ビョウキ再び
チョコからお札をもらったぼく達は、そのマヨちゃんの家へと向かうことにした。
昨日とちがうのは、ぼくたちの他にチョコもいるということ。ぼくらだけでは心配だからと、いっしょに来てくれたのだ。お札に加えてチョコも味方してくれるとなると、よりいっそう心強い。
「アタシが力をかすんだから、大船に乗ったつもりでいるニャ」
「ありがとう、期待してるよ、チョコ」
昨日通ったのと同じ道を、三人と匹で歩いて行くと、田んぼのわきにある一本の木に目が止まった。たしかマヨちゃんの話では、この前はあの木の上にビョウキはいたんだったよね。
「そういえばビョウキは、どうしてマヨちゃんのおばあちゃんをねらっているのかな?」
「分からない。もしかしたらおばあちゃんは何か知っているのかもしれないけど、前に相談したときは、気にするなって言われちゃったし」
「もしかしたらばあちゃんがねらわれてるって言うのは、かんちがいってことは無いのか? それならもうアイツは、来ないかもしれねーぞ」
十勝君はそう言うけど、どうだろう? また来るみたいなことを言っていたからねえ。本当におばあちゃんがねらわれてるかどうかは分からないけど、やっぱり心配だよ。もちろん、来ないならその方がいいんだけど。
「ごちゃごちゃ考えたって、なるようにしかならないニャ。みんなしっかり気持ちを引きしめて……ニャニャ⁉」
ぼくらの前を歩いていたが、急に足を止めて毛を逆立たせる。そして次の瞬間、昨日感じたのと同じ寒気がおそってきた。
「コウくん、これって?」
「マヨちゃんも感じる?それじゃあやっぱり……」
「どうした?ビョウキが近くにいるのか?」
たぶんそうなのだろう。ぼくもマヨちゃんもチョコも、近くにビョウキがいないかと、辺りを見る。
すると田んぼの先から黒い影が空をまいながら、こっちに向かってくるのが見えた。
「いた、真っ直ぐこっちに……ううん、あれはもしかしたら、ボクの家に行こうとしてるのかも?」
「それってまずくないか?先を越されちまったら、退治できねーぞ」
「よし、ここはアタシにまかせるニャ……ニャニャニャニャニャ」
チョコは何やら上を向いて、ニャーニャー言い始めた。そして。
「ニャアアアーーーーーーーーーーッ!」
まるで耳がこわれるかと思うくらいの、特大の鳴き声を上げたのだった。そのあまりの声の大きさに、思わず耳をふさぐ、ぼくとマヨちゃん。
「ねえ、これにいったいどんな意味があるの?」
「よくぞ聞いてくれたニャ。実はこのおたけびには、相手の気をそらしておびきよせる効果が……おっと、そんな説明をしてるヒマは無いニャ。来たニャ!」
チョコの言う通り、さっきまでは空にあった黒いかたまりは、ぼくらのすぐ前におりてきた。そして昨日とはちがって、今回はすぐに、その正体を現す。
「マタ……オマエたちカ」
影が晴れて、見えてきたのは毛もくじゃらの大鬼。昨日の感じた恐怖が思い出されて、足がすくんでしまう。
「あ、なんか今変な感じがした! てことは、やっぱり近くにいるんだな」
ビョウキのすがたが見えない十勝君は、そんな事を言ってるけど、近くと言うか、本当はもう、目の前にいるんだ。もしその気になれば、すぐにでもおそいかかってこれる距離。
正直とても怖い。ぼく達にはお札があるとは言え、本当に勝てるかなあ?
やっぱりここは、ヘタに動かず、しんちょうに……
「コラー、ビョウキー!昨日はやられちゃったけど、今日は負けないんだからねー!」
……ぼくの思いもむなしく、マヨちゃんがビョウキをおこらせるような事を言ってしまった。しんちょうに動かなきゃいけないのに。
「マ、マヨちゃん。もうちょっと相手を、おこらせないようにしなくちゃ」
「ダメだよそんな弱気になってちゃ。おばあちゃんが言ってたよ、気持ちで負けてたら、勝てるものも勝てなくなるって」
「たしかにそれはそうかもせれないけど……」
「平気だって。こっちにはお札もあるんだしさ」
それはそうだけど、本当に大丈夫なのかな?
おそるおそるビョウキに目を向けると、向こうもするどい目でぼくらをにらんでいた。これはもしかしなくても、おこってる?
「いいだろウ……お前たちがその気ナラ……サキにアイテをしよウ」
「いえ、ぼくらは別に、無理にケンカしようってわけじゃないんです」
お札があるとはいえ、話し合いで解決できるならその方が良い。いくらビョウキが怖い相手でも、こうして言葉が通じるなら、話せばわかってくれるかもしれない。だけど……
「何言ってんだよ光太。オレ達ビョウキを、やっつけに来たんじゃねーか」
「ちょっと、十勝君?」
「おいビョウキ、こっちには秘密兵器のお札があるんだからな!お前なんてケチョンケチョンにしてやる!」
十勝君にはビョウキのすがたが見えていないはずなのに、それでもノリノリで言ってのける。
どうしてくれるの、これでもう絶体に話し合いなんてできないよ。しかも秘密兵器って言っておいて、思いっきりバラしちゃってるし。
ああ、状況はどんどん悪化していってる気がする。だけどマヨちゃんも十勝君も、その事にまるで気づいてない。そして。
「ウルサイやつらダ……ソレならノゾミどおり、アイテをしてくれル!」
そう言ったかと思うと、ビョウキが大きく腕をふり上げた。マズイ、このままだと、お札を使う前にやられちゃう。そう思ったけど。
「光太くん、マヨちゃん、ひとまずコイツからはなれるニャ」
そう言ったチョコが、ぼくらとビョウキの間に割って入った。腕をふり上げたビョウキの顔を、チョコがツメで引っかいた。
「アアアアアア!?」
いきなり引っかかれたビョウキは、思わず顔を手でおおう。
よし、今のうちだ。ぼく達はチョコの指示通り、ビョウキからはなれた。
「なんだ? どうなってんだ?」
「チョコがビョウキを引っかいたんだよ」
「そうか。で、オレはいったい何をすればいいんだ?」
「ええと、それじゃあ……とりあえずはなれて、その辺の石でも拾っておいて。それで、いざとなったら、ビョウキに向かって投げて」
「わかった」
マヨちゃんに言われて、素早く石を集め始める十勝君。あの大きな鬼に石なんてぶつけてもダメージがあるかどうかはわからないけど、何もしないよりはマシかもしれない。それに相手のすがたが見えない十勝君を遠ざけられたのは大きい。すがたが見えなければ攻撃をよけられないけど、とりあえずはなれておけば、おそわれる心配は少なくなる。すがたが見えないビョウキ相手に、十勝君がどうやって石をぶつけるのかは、今は考えないでおこう。
そうしてそれぞれが持ち場についた時、体勢を立て直したビョウキが、チョコをおいかけ始めた。
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