古びたお札
「ふむふむ。それはたぶん、ビョウキという妖怪ニャ」
マヨちゃんの家に行った次の日の放課後、昨日会ったあの鬼の事をチョコに相談するために、ぼくら三人は学校の体育館うらに来ていた。何があったかをくわしく話してみると、チョコはすぐにアイツの正体を言い当ててくれた。
「ビョウキ?それって、カゼをひいたり熱が出たりする病気……じゃないよな。そんな妖怪がいるのか?」
ぼくがチョコから聞いた話を伝えると、十勝君が首をかしげる。昨日は寒気がしていたと言う十勝君だったけど、今はこの通りピンピンしている。どうやら調子が悪かったのはあの時だけで、少し休んだらすぐに良くなったのだ。だけど。
「十勝君の言うことも、的外れじゃないニャ。ビョウキと言うのはその名の通り、人を病気にさせてしまう鬼、病の鬼と書いて、『病鬼』ニャ。そのツメでおそわれた人はみんな、三日間高熱にうなされて、最悪死んでしまうんだニャ」
「そんな危ないヤツだったの? って、あれ? でも十勝君はちょっと休んだだけで治ったよね」
「それはツメで引っかかれたわけじゃないからニャ。よく思い出してみるニャ、ビョウキは、十勝君をおそったりしたのかニャ?」
言われてみればたしかに。頭の上に手を置いたりはしたけれど、ツメで引っかいたようには見えなかった。
「けどという事は、ちょっと頭をなでられただけで、気分が悪くなったって事だよね。あの時の十勝君、真っ青だったし」
「ああ。オレはそのビョウキの声も聞こえなかったし、すがたも見えなかったけど、何かヤバいヤツが近くにいるような、変な気はした。何て言うかこう、ブワーってなったんだ」
また新しい表現が出てきた。まあいいや、たぶんぼくやマヨちゃんがビョウキを見た時と、同じようなものなんだろうし。それより問題は。
「どうして妖怪が見えない十勝君が、ビョウキのことを感じることが出来たのかな?」
「たぶんそれだけ、ビョウキの力が強かったんだニャ。強い力を持った妖怪は、見ることが出来ない人間も何となく、感じることが出来るのニャ」
「それって、あのビョウキがすっごく強いって事じゃない。そんなの相手に、ボクらいったいどうすればいいの⁉」
めずらしく弱気なマヨちゃん。無理もない、昨日はビョウキを前に、三人ともなす術がなかったのだから。だけど気になるのは、ビョウキが言った言葉。今日また来るみたいなことを言っていたけど、だったらやっぱり放っておくわけにはいかない。
「アイツやっぱり、おばあちゃんがねらいなのかも。なぜだか分からないけど、もしかしたら昨日は、おばあちゃんが家にいなかったから帰ったのかも」
たしかに、そうかもしれない。ぼくらもあの後、十勝君が回復してすぐにそれぞれの家に帰ったから、マヨちゃんのおばあちゃんとは会えずじまいだった。もし本当にねらわれているのがおばあちゃんなら、話を聞けたら何かわかるかもしれないけど。
「マヨちゃん、おばあちゃんには昨日のことは話したの?」
「ううん。心配かけたくないから、だまっておいた。おばあちゃんのことだからもし何があったのか話したら、おばあちゃんのことだから、自分で何とかしようとすると思う。けどそれって、危ないよね」
「たしかにアイツ、ヤバそうだもんな。と言うわけなんだけどネコ助、オレ達の話聞いてたか? 真夜子のばあちゃんを助けたいから、手をかせよ。お前も妖怪なんだろ」
ちょと前までは本当にチョコが妖怪かどうか、うたがっていたみたいだけど、今は妖怪ちゃんと信じて話を進める十勝君。きっと事の重大さが分かっているから、文字通り、ネコの手もかりたいんだと思う。
「やれやれ、ネコ使いが荒いニャ。とは言え三人とも、アタシのナワバリの小学校の子ニャ。何かあったら後味悪いから、まとめてめんどう見てあげるニャ」
「ありがとうチョコ。今度ソーセージでもチーズでも持ってきてあげるね」
「それは楽しみだニャ。さて、どうやってビョウキを相手にするかだけど、やっぱり丸こしじゃ危ないニャ。ちょっと待ってるニャ」
そう言ってチョコは何を思ったのか、体育館の床下にもぐらせてしまった。
「何だネコ助のヤツ、どっかに行っちまって。まさかにげたのかよ?」
「きっとちがうよ。ちょっとだけ待ってみよう」
十勝君をなだめていると、床下に消えてたチョコがまたひょっこりと頭を出した。そしてその口には、何やらボロボロの紙をくわえていた。
「チョコ、それは何かな?」
「よくぞ聞いてくれたニャ。これはかの昔、えらいお坊さんが書いた、霊力のこめられたお札ニャ。もし悪い妖怪や幽霊がこのお札にさわったら、たちまちのうちにもがき苦しむという優れものニャ」
このボロボロのお札が? そんなスゴいアイテムなら、もうちょっと大事に扱っても良いのに。
いや待てよ。だいぶ古い物みたいだから、こんな風にボロボロになってるのも仕方が無いか。それにこんな風に古い方が、本物っぽい感じがする。
「へえー、スゴいねえ。あ、分かった。これをビョウキにはれば、やっつけられるって事だね」
「そういう事ニャ」
「これなら、何とかなるかも。でもこんなすごいお札を、どうしてチョコが持ってるの?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたニャ。実はアタシは、こういうオカルトアイテムのコレクターなんだニャ。色んな所に出向いては集めたコレクションを、この中にかくしているんだニャ」
え、この体育館の下に? という事は奥にはまだまだ、こういう曰く付きの品がゴロゴロあるって事かなあ? まさか通いなれた学校に、そんな物がかくされてるだなんて知らなかった。
「あ、でも興味を持っても、勝手に中の物を持ち出したりしたらダメニャ。これらはアタシが苦労してこっそり持ってきて……ちょっとだけ借りてる品ニャンだから」
こっそり持ってきてって……
チョコ、もしかしなくてもそれってドロボウなんじゃないの? という事は、もしかしたらこのお札も……いや、深く考えるのは良しておこう。せっかく手に入った強力なアイテムなんだから、よけいな事を言って取り上げられちゃったらいけない。なのに……
「ずいぶんきたない札だな。こんな物が、本当に役に立つのかよ?」
ぼくの気づかいをぶちこわしにするような事を、十勝君が言ってしまった。案の定チョコは、いやそうにため息をつく。
「そんなに言うんだったら、もうかしてあげないニャ。せいぜい自分達だけでがんばるニャ」
「わー、待って待って。十勝君、早くあやまってよ。変なこと言うからチョコがおこって、お札をかさないって言っちゃったじゃない!」
「わ、悪い。あやまるよ、悪いヤツをやっつけられるだなんて、すげーお札だよ。ん? そう言えば妖怪が苦しむのなら、どうしてネコ助は無事なんだ?」
首をかしげる十勝君。するとチョコは、あきれたようにため息をついた。
「光太君、この子にもう一度説明してやるニャ。アタシは悪い妖怪がさわったらって言ったのに、この子には伝わってないニャ」
つまり、良い妖怪には効果が無いって事だね。
だけどこの事を伝えたところ、十勝君が「お札を盗んでくるようなドロボウネコは、悪い妖怪じゃ無いのか?」とか言っちゃったから、チョコがまたおこっちゃって。
「もうお札はかさないニャ! 十勝君なんて、ビョウキにやられちゃえば良いんだニャ!」
「チョコ、そんなこと言わないで。ボクのおばあちゃんの一大事なんだから」
「十勝君、お願いだからよけいな事は言わないで!」
そんな感じで、何だかグダグダになっちゃったけど、ぼくたちはたくさんあやまって。最後にはどうにか、無事にお札をかしてもらえる事になった。
ふう、良かった。大変だったけど、これでビョウキと戦うのに、希望が出てきたかもしれない。
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