おばあちゃんのお説教
おこった声で名前をよばれて、ビクッとふるえるマヨちゃん。その迫力ときたら、思わずぼくや十勝君まで、つい小さくなってしまった。
「いったいどうしてこんな危ないマネをしたんだい? 妖怪が良いヤツばかりじゃ無いことくらい、分かっているだろう」
「だっ、だってあいつ、おばあちゃんのことをねらっていたから、心配で……」
「それで勝負を仕掛けたっていうのかい? けどそれでどうなった。アタシが来るのがもう少しおそかったら、お前はまちがいなくアイツにやられていたんだよ」
「それは……」
何も言い返せずに、だまってしまうマヨちゃん。たしかに今回ぼく達は、何もできなかった。最初はみんなで力を会わせたら何とかなるなんて考えていたけど、そんな事はなくて。もしもマヨちゃんのおばあさんが来なかったら、大変な事になっていたと思う。
「それに友達までまきこんで、何を考えているんだい? お前のわがままでどれだけ迷惑をかけて危険な目にあわせたか、ちゃんと分かっているのかい?」
「それは……ごめんなさい……」
もうしわけなさそうに、頭を下げるれるマヨちゃん。
だけど待って。おばあさんの言ってる事は正しいけど、それでも言っておかなくちゃならないことがある。
「あ、あの。ちょっと待ってください」
ぼくはマヨちゃんの前に立って、おばあさんと向き合った。
「ぼくは別に、マヨちゃんのわがままにまきこまれたわけじゃありません。来たのは、そうしたいと思ったからです」
「コウ君? いいよ、かばってくれなくても。悪いのはボクなんだから」
「ううん、それはちがうよ。もしもマヨちゃんが相談してくれなくても、きっと自分で調べてたと思う。だって、友達がなやんでいたんだもの」
そして結局は、危ない目にあっていたことだろう。ううん、バラバラに行動する分、もしかしたらもっと、ヒドイ結果になっていたかも。
もちろんだからと言って、ぼくらのやった事が正しかったわけじゃないけど。だけどマヨちゃんだけのせいじゃないって事は、どうしても伝えたかった。
「お、オレも別に真夜子に言われてやったわけじゃねーから。自分で決めたんた」
「アタシもニャ。そもそもアタシがもっとちゃんとしたお札を用意していれば、こんな事にはならなかったニャ」
十勝君もチョコも近くよってきて、マヨちゃんをかばう。おばあさんはそんなぼくたちをじっと見つめていたけど、やがてため息をついた。
「つまり、今回の事は全員の責任ということで良いんだね?」
「「「「はい!」」」はいニャ!」
みんなの声がハモる。するとおばあさんはまず、チョコに向かって話し始めた。
「そこのネコマタ。あんたはどうして、この子達に手をかしたんだい?」
「朝霧小学校はアタシのナワバリニャ。だからそこに通っている子達の安全を守らなきゃいけないニャ」
「そうかいそうかい。で、この子達をちゃんと守ることはできたのかい?」
「そ、それは……ニャ」
返事にこまるチョコ。せっかく用意したお札が、何の役にも立たなかったのだから無理も無い。
「いいかい。アンタが本当にこの子達の事を守りたいって思っていたのなら、何とかして止めるべきだったんだ。手をかすのは悪い事じゃないけど、止めるよう説得するのも、大事だからね」
「ご、ごめんニャ」
シュンとシッポをたらして、うなだれるチョコ。おばあちゃんはそんなチョコの頭をそっとなでると、続いて十勝君の方を向く。
「アンタ、名前は?」
「ええと、十勝陽介です」
「アンタはさっき、ビョウキのヤツが見えていなかったみたいだけど、もしかして全く見えないのかい? それでいったい、何をするつもりだったんだ?」
「そ、そりゃあたしかにオレは見ることはできねーけど、それでもできる事はあるだろうし、いないよりはいた方がいいだろうと思って」
そう。実際に十勝君はビョウキ相手に石を投げてくれた。結局その後ピンチにはなっちゃったけど、何も出来ないわけじゃ無いんだ。だけど……
「もしかしてアンタ、見えなくても何とかなるなんて考えてるんじゃないだろうね?」
「えっ? それはもちろん……」
「あまったれるんじゃないよ! 相手も見えないし、おそわれてもろくににげる事も出来ないって、ちゃんと分っているのかい? アンタが足を引っぱりでもしたら、他のヤツらが危険な目にあうかもしれないって、どうして考えられない?」
「うっ……」
何も言い返す事が出来ない十勝君。キツい言い方だったけど、おばあさんの言った通り、見えないのは大きなハンデになる。
ぐうの音も出ずに、だまってしまう十勝君。おばあさんはそんな十勝君に、さらに問いかける。
「本当ならアンタのような子は、妖怪や幽霊といったモノには関わらない方がいいんだ。真夜子と仲良くなりたいだけなら、わざわざそんな事に、首をつっこまなくったって良い。悪い事は言わないから、今までの事は全部わすれて、もう関わるのはお止め」
[―—っ!」
ばあさんの言う通り、無理に関わって取り返しのつかないことになってから、後悔してもおそい。全ての幽霊や妖怪が危ないと言うわけじゃないけど、今日みたいなこともあるし。見えないとなると、関わらない方が安全だと思う。だけど。
「いやだ……」
くやしさをかみ殺すように、しぼり出した言葉。十勝君は顔を上げると、大きく口を開く。
「オレだけ仲間外れなんて、そんなのいやだ! これだけ関わってきたのに、今さら全部無かった事になんてできるかよ!」
おく歯をかみしめて、強い目でおばあさんのことを見つめている。
ぼくは今まで、こんなくやしそうな十勝君を見たことが無かった。十勝君は真剣な目でおばあさんを見て、そして言った。
「真夜子や光太にはちゃんと見えてるし、ネコ助だって本当はしゃべってるんだろ!見えないのも声が聞こえないのも仕方ないけどさ、分かってて知らんぷりするのなんて、絶対にいやだからな!」
まるで今にも泣き出しそうなほどくやし気で、だけどその目は真っ直ぐで。もしかしたら十勝君は、ぼくらの中で自分だけ見えない事を気にしていたのかもしれない。それでも、本当はそこにあるって分かっているから、必死になって関わろうとしてきたのかも。
何か声をかけてあげたい。だけど何を言っていいか分からずに、オロオロするぼく達。けどおばあさんはちがった。十勝君の話を聞き終えると、フッと表情を和らげる。
「そうかい。だったらまず、自分が弱いってことを自覚しな。見えない事も声が聞こえない事も、人ならざるモノと関わる上では大きな欠点になる。それをキモにに命じておくことだね」
「……おう」
「いい子だ。今の気持ちを、忘れるんじゃないよ。時間はかかるだろうけど、あせらずゆっくりやるんだよ」
「……はい」
最後はめずらしく、すなおにぺこりと頭を下げた。おばあさんはそんな十勝君の頭をやさしくなでる。
マヨちゃんのおばあちゃん。ちょっと怖い所もあるけど、やさしい人だ。マヨちゃんがなついている理由もよく分かる。と思ったその時……
「さあ、次は一番ガツンと言わなきゃいけない子の番だね」
おばあさんはそう言って、つり上げた目をぼくに向けててきた。
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