不思議クラブ結成!

 ここは、チョコが住みかとしている体育館の裏。ビョウキをやっつけようとして、マヨちゃんのおばあさんにおこられた次の日の放課後、ぼくらはまた、ここに集まっていた。


「さあ、今日は何して遊ぼうか?」


 昨日はあんなことがあったけど、もうすっかり元通り。チョコにニボシをあげているぼくの横で、マヨちゃんはサッカーや近所の探検など、やりたいことを指折りあげている。するとここでふと、十勝君が口を開いた。


「なあ、遊ぶのもいいけどよ。その前にオレたちのチーム名を考えないか」


 チーム名? そもそもチームって何のことだろう?

 不思議に思って聞いてみると、十勝君は大げさにため息をつく。


「お前はバカか? オレたち今まで、さんざん不思議なことに関わってきただろ。で、これからも続けていくとなると、カッコいいチーム名があった方がいいってわけだ」


 得意気にむねをはる十勝君。でも良いのかなあ? 昨日マヨちゃんのおばあさんにおこられたばかりだし。

 だけどどうやらマヨちゃんも乗り気なようで、キラキラと目をかがやかせている。


「ボクはサンセイ! だって面白そうだもん。そうなるとチームメイトは、ボクとコウくんと十勝君と……」

「アタシもいるニャ」

「チョコを入れて全部で四人だね」


 あ、ぼくもチームに入るのは決定なんだね。

 まあいいか。昨日は失敗しちゃったけど、見える以上は今後も幽霊や妖怪とは関わっていくと思う。だったらみんなで協力して、それらの事もっとよく知っていくのも良いと思う。

 危ない事をするわけじゃない。危ない目にあわないために、知っていかなくちゃいけないんだ。妖怪の事も、ぼくたちで何ができるかも。


 だから、チームを作るのには、ぼくも反対しない。するとマヨちゃんが楽しそうな声を出した。


「ところで、そんなことを言い出したってことは、もうチーム名は考えてるんだよね?」


 十勝君のことだからきっと、だいたいは決まっているのだろう。すると案の定、待ってましたとばかりにニヤリと笑う。


「いいか、オレ達のチーム名、それは『オカルトバスターズ』だ!」


 決まったとばかりにどや顔で言い放つ。たしかに中々カッコいい名前かも。だけどチョコがすぐに、いやそうな鳴き声を上げる。


「ダメニャ! 『バスター』って、やっつけるって意味ニャ。オカルトをバスターするってことは、アタシまでやっつけられちゃうニャ」


 あ、そういえばそうか。名前のひびきがカッコいいから、ついスルーしちゃうところだった。


「そうだね。ボク達は別に、妖怪をやっつけたいわけじゃないもんね。十勝君、バスターズは止めようよ。十勝君だってチョコや、前にあったタヌキさんを、バスターしたいわけじゃないでしょ」

「それは……まあそうだなあ」


 チョコの声は聞こえていなくても、マヨちゃんの説明で言いたいことはわかった様子。ちょっと残念そうだったけど、やっぱりこれは、ね。


「それじゃあ他に何か案はある? マヨちゃんは、こんな名前が良いっていうのとか無い?」

「ボク? もちろんあるよ。とってもカッコいい名前」

「お、どんなのだよ?」


 気を取り直した十勝君がたずねると、マヨちゃんはとたんに笑顔になる。この様子だと、相当の自信作のようだ。


「ボク達は朝霧小学校の、見ることができる人の集まりでしょ。十勝君は見えないけど、そこはおいとくとして。それをハッキリ表した名前はどうかな?」


 ハッキリ表すした名前? 例えば『見える人の会』とかかな? うーん、でもこれだと、カッコ悪すぎる気もする。マヨちゃんのことだから、きっともっと良い名前を……


「朝霧戦隊見えるんジャー」

「「反対!」」


 ぼくと十勝君の声が見事にハモった。一方すぐさま反対されてしまったマヨちゃんは、ふきげんそうに、ほほをふくらませる。


「ええーっ、何でー? 良いじゃない『見えるんジャー』。ボクレッドやりたいよ」

「バカ言え、レッドはオレ……まあ仕方ねーから、レッドはゆずっても良いけどよ、そのダサい名前だけは止めてくれ」


 今にも頭をかかえそうな十勝君。その気持ちはぼくもよく分かる。しかしマヨちゃんはどうしても、『見えるんジャー』にしたいみたいで。


「そんなこと無いよ。カッコいい名前じゃない。ねええ、コウ君だってそう思うでしょ?」

「ごめんマヨちゃん。ぼくもそれはちょっと」

「そんな、コウ君まで⁉」


 あ、しゃがみこんでスネちゃった。悪い事しちゃったかなとは思うけど、でもやっぱりその名前はいやだしなあ。見ると十勝君も、こまったようにため息をついている。


「そうふてくされるなって。もっと良い名前を考えたらいいだけだろ」

「ええーっ、『見えるんジャー』よりもいい名前ってあるの?」

「そりゃあいっぱいあるだろうけど……光太、お前は何か無いか?」

「え、ぼく?」

「何か言えよ。でないと真夜子の言った、ダサい名前になっちまうんだぞ」


 とにかく『見えるんジャー』はイヤだと言わんばかりに、急かしてくる十勝君。たしかにそれは、ぼくだってカッコ悪いと思うけど……


「朝霧戦隊。レッドやりたい……」


 急にフラれても、良い名前なんてそうそう思いつかないし。


「ボクがレッド、コウ君がブルー、十勝君がイエロー、チョコがブラック……」


 いっそ明日までの宿題にしたらどうかな? 急いで決めなきゃいけないものでも無いんだし。


「三人と一匹そろって、朝霧戦隊見えるんジャー……うん、やっぱりこれがいいよ」


 いや、やっぱりだめだ。ゆっくり考えている時間は無い。思った以上に、マヨちゃんは『見えるんジャー』を気に入っている。

 ここで何も言わなかったら、ひたすらにレッドにあこれているマヨちゃんがごりおしするかもしれない。それだけは止めなきゃ。

 何か良い名前は無いかって、頭をフル回転させる。そして、どうにか出てきた名前は……


「不思議クラブ……ってのはどうかな?」

「「不思議クラブ?」」

「ニャ?」


 みんなそろって、名前をくりかえす。


 ぼく達のやりたい事は、つまり不思議な出来事に関わっていくって事だから、『不思議』って言葉を使ってみた。そしてたぶん、放課後に活動する事が多くなるだろうし、何だかクラブ活動みたいだなって思ったから『クラブ』を当てはめてみたんだけど。あんまりよく無かったかな?


 時間が無いから、思い付きで考えたんだけど、みんなはどう思っているのだろう。ドキドキしながら返事を待っていると……


「不思議クラブ、良いんじゃねーか」


 予想に反して、十勝君は賛成してくれた。


「変にこったわけでもねーし、覚えやすくて悪くないと思うぜ。まあぶっちゃけ、見えるんジャー以外なら何でも良いけどよ」


 ああ、そう言うことね。名前を決めようと言い出したのは十勝君なのに、どうやらちょっとあきているみたいだ。


「ひどいよ、見えるんジャーってそんなにダメ?」

「ダメに決まってるだろ、そんなダサい名前。だいたいオレ、見えねーし」

「それはそうだけど……ねえ、チョコはどっちがいい?」


 期待をこめた目を向けるマヨちゃん。が、チョコはプイっと横を向いて、そのままぼくへとすりよってきた。


「アタシも不思議クラブの方がいいニャ」


 あ、チョコも気に入ってくれたみたい。これで三対一、名前は不思議クラブでもう決まりだろう。ただ、がっくりと肩を落としたマヨちゃんのすがたがどこか悲しい。


「そんなに落ちこまなくてもいいじゃない。そうだ、マヨちゃんの言っていた朝霧戦隊の『朝霧』を取って、『朝霧小学校不思議クラブ』ならどう?」

「『朝霧小学校不思議クラブ』? う~ん……」


 ちょっとでもアイディアを取り入れたら元気になるかなと思ったけど、マヨちゃんはまだ、何か言いたそう。うーん、やっぱりこれじゃあ、きげんはとれないか。


「じゃあよ、名前は『朝霧小学校不思議クラブ』にする代わりに、真夜子はレッドにしてやるよ。それなら良いだろ?」


 十勝君はそう言ったけど、さすがにそんな事できげんが直るわけが……


「えっ、本当に? それならオッケーだよ!」


 あれ、これでいいの? クラブ活動なのにレッドって、わけが分からないのに。

 だけどそんなぼくをよそに、マヨちゃんはなぜかノリノリな様子。


「コウ君がブルーで、十勝君はイエローで、チョコは……うーん、よく考えたら、チョコはブラックって言うより、指示を出す司令官かも」

「司令官? それって、クラブ活動なら先生って事かニャ?」

「そうだね。それじゃあチョコは、先生ってことにしようか」


 楽しそうに決めるマヨちゃん。だけど、チョコが先生かあ。


「なんかおかしくねえか? 猫助に先生ができるのかよ?」

「チョコならできるって。それに、ニャンコの先生って、なんだかおもしろいじゃない」


 満足そうに笑うマヨちゃんを見て、ぼくも十勝君も「まあ良いかと」うなずいた。マヨちゃんもチョコも楽しそうだし、ここでもめて、また『見えるんジャー』が良いなんて言い始めたら、そっちの方が大変だ。


「さて、名前も決まった事だし、早速始めるとするか」

「始めるって、何かあるの?」


 ぼくがたずねると、十勝君は待ってましたばかりに言い放つ。


「実はよ、今日聞いたんだけど、二丁目にある墓地で、幽霊を見たってヤツがいるんだよ。オレ達で調べてみないか?」


 幽霊のうわさかあ。だけどそう言うのって、何かを見間ちがえたってパターンが結構あるんだよね。もしかしたら調べても、いませんでしたで終わるかも。けど分からないからこそ、調べてみる価値があるのかもなあ……いや、ダメだ。


「もしも出るのが、悪い幽霊だったらどうするの? 昨日マヨちゃんのおばあさんに、おこられたばかりじゃない」


 もしかしたらまた危ない目にあうかも。ぼくは反対したのだけれど、十勝君はそれでも引かない。


「悪いヤツかどうかは、調べてみないと分からないだろ」

「それはそうかもしれないけど……」

「ボクも調べてみるのにはサンセイ! だってもしかしたら、この世に未練を残して成仏できない人かもしれないじゃない。だったらボク達が、そのお手伝いをしてあげればいいんだよ」


 マヨちゃんまで。ああ、でも言ってる事は一理ある。もしマヨちゃんの言う通り成仏できなくて苦しんでいるのなら、かわいそうだもの。


「大丈夫ニャ。いざと言う時は、アタシがみんなを守るニャ。今度はちゃんと効果のある霊能グッズを用意するから、大船に乗った気でいるニャ」


 得意気にむねをはるチョコ。前回の失敗があるから、その霊能グッズはどれくらい信用していいか分からないけど……ああ、もういいや。


「わかった。それじゃあ、みんなで調べてみよう」

「そう来なくっちゃな!」

「ああ、でももし本当に危なくなったら、その時はすぐににげる事。これは部長命令ね」

「分かってるって。それじゃあみんな、レッドに続けー!」


 意気揚々とかけ出すマヨちゃん。本当に分かっているのかなあ? これはいざと言う時は、ぼくがしっかり止めた方が良さそうだ。


 しかし少し進んだところで、マヨちゃんはピタリと足を止める。


「ところで、二丁目の墓地ってどこ?」


 知らないで行こうとしてたの? でも、なんだかマヨちゃんらしい。

 ぼくはクスリと笑って、後を追いかけて、十勝君とチョコもそれに続く。

 こんなぼく達だけど、これからも力を合わせて、不思議な出来事に向き合っていくと思う。


 朝霧小学校不思議クラブの冒険の日々は、まだ始まったばかりだ。

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