プレゼントの真相

 ふう、一時はどうなる事かと思ったけど、何とか騒ぎは治まってくれた。

 ただマヨちゃんの怒りは、まだ治まっていないけど。


「べーっ! 次にマヨネーズなんて言ったら、今度こそ許さないんだから」


 加藤さん達が去って行ったドアに向かって、文句を言っちゃってる。

 マヨちゃんがこんな風に後を引いちゃうだなんて珍しい。どうにかして、仲直りさせたいけど……。


「そ、そういえばさ。結局真田君とは……どうなの?」


 まずはこれをハッキリさせておかないと。

 別に僕が気になってるんじゃなくて、ケンカを止めるために知っておきたいだけなんだからね。


 マヨちゃんはプレゼントなんて渡していないって言ってたけど、何かを渡している所を僕も十勝君も確かに見たんだ。けど……。


「だから言ったじゃん。今日が誕生日って事も初めて知ったって」

「で、でもよ。お前昼休み、真田と一緒にいたじゃねーか」


 やっぱり、十勝君も気になるよね。

 けどマヨちゃんてば、キョトンとした顔をしちゃってる。


「ああ、やっぱりその事なんだ。確かに渡しはしたけど、誕生日プレゼントじゃないもん。あれはお婆ちゃんが好きなお茶の葉だもん」


 へ、お婆ちゃん? 何でここでお婆ちゃんが出てくるの? それにお茶っ葉って。


「お茶の葉って、あの急須に入れるやつ?」

「うん。ボクのお婆ちゃんと真田くんのお婆ちゃんが茶飲み友達で、いいお茶が手に入ったからお裾分けしたんだよ。で、渡してもらうよう、お願いしたの」


 お茶の葉を、お婆ちゃんに……。

 意外な答えにビックリしたけど、マヨちゃんのこの様子、とてもウソを言っているようには見えない。

 という事は、本当に誕生日プレゼントでも何でもなかったって事?


「なんだそりゃ。プレゼントじゃなかったのか」

「加藤達の勘違いかよ」


 予想外の真相に僕と十勝君だけでなく、周りで事態を見守っていた子達全員が、疲れたように肩を落とす。

 


「お前なあ。それならそうと、どうして早く言わなかったんだよ。加藤達、勘違いしたままだぞ」

「言おうとしたよ。でも全然喋らせてくれないんだから仕方が無いじゃない。それに人の事をマヨネーズだなんて、失礼しちゃうよ」


 プレゼントの真相は拍子抜けだったけど、まあいいや。

 加藤さんだって今の話を聞いたら、きっと分かってくれるに違いない。


「マヨちゃん、加藤さん達の事だけど、明日ちゃんと話してみたら。? 訳を話せば、謝ってくれるよ」

「それは……そうかもしれないけど」


 加藤さんも普段は決して悪口を言ったり、ケンカをしたりはしないもの。

 ただ真田くんのことになると、ちょっと見境が無くなっちゃうみたいだけど、それでも悪い子じゃないんだ。


「うーん、コウくんがそう言うならそうするけど……」

「それが良いよ。いつまでも誤解されたままじゃあ、マヨちゃんだって嫌でしょ」

「そうそう。それにしても、人騒がせな奴らだよな。勝手に勘違いして、ケンカ売ってくるんだからよ」


 十勝君はそう言ったけど。騒動の原因はさあ、十勝君がうっかり口を滑らせちゃったからなんだからね。

 マヨちゃんが真田くんのことを好きなんじゃって最初に勘違いしたのに、すっかり忘れちゃってるみたい。


「そう言えばさ。マヨちゃんは本当に、真田君が好きってわけじゃ無いの?」

「もう、コウ君まで何言ってるのさ。真田君とはサッカー友達だよ」

「そ、そうだよね。友達だよね」


 友達……友達か……。

 良かった。二人が楽しそうにサッカーをしている姿を前に見たけど、あまりに仲良さげだったから、もしかしたらって思っちゃった。


 ……あれ、でも僕はどうして、良かったなんて思ったんだろう? 

 心無しか胸のモヤモヤがすっきりしたような気がするけど、何でかな?


「だいたいボク、恋愛とかよく分かんないもん。あんな風に言われても困っちゃうよ」

「そうなの? 前の学校で、気になる子もいなかったの?」

「あはは、無い無い。恋が叶うおまじないをするよりも、外で体を動かした方が楽しいもーん」


 なるほど、マヨちゃんらしいや。

 すると十勝君も納得したように笑い声をあげる。


「そうだよな。真夜子に好きな奴なんて、いるわけねーもんな。初めからおかしいと思ったんだよ」


 ……その割には血相を変えてたけどね。

 その上加藤さんに余計な事まで言ったんだから、これからは気を付けてくれないかなあ。

 だけどそんな僕の願いも虚しく、十勝君はまたもとんでもない事を言ってしてしまう。


「真夜子に好きな奴だなんて、考えられねーよ。きっと一生結婚なんてできないんだろうなあ。ははははっ!」


 マヨちゃんに好きな人がいないって分かったのがよほど嬉しかったのか、のんきに笑っているけど。

 あのう、十勝君。いくら何でもそれは言い過ぎなんじゃ……。


 結婚できないって口にした途端に周りの温度が下がったことに、当の本人は気づいていない。

 そして、これを聞いたマヨちゃんは……。


「十勝君……」

「ん、なんだ……ひいっ⁉」


 鬼だ、鬼がいる!

 さっきまでのニコニコ顔から一転。禍々しい空気を漂わせ、まるで地獄から出てきたばかりの鬼みたいな目で、十勝君を見据えるマヨちゃん。

 やっぱり、さっきのは言い過ぎたんだ。これはすっごく怒ってるよ!


「と~か~ち~く~ん!」

「ま、待て。冗談だって。おい、誰か助けてくれ!」


 え、うーん。僕だってできるなら、助けてあげたいよ。でも……。

 

「十勝君!」

「ひぃっ! よ、よせ。俺が悪かったってば!」

「問答無用、待てー!」


 ああ、なんだか大変なことに。

 逃げる十勝君と、それを追いかけるマヨちゃん。

 

 結局この後、騒ぎを聞きつけた先生がやってきて。マヨちゃんも十勝君も、それから一緒になって騒いでいたと言うことで僕まで、こっ酷く怒られちゃうのだった。

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