事件の終わり

 人食い自販機の正体をつき止めた次の日。登校した十勝君はすぐに、先に教室に来て友達と話をしていた黒田君の所に行った。


「大毅、昨日お前が言ってた、人食い自販機の所へ行ってきたんだけどよう」

「お前、マジで行ったのか? それで、どうだった? やっぱり、何か起きたか⁉」


 食い入るように顔を近づける黒田君。周りにいた他の子達も、気になったのかそっちを見てくる。すると十勝君は、ヘラヘラとした笑みをうかべた。


「それがよ。聞いた場所に行ってみたけどさ、そもそも自販機なんて無かったぞ。かげも形も」

「へ? う、ウソだろ?」


 きっと何も起きなかったくらいは考えていただろうけど、自販機そのものが無かったなんて、想像していなかったのだろう。だけど最初は、目を白黒させていたけど、思いついたように十勝君に言う。


「さてはお前、本当はビビッて行かなかったな。でも行くって言ったもんだから、引っこみがつかなくて、デタラメ言ってるんだろ」

「バーカ。それなら何も無かったって言うに決まってるだろ。だいたいあの道、ほとんど人通らねーじゃねーか。あんな所に、ふつうは自販機なんて置かねーよ」

「それは……」

「あ、でもこんな物が落ちてたぜ」


 そう言って十勝君が取り出したのは、五百円玉。昨日タヌキから返してもらったものだ。するとそれを見た黒田君は、目を丸くする。


「これってまさか、オレが自販機に入れた五百円玉か? どこにあったんだ」

「お前のかどうかは知らねーけど、礼の自販機があるって聞いた場所にあったんだ。お前が無くしたのも五百円だったって思ったから、持ってきたんだけど、コイツでまちがい無いか?」

「オレのかどうかは、分からないけど……」


 黒田君は返事にこまっている様子。名前を書いているわけでもないから、自分の物かどうかなんて分からないのも仕方ないよね。だけど消えてしまった自販機や、あったはずの場所に落ちていた五百円玉を、不気味に思っているみたい。心なしか顔色が悪い。


「そう言えばこれを見つけた時、すぐ近くでタヌキを見かけたなあ。もしかしてお前、タヌキに化かされたんじゃねーの?」

「バカ言え、そんなわけあるか」

「本当か? タヌキにうらまれるような事、した覚えは無いのか? 例えば、遊び半分で石をぶつけたりとか」

「それは……」


 心当たりのある黒田君は、青い顔をする。

 きっとタヌキに石を投げた事を思い出しているんだと思う。だまってしまったのを見ると、そのタヌキが、仕返しに化かしたって、分かってくれたのかもしれない。

 一方十勝君は、五百円玉を返すと、そのまま黒田君に背を向ける。


「じゃあ五百円、たしかに返したぞ。もうあんまり、タヌキをイジメるなよ」


 そんな事を言って、去っていく十勝君。そしてその足で、はなれた所で様子を見ていた、ぼくとマヨちゃんの所へとやってきた。


「良かった、上手く返せたみたいだね。ウソついちゃったのはちょっと気が引けるけど」

「別にウソなんて言ってないぜ。なあ光太」

「うん。本当にあそこには自販機は無くて、タヌキがいただけだし。タヌキに化かされたって言うのも、もちろん本当。全部を話したわけじゃないけど、ウソをついたわけじゃないんだから」

「あっ、そう言えばそうだね」


 五百円は、ちゃんと黒田君に返さなければならない。同時に、黒田君にもちゃんと反省してもらいたかったから、自分が悪い事をしたんだって分からせる必要があった。

 でも全部を話したところで、信じてもらえるかどうか分からないし、もし信じたとしても、それでおこってまたタヌキをイジメでもしたら良くない。だけどウソをつくのも、やっぱり気分が悪いから、本当のことだけを言って、どうにかごまかせないかって、昨日話し合ったんだ。もちろん、黒田君が反省してくれるように、オカルトっぽい話になるよう考えたんだ。

 くわしい話を聞いた十勝君も、『最初に石をぶつけたのが大毅なら、アイツが悪いな』って分かってしてくれた。


 結果、どうやら黒田君は十勝君の話を信じてくれたみたいで、様子を見ると、どうやらちゃんと反省もしているみたい。これでもう、タヌキをイジメたりはしないだろう。


「これで人食い自販機の事件もおしまいだね」

「そうだね。黒田君ももう、タヌキさんを見ても石をぶつけたりはしないだろうし」

「だな。って、そうだ真夜子。お前に言わなきゃいけない事があったんだ。お前昨日、オレを疑っていたよな!」

「えっ?」


 疑ったって、何の事? ぼくにはわからなかったけど、十勝君はとても、何だかおこった様子。だけど当のマヨちゃんもよく分かっていないみたいで、ポカンとしている。


「何おこってるのさ? ボクが何をしたって言うの?」

「とぼけるな! あのタヌキが意地悪されたって話になった時、オレに謝れって言ってきただろ」


 ああ、そう言えば。そんなこともあったねえ。ごめん、実はぼくも、十勝君ならあり得るかもって、ちょっと思ってた。だけど当然、疑われてしまった十勝君は面白くないみたい。


「そ、それは誤解だよ。もしかしたらって思っただけなんだから。それに、今ではちゃんと反省してるよ。だからゆるして」

「いーやゆるさない。オレはあの時、すげー傷付いたんだからな」

「だからちゃんと反省してるって。反省した子を責め続けちゃいけないって、ボクのおばあちゃんが言って……」

「やかましい!」


 顔を真っ赤にしながらおこる十勝君と、平あやまりするマヨちゃん。いつもはマヨちゃんがおこって、十勝君があやまるか、口ケンカになる事が多いけから、こう言うのはめずらしいなあ。


 ぼくはそんな二人を見て、今日も平和だと思いながら、クスリと笑った。



    人食い自販機のうわさ 終

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