反省したタヌキさん
たしかにこのタヌキは悪さをしてきたけれど、まずはどうしてあんな事をしたのか、話を聞くべきだと思う。だけど十勝君は、ようしゃ無い言葉で、タヌキを責め立てていく。
「よく分かんねーけど、コイツが自販機の正体だったんだな? そうだったんだろ! イタズラタヌキめ、どうやってこらしめてやろうか?」
「ええーっ⁉ ヤダヤダ、ボクちゃんと反省したポーン!」
「ギャーギャーうるせーけど、何言ってるのか分かんねーよ。命ごいでもしてるのか? けどいくらあやまっても、悪さをしたタヌキはタヌキ汁にされるって、昔から決まってるんだ!」
「止めて止めてー! もうしないから、だれか助けポン!」
あ、タヌキの目から、なみだがこぼれた。こんなにおびえて、ちょっとかわいそうかも。するとマヨちゃんがおこったように、十勝君からタヌキをひったくった。
「もう、ダメじゃないイジメちゃ!」
「で、でもよう。先に悪さしてきたのはコイツだぜ」
「それでもだよ。十勝君は分からないかもしれないけど、この子あやまってるんだよ。おばあちゃんが言ってたよ。悪い事をした子をしかるのはいいけど、反省した子を責めちゃいけないって」
「わ、わかったよ」
マヨちゃんの勢いに負けて、たじたじの十勝君。マヨちゃんはタヌキを地面に下ろすと、もう一度やさしい声で問いかける。
「ねえ君。もしかして一昨日も、男の子相手に同じ事してなかった? ボク達のクラスメイトなんだけど」
「えっ、もしかしてそれって、あの石を投げてきた子の事ポン?」
ビックリしたように毛を逆立てるタヌキ。でも、石を投げてきたって……
「どういうことなの?」
「実は少し前に、ボクが食料をさがしに山から町に下りてきたら、その男の子に見つかったポン。そしたらその子、ボクは何もしてないのに、面白がって石を投げてきたんだポン。頭に当たってタンコブができちゃったポン」
そう言って見せてくれたタヌキの頭は、治りかかってはいるモノの、たしかに小さなコブができていた。
「それでつい、仕返ししてやろうと考えて、のどがかわく催眠術をかけて、自販機に化けておどかしたんだポン」
「へえー、君は催眠術も使えるんだ。スゴいね」
「それほどでも。あ、でもケガをさせるつもりは無かったポン。でもちょっとおどかすだけのつもりだったけど、その子気絶しちゃったポン。がんばってまた催眠術をかけて、家まで帰ってもらったんだポン」
そう言えば黒田君、気がついたら家で寝ていたって言ってたっけ。これで黒田君が体験したと言う、人食い自販機事件の謎が解けたわけだ。
だけどこのタヌキ、わざわざ親切に送ってくれたのか。石をぶつけてきた人間相手でも、ケガをさせないし放置もしないだなんて、やさしいんだなあ。あれ、でもちょっと待って。
「でもそれじゃあ、どうして今日、ぼく達までおどかしたの? ぼくは君に、意地悪なんてしてないと思うけど」
「もちろんアタシも知らないニャ」
「ボクだってそうだよ。と言う事は……」
ぼくもチョコも、マヨちゃんだって知らない。するとみんなの目が一点に……十勝君の方へと集まっていく。タヌキの声が聞こえない十勝君は、今までの話をちゃんとは理解できていないだろうけど、みんなから見られて何かを感じたみたいで、あわてたように声を上げる。
「な、何だよみんなして。オレが何したって言うんだよ?」
「十勝君、疑ってるわけじゃないけど……タヌキさんにちゃんとあやまろう」
「メチャクチャ疑ってるじゃねーか! つーかもう、真夜子の中では犯人って決まってるよな⁉ 言っとくけど、オレは本当に、悪い事なんて何もしてないからな!」
「ええーっ、でもー」
信じられないと言った様子のマヨちゃん。ぼくも何て言えばいいか分からずにこまっていたけど、今度はタヌキがあわてたように口を開いた。
「わー、ちがうポンちがうポン。その人からは何もされていないポン。今日みんなさんをおどかしたのは、コレが目的だったんだポン」
そう言ってタヌキが、どこからか取り出したそれは……百円玉?
「あっ、それってさっきオレが自販機に入れた百円か? 返せよな!」
差し出された百円を、すぐにとり返す十勝君。だけどお金が目的って。
「実はこの前化かした男の子が、五百円玉を置いていったんだポン。それで同じように上手く化かせて、もう少しお金をためる事が出来たら、ハンバーガー屋のセットメニューが食べれるって思って。つい出来心で、みんなさんを化かしてしまったんだポン」
「ハンバーガー⁉ 君、タヌキなのに、ハンバーガーなんて食べるの⁉」
「まだ食べた事は無いポン。だけど人間達が食べているのを見た事があって、一度でいいから食べてみたいって、ずっと思っていたポン。ああ、美味しそうなハンバーガー……」
うっとりとした目で、遠くを見つめるタヌキ。今にもヨダレがしたたり落ちそうなくらい、幸せそうな顔をしている。どうやらよほど、ハンバーガーを食べたかったのだろう。でもねえ。
「ねえ君、食べたがっているところ悪いんだけど、ハンバーガーは食べない方が良いんじゃないかなあ」
「どうしてポン? タヌキにだって、食べたいものはあるんだポン! タヌキの食に自由をくださいポーン!」
あお向けになって地面にたおれて、手足をバタバタさせてさけぶタヌキ。でも、こればかりはねえ……
「食べたい気持ちも分からないでもないけど。もし君がハンバーガーを食べたりしたらその時は……死んじゃうよ」
「……えっ?」
「「えっ?」」
バタバタともがいていたのをピタリと止めて、キョトンとした様子でぼくを見つめてくるタヌキ。マヨちゃんやチョコも、ぼくが言っている事が分からないようで、ポカンとしているし、十勝君も。
「何でハンバーガーなんて話になってるのかは知らねーけど。コイツ、食ったら死んじまうのか?」
「うん。だってハンバーガーには、タマネギが使われてるでしょ。犬やネコなんかは、タマネギを食べると中毒を起こして死んじゃうって、本で読んだ事あるもの。タヌキもイヌ科の動物だから、同じように死んじゃうはずだよ」
だから絶対に、食べない方が良いよ。
僕の話によほどショックを受けたのか、タヌキは目を見開いたまま固まってしまった。マヨちゃんのとなりではチョコも、「そうだったのかニャ。気をつけるニャ」なんて言っている。まあ、良かったじゃない、食べる前に分かって。
「君は運が良かったよ。もし知らずに食べていたら、死んじゃってたんだから。これにこりて、もう二度と人間には悪さしないって、約束してくれるよね?」
「はい、そうしますポン。もう悪さもしませんし、ハンバーガーを食べようとも思わないポン」
タヌキは反省したようだけど、ガックリとかたを落としていて、何だか少しかわいそうかも。今度タヌキでも食べられるご飯を用意して、差し入れでもしてあげようかな?
そんな事を考えていると、タヌキはさっき百円玉を取り出した時と同じように、今度はどこからともなく五百円玉を取り出した。
「これはこの前、その男の子からもらった五百円玉だポン。あ、最初からとろうとしてたわけじゃ無かったポン。ちょっとおどかすだけのつもりだったのに、気絶しちゃったからあわてて、それで返すのをわすれてしまったんだポン。本当だポン」
「うんうん、分かってるよ。タヌキさん、良い子だものね。それで、これを黒田君に返してほしいってたのみたいのかな?」
「そうです。ボクじゃふだんは言葉も通じませんし、また石を投げられるのも怖いので、どうかお願いします」
「うん、分かった。ちゃんと返しておくから、安心して」
マヨちゃんは笑顔で答えて、タヌキはとてもうれしそうに笑っている。
「どうやらこれで、一件落着ニャ」
一連のやり取りを見ながら、事件の終わりを告げるチョコ。ただ一人、やっぱり状況を上手く分かっていない十勝君だけが、「何がどうなってたんだ?」って、首をかしげている。
ゴメン。後でちゃんと、説明するからね。
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