呪いのノートの噂
マヨちゃんと真田君
※この章、『呪いのノートのうわさ』は、『人食い自販機のうわさ』と『病気を運ぶ鬼』の間のお話となっています。
毎日のように雨が降る、梅雨の真っ只中。今日も朝から空は厚い雲に覆われていて、昼休みになった今でも、雨はやむことなく降り続いている。
そんな中給食当番の僕は、給食室に食器やお鍋を返しに行った後、同じく当番の十勝君と一緒に、教室に戻る為廊下を歩いていたけれど……。
「あーあ、毎日雨ばかりで嫌になるよな。外で遊べねーもん。そうだ、教室でキャッチボールでもやるか」
窓から雨の降る校庭を眺めながら、思いついたように言う十勝君。
けどつまらない気持ちは分かるけど、キャッチボールはマズいよ。
「止めておいた方がいいんじゃないかなあ。誰かにぶつけたら大変だし、ガラスを割っちゃうかもしれないよ」
「上手く投げればいいだろ。って、お前には無理か。仕方ねえ、佐々木でも誘うから、光太は審判やれよ」
ええー、上手い下手に関わらず、先生に見つかったらきっと怒られちゃうって。
それと気になったんだけど、キャッチボールの審判っていったい何をすればいいんだろう? 上手くキャッチできたら、点数が入るのかな?
「そうだ、真夜子も誘ってやろうか。アイツも外で遊べないって言ってたから、きっとのってくるぞ」
「そうかなあ? マヨちゃん、体動かすのは好きだけど、真面目なところあるから。教室でキャッチボールなんてするかな?」
「分かってねーな。何日も外で遊べてねーんだから、やるに決まってるって。お、噂をすれば」
十勝君の視線の先。廊下の向こうには、確かにマヨちゃんの姿があったけど。
あれ、誰かと話してるねえ。
「おい、アイツって」
「真田君だね、二組の」
真田君とは一、二年生の時に同じクラスだったけど、運動が得意で人当たりもいい、僕とは正反対の男の子。
健康そうな黒い肌をしていて、背が高くて、その上顔立ちも整っているから女子の人気が高くて、クラスを問わずにファンがいるような子だけど、そんな真田君とマヨちゃんが、いったい何の話をしているのだろう?
「真田君……これ、お……から」
「うん……ありがとう」
何を話しているかはよく聞こえないけど、仲良さげな感じ。
声をかけようかとも思ったけど、話をしている所に割って入るのはコミュ障な僕にはハードルが高くて、十勝君も足を止めて二人の様子を眺めている。
するとそんな僕達に気付いていないマヨちゃんは、何やら包装された包みを真田君に渡した。
「おい、見ろよあれ。真夜子が真田に、何か渡してるぞ」
「本当だ、なんだろう?」
それはまるでプレゼントでもしているかのよう。
あれ、プレゼントと言えば。何かあったような……。
「ああ、そういえば」
「何か心当たりあるのか?」
「確かクラスの女の子が、今日は真田君の誕生日だって話してた気がする」
「じゃあアレは、誕生日プレゼントかよ⁉」
たぶんそうじゃないかなあ。へえー、マヨちゃんと真田くんって、仲良かったんだ。知らなかったなあ……って、十勝君。何血相変えちゃってるの?
するとビックリする僕をよそに、十勝君は二人めがけて駆け出した————
「ストップ! いったい何をするつもりなの⁉」
「ああっ? 邪魔するに決まってんだろ。あんにゃろ、真夜子にちょっかい掛けやがって」
「ダメだってば。ちょっと落ち着いて!」
シャツを掴みながら、必死になって止める。
ヤキモチを焼く気持ちはわかるけど、邪魔するなんてよくないよ。
「放せよ。くそ、真田のやつ、いつの間に真夜子と仲良くなったんだよ?」
「いいじゃない、誰と仲良くなっても。二人とも体動かすの好きだから、きっと気が合ったんだよ」
「運動なら俺だって得意だ! だいたい光太は良いのかよ、このま、その……真夜子と真田が付き合うことになっても!」
「えっ?」
付き合うって、マヨちゃんと真田君が?
何だろう。今ちょっとだけ、胸がチクってなったような……いや、でも。
「いいじゃない、その時はおめでとうって言ってあげようよ」
「死んでも言うか! お前わかってんのか、真夜子があいつと付き合ったら、もう今までみたいに遊んでもらえなくなるんだぞ」
「まさかそんな……」
心配しすきだよ。もしも本当に二人が付き合う事になっても、僕達が友達だってことに変わりはないんだもん。
だけどそれを言ったら、とたんに呆れた顔をされた。
「お前なあ。彼氏と友達、どっちかとだけしか遊べないなら、普通はどっちを取ると思う?」
「それは……彼氏?」
「だろう。だいたい女子なんて、好きな男のことになると周りの迷惑なんて考えない生き物なんだからな。口を開けばここが格好いいだの、今日は声をかけられただの、そんな話を延々するような奴らなんだぞ。ウザいったらありゃしねえ」
「そ、そうなの?」
僕は女子の恋愛事情なんてよくわからないけど、十勝君は知っているのかな?
「しかもさっきのは、まだ片想いしている時の話だ。それが付き合いだしたらどうなると思う? きっとお前の事なんてほったらかしだぞ。寝ても覚めても彼氏と彼氏ってなるに決まってるさ。本当にそれでもいいのか?」
それは、その……。もしそうなっちゃったら、確かに嫌だなあ。
それにしても、十勝君はどうしてこんなに詳しいのだろう?
「十勝君、それってどこ情報なの?」
「ああ、妹が毎日うるさいんだよ。今年から同じクラスになった男子が、格好いいんだってさ。まあアイツの場合好きになった相手の方が、気の毒だけどな。きっとたくさん、苦労してるんだろうなあ……」
何だか急に遠い目をしだした。そう言えば十勝君には、一つ年下の妹がいるって聞いたことがあったなあ。
僕は会ったことが無いけど、どんな子なのかちょっと気になる。好きになった相手の方が気の毒って、妹はいったいどんな子なの?
「って、今は妹のことはどうでもいいんだよ。それよりも真夜子だ」
「あ、そうか。でも、マヨちゃん本当に、僕達のことどうでもよくなっちゃうのかなあ? 大丈夫って、信じてあげた方がいいんじゃ……」
「なるんだ! もういい、俺は行ってくるから、邪魔するなよ!」
そう言って、今度こそ駆け出そうとする十勝君。だけど。
「で、でもね十勝君」
「何だよ、まだ何かあるのかよ?」
「マヨちゃんも真田君も、もういないよ」
「は?」
廊下の先に、さっきまで話をしていた二人の姿はもうなかった。
ごめんね、僕が引き留めてる間に、マヨちゃんも真田君もとっくにどこかに行っちゃったんだ。
気持ちのやり場を無くしちゃった十勝君は、肩をプルプルと震わせている。ゴメンね、何だか悪い事をしちゃったみたい……。
「光太、お前のせいだぞ!」
「ええっ、僕が悪いの⁉」
「当り前だ、お前が邪魔なんてするから、二人の邪魔を出来なくなったじゃねーか!」
言ってることがおかしいって!
だけど抗議する暇も無く、僕は首に手を回されヘッドロックをかけられる。
「ごめん、邪魔して悪かったよ」
「うるせー、もう遅せーよ。くそ、何かあったら責任取れよな!」
そんなこと言われても、どうしたらいいかなんて分からない。
出来ることと言えば、どうかマヨちゃんと真田君の間に何もありませんようにと祈ることくらい。
それにしてもマヨちゃん、本当に真田君のこと、好きなのかなあ? 僕は今まで通り一緒に遊べるのなら、二人が付き合ったって別に構わない……はずなのに。
なんでか胸の辺りがざわついちゃって。僕はモヤモヤした気持ちが拭えなかった。
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