけど十勝君はそんな事気にする余裕も無いのか、静かにポツリ。
「真夜子……あいつ木から落ちて、大怪我したらしいんだ」
「えっ……そんな、嘘でしょ?」
「嘘じゃねーよ! 二組の奴らが言ってるのを、この耳で聞いたんだ。今保健室で、手当てを受けてるらしい」
答える声は弱々しくて。僕は信じられない気持ちでいっぱいになる。
だって、あの運動神経抜群のマヨちゃんだよ。そんなわけ……。
「そ、それで。真夜子ちゃんは大丈夫なの?」
僕よりも先に、口を開いたのは加藤さん。青い顔をして、前のめりになって聞いてきたけど、十勝君は静かに首を横に振る。
「わかんねー。今から様子を見に行こうと思ってんだけど、光太、お前はどうする?」
「もちろん行くよ!」
もうすぐ始業開始のベルが鳴るけど、マヨちゃんが大変な事になってるんだもの。そんなの気にしちゃいられない。
十勝君の「急ぐぞ」と言う掛け声と同時に、加藤さん達をその場に残して、二人して廊下に飛び出して行く。
「コラお前ら、廊下を走るな!」
すれ違った先生が注意をしてきたけど、ごめんなさい、それどころじゃないんです。
マヨちゃんが心配な僕らは勢いを少しも緩めることなく、保健室めがけて走って行く。
マヨちゃん、大丈夫なの? せっかく加藤さん達と仲直りできそうだってのに、こんなのって無いよ!
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