女子のケンカは恐ろしい
真田君へのプレゼントを個別に渡しちゃいけないのはわかった。
けどそんなルールがあったなんてマヨちゃんは知らなかったんだから、許してあげてもいいんじゃって思うけど
「どう、これでわかったでしょ。真夜子ちゃんはルールを破ったのよ」
「そりゃ転校してきたばかりで知らなかったのかもしれないけど、相手は真田君だよ。抜け駆けしちゃダメだって、普通わからない?」
皆目が血走っていて、見てるだけで怖い。
「ま、待ってよ、誤解だってば。ボクはただ……」
「誤解って、まだ言い訳するつもり⁉」
「だってルールなんて知らなかったし、それに……」
「反省もしてないだなんて、どういうつもりよ!」
マヨちゃんも、困ったみたいに手を前に出してばたつかせながら説明しようとしてるけど、聞いてもらえない。そして。
「嘘つき、最低、マヨネーズみたいな変な名前!」
「マ、マヨネーズ⁉」
加藤さんの放った言葉に、マヨちゃんが驚きの声をあげる。
マヨネーズ……ああ、なるほど。マヨちゃんの『マヨ』で、マヨネーズと言うことか。
けどそんなこと言われて、黙っていられるマヨちゃんじゃなかった。
「マ、マヨネーズって何さ!」
「本当の事じゃない。マヨネーズ。マヨネーズ! マヨネーズ‼」
「マヨネーズじゃなーい! 酷いよ美春ちゃん。言っていい事と悪い事の区別もつかないの⁉ 人の名前をバカにしちゃいけないって、お婆ちゃんが言ってたもん!」
さっきまで押されていたのが嘘みたいに、一転して声を上げるマヨちゃん。どうやらマヨネーズと言われたのが相当嫌だったみたい。
これには加藤さん達も怯んだけど、それはほんの一瞬。すぐにまた険しい表情で、マヨちゃんを睨みつける。
「何よ、抜け駆けしたくせに逆切れして」
「それとこれとは別だよ! 名前を馬鹿にするだなんて、そっちこそサイテーじゃない!」
「そっちが先にルール違反したんでしょ!」
「だからしてないってば!」
だんだんと言い争いがヒートアップしていく。
帰ろうとしていた子達も足を止めて、今にもつかみ合いになりそうな女子同士のケンカに注目しているけど、このままじゃいけない。ヘタをしたら本当に、大事になっちゃう。
「僕達で止めないと。十勝君、手伝って」
「ああ、そうだな。こらお前ら、止めろって!」
二人の間に割って入って、十勝君は加藤さんを、そして僕も後ろからマヨちゃんを取り押さえたけど、二人ともジタバタと暴れていて。
手を放したらすぐにでも、殴り合いを始めそうな勢いだ。
「止めろよ加藤。少し落ち着けって」
「何するのエッチ、サイテー、離してよ!」
「だから暴れるなって。ちょっとは頭を冷やして……ぶわっ!」
加藤さんは頭を冷やすんじゃなくて、十勝君に頭突きを食らわせちゃってる。
けど、それでも手を放すのは止めなかった。
「お、お前ら、寄ってたかって一人を攻撃して、恥ずかしいって思わないのか?」
「何よ、アンタだって普段、九十九君をイジメてるでしょ」
「お、俺は一人でやってるから良いんだよ。とにかく、もうこんな事は止めろよ、な。あんまり騒いでいると先生来ちまうぞ」
「うっ……」
先生と聞いて、とたんに勢いが弱まる加藤さん。続いて僕も……。
「それにこのままだと、もしかしたら真田君が騒ぎを聞きつけて来ちゃうかもしれないよ。加藤さん達、ケンカしている所なんて見られたくないよね」
「真田君が……」
好きな男の子に、こんな姿を見られたい女子なんていないはず。今度こそ完全に大人しくなったのを見て、僕も十勝君もそれぞれ掴んでいた手をようやく放すことができた。
加藤さん達は不満げな表情を隠そうとしなかったけど、それでも諦めたように踵を返してマヨちゃんに背を向ける。
「……帰ろう。これ以上言っても無駄みたいだし」
加藤さんが呟いて、他の子達もそれにならう。
良かった、何とか止められた……と思ったのも束の間。
「けど、これで終わったと思わないでよ」
やっぱりまだ、怒ってはいるんだね。
最後に物騒な台詞を吐いてから、教室を出て行ってしまった。
マヨちゃんはマヨちゃんでやっぱり機嫌悪そうに、加藤さん達が出て行ったドアに鋭い目を向けてるし。確かに、これで終わったとは到底思えない。
「やっぱり、好きな男が絡んだ女子なんてろくなもんじゃねーな」
ぼそりと呟いた十勝君。
うん、今なら言える。それには激しく同感だよ。
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