ぼく達はこれからも

 おばあさんの言葉を、何かのまちがいかと思った。だってたしかに危ない事はしたけど、どうしてぼくが一番おこられるの?

 だけど考えるよりも先に、おばあさんの大きな声が飛んできた。


「このバカタレがっ!」

「―———ッ!」


 耳をつくようなするどい声が、辺りにひびいた。

 やっぱりおばあさん、今までで一番おこってる。するとすかさず、マヨちゃんが前に出てきてくれる。


「おばあちゃん止めて。どうしてコウ君がしかられなくちゃいけないの? 一番悪いのはボクなのに」

「ああ、そうだ。一番悪いのはやっぱり言い出しっぺのアンタだよ。後でみっちり説教してやるから、覚悟しておき!」

「そんなあ~」


 ガックリと肩を落とすマヨちゃん。そしておばあちゃんは、ふたたびぼくの方を見る。


「けど一番大事なことが分かって無いのはこの子だよ。アンタはさっき、自分をオトリにして、みんなを逃がそうとしてたね」


 う、うん。このままじゃみんなビョウキにおそわれて、やられちゃうと思ったから。自分がオトリになれば、マヨちゃんや十勝君は逃げられるって考えたんだけど。


「ちょっと待ってくれよ。それのどこがいけねーんだよ?光太は危ないって分かってるのに、オレ達を守ろうとしてくれたんだぜ」

「そうだニャ。怖いのをガマンして、立ち向かって行ったニャ。これは勇気ある行動だニャ」


 十勝君もチョコも、慌てたようにそう言ってきたけど、実はそんなに、深く考えてたわけじゃないんだよね。みんなが傷つくのがいやで、気がついたら動いていたと言うか。だけど……


「バカ言ってんじゃないよ!」

「「ひいっ!」ニャ!」


 二人の言葉を、一言ではねのけるおばあさん。そしてそのまま、じっとぼくを見つめる。


「危ないって分かって守ろうとした? それがダメなんだよ。もし他のヤツらが助かったとしてもだよ、それでアンタが傷ついたら、助けられたヤツらはどう思う? もしも立場が逆だったら、アンタはありがとうって感謝できるの言えるのかい? ちがうだろう!」

「あっ……」


 おばあさんが言いたい事が何なのか、ようやく分かった。

 もしおばあさんの言うように、立場が逆だったら、ぼくなら自分をせめてたと思う。もしかしたらそれは、ビョウキにやられらるよりも、ずっと辛い事かもしれない。

 みんなが助かればいいとは思ったはずなのに、その後の事を全く考えていなかったことに、今頃気付いてしまった。


「どうやら分かったみたいだね。いいかい、助けるって言うのは、その場しのぎじゃダメなんだ。アンタがオトリになる事で、一次的には守れたかもしれない。だけどその後、心に大きな傷を負ったら、意味が無いじゃないか。あんな物は、勇気とは呼べないね」

「……ごめんなさい」

「いいかい。自分のしたことで、他の人がどう思うかちゃんと考えるんだ。それに自分自身を守れないようなヤツが、だれかを助けようなんて、百年早いよ。アタシは命を大事にしないような子は大キライだよ」


 たしかに、ぼくは何も分かっていなかった。一人で先走って、勝手に何とかなるって思いこんでいて。

 だけどガックリと肩を落とすぼくを見て、マヨちゃんがもう一度口を開いた。


「待ってよおばあちゃん。そりゃあたしかにあの時のコウ君には、ボクも言いたい事はあるけど、それでもボク達を助けようとしてくれたんだよ」


 さっきまではおこられて小さくなっていたけど、その目はまるで火がついたように熱くて。必死になってぼくをかばおうとする。


「おばあちゃん、前に言ってたじゃない。『例えやった事はまちがっていても、その時の気持ちまでまちがっていたとは限らない』って。だから助けようとしてくれたコウ君の気持ちは、まちがいなんかじゃないんだよ。十勝君やチョコだってそう思うよね?」

「当り前だろ!」

「もちろんニャ」


 三人とも息を合わせて、ぼくをかばってくれる。おばあちゃんは少しの間、そんなみんなの様子を見ていたけど、やがて小さく息をついた。


「……そうだね。たしかにだれかを助けたいって気持ちは、まちがってるとは言えないか。アンタ、光太って言ったね」

「は、はい」

「アンタのやった事はまちがいだ。だけど、その気持ちはわすれちゃいけないよ。それと、孫を助けようとしてくれてありがとうよ」


 そう言っておばあちゃんは、やさしくぼくをだきしめてくれた。


 温かい。ぼくが生まれた時にはもう、ぼくのおばあちゃんは亡くなっていたのだけれど、もしも生きていたらこんな風に温かい人だったのかな?


 やがておばあさんは手をはなして、ニッコリとした笑みをうかべる。やっぱりマヨちゃんのおばあちゃんなんだなあ。笑った時の目元がそっくりだ。そんな風に思っていると……


「さて。それじゃあ次は、真夜子の番だね」

「ううっ」


 さっきまでの笑顔が一転、けわしい顔つきになるおばあさん。でも、ちょっと待って。


「待って下さい。おばあさん、ビョウキと勝負をしてた事を、どうしてマヨちゃんにだまっていたんですか?」

「なんだい急に? そりゃあもし話したら、この子がいらない心配をしそうだから……」

「話してくれなくても心配しますよ。マヨちゃん、一度聞きはしたんですよね。その時ちゃんと話しておけば、ぼく達そもそもこんな無茶はしなかったと思うんですよ」


 少なくともぼく達だけでビョウキをやっつけようとはしなかったと思う。何かしようとしたとしても、先におばあちゃんに相談してたんじゃないかなあ。


「あ、ああ。たしかに真夜子も勝手したけど、ばあちゃんだって何も言ってくれなかったんじゃないか」

「そうニャそうニャ。おばあちゃん、マヨちゃんに心配かけないようにだまってたニャ。だけど本当にマヨちゃんの事を考えるなら、何があってるのか話しとくべきだったんだニャ」


 マヨちゃんがおこられないよう、口々にわめくぼくら。こんな事をして、もしもっとおこらせちゃったらどうしようかと、思わなかったわけじゃないけど。

 けどおばあさんはおこるわけじゃ無くて、深くため息をついた。


「アタシもまだまだだねえ。こんな子供らに一本取られるだなんて」

「え、ええと。おばあちゃん?」

「たしかにちゃんと話をしていなかったアタシも悪かったよ。ゴメンよ、真夜子。次にこんな事があったら、その時はちゃんと話すからね」

「おばあちゃん……」


 マヨちゃんの表情がぱあっと明るくなって、十勝君とチョコがホッとむねをなでおろす。ただ一人ぼくだけは。


「あの、次があるんですか?」

「あるかもしれないねえ。妖怪とこんな風に勝負をする事なんて、ザラにあるからねえ」


 遠い目をするマヨちゃんのおばあさん。ぼくもマヨちゃんも十勝君も、思わず言葉を失ってしまう。妖怪と勝負をするのがザラにあるって、この人はいったい、何をやっているんだろう? 深くはツッコまない方がいいのかなあ?


 そんな事を思っていると、おばあさんはパンパンと手をたたいた。


「ほらほら。いつまでもこんな所につっ立ってないで、うちにおいで。帰ったら、いきなりダンゴを作ってあげるから。みんなで食べよう」

「うん。おばあちゃんのいきなりダンゴ、おいしいんだよ」


 いきなりダンゴと言うのは、この辺りではポピュラーな、サツマイモとアンコをオモチで包んだおダンゴのこと。

 それを聞いて、うれしそうにかけ出すマヨちゃん。そしてその後ろを、十勝君とチョコが追う。


「おい待てよ。置いていくなって」

「おダンゴなんてひさしぶりニャ。だくさんいただくニャ」


 ああ、みんな行っちゃった。早く早くと手をふるマヨちゃんを見ながら、ぼくとおばあさんも歩き始める。そうして少し行ったところで、おばあさんがポツリとつぶやいた。


「同じ景色が見える友達がいて、あの子は幸せだね」


 それは本当に小さな声だったけど、不思議と心にひびいたような気がして。もしかしたらおばあさんはぼく達くらいの年のころ、他に見える人が周りにいなくて、その事をさみしく思っていたのかもしれない。ぼくも少し前まではそうだったから、その気持ちはよく分かる。


「アンタ……これからも、真夜子と仲良くしてあげてくれるかい」

「もちろんです。だって大切な友達なんですから」


 この気持ちは、何があっても変わったりはしない。するとおばあさんはぼくを見ながら、ニッコリと笑った。

 おばあさんが見せてくれた笑顔は、笑った時のマヨちゃんと同じように、まるでお日様のようにキラキラとかがやいていた。



      病気を運ぶ鬼 終わり

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