コーラを買って

 一見すると、ふつうの自販機じはんき。少し変わった所があるとすれば、100円でジュースが買える、お手頃価格ってことかな?

 だけどそれだけ。ぼくにはこの自販機が、特別変な物には思えないけれど、どうやらチョコはちがうみたい。


「おかしいって、どう言うこと? やっぱり、つくも神なの?」


 ぼくはおそるおそる聞いてみたけど、チョコは「うーん」と言いながら首をかしげる。


「つくも神かどうかは分からないニャ。つくも神にしては気配けはいがちがうというか、何と言うか……」

「何だか、ハッキリしないね」

「アタシだって万能ばんのうじゃないニャ。もっとよく調べてみないと、何とも言えないニャ。って、言ってる間にマヨちゃんも十勝君も調べ始めてるけど、良いのかニャ?」

「えっ? 二人とも、何やってるの?」


 見ればマヨちゃんと十勝君は、すでに自販機じはんきのすぐ側に行って、おかしな所は無いか見たり、軽くたたいたりしていた。


「別におかしな所は無いみたいだな。あ、思いっきりけっ飛ばしたら、正体を表すかも」

「ダメだよそんな事したら。もしふつうの自販機じはんきだったらおこられるし、妖怪ようかいだったとしてもかわいそうだよ」


 過激かげきな事を言う十勝君と、止めようとするマヨちゃん。ぼくとチョコも、そんな二人の元にかけよって行く。


「二人とも、そんなに近づいて、あぶなくない?」

「ははっ、光太はこわがりだな。心配しなくても平気だって」


 十勝君はそう言いながら、ガンガンと自販機じはんきをたたいている。けど、本当に大丈夫かな? もしも妖怪ようかいだったら、今のでおこったりしていない?

 だけどあわてて様子を見たけど、自販機じはんきはウンともスンとも言わない。これだと、もしかして黒田君は本当に、ゆめでも見たんじゃないかって思えてくる。チョコの言うみょうな気配と言うのは気になるけど、ぼくはそんなもの感じないし、マヨちゃんも平気でベタベタさわっているのを見ると、たぶん何も感じてないのだと思う。


「特にあやしい所なんてないけど、どうする?」

「黒田君には、何もなかったって言っておこうか?」


 十勝君もマヨちゃんも、もう結論けつろんを出そうとしている。だけど、決めつけるにはまだ早い気がする。


「待ってよ二人とも。黒田君の言ってたことをよく思い出してみて。黒田君は買ったコーラを取り出そうとしたら、自販機じはんきの口がじてきたんだよね。だったら同じことをしてみないと、本当に何も無いか分からないんじゃないの?」

「うーん、そう言やそうだな。けど口の中はさっき調べてみたけど、何もされなかったぞ」

「でももしかしたら、飲み物を買うのが、食べられそうになる条件じょうけんになっているのかもしれないけど……」


 そこまで言って、ハッと気づいた。もしためめようと飲み物を買って、それで本当に食べられそうになっちゃったら、それってスゴくあぶなくないかな? だけど、そう思った時にはすでにおそし。


「よし、それじゃあコーラでも買って、たしめてみようぜ」


 案の定、十勝君がそんな事を言ってきた。


「待って。ごめん、さっきはああ言ったけど、もし本当に何か起きたらどうするの? やっぱり止めておいた方が良いんじゃないかな?」

「大丈夫だろ。大毅だってピンピンしてたんだし。食われそうになったってすぐに手をぬいたら平気じゃないのか」

「ボクも十勝君に賛成さんせい。その自販機じはんきが本当に悪いものだったら、放っておくのも危険きけんだしね」


 そうは言うけど、その危険きけんかもしれないものに自ら首を……いや、手を入れるのもどうかと思うけど。

 だけどいくら言っても、二人のやる気はおさまらない。チョコはチョコでじっとぼくを見上げながら、なぐさめるように一言。


「仕方ないニャ。人生上手く行くことばかりじゃないニャ」


 うん、チョコの言葉で、ぼくもあきらめがついたよ。けど何かあった時のために、対策たいさくだけはバッチリ立てておこう。


「それじゃあ、もし飲み物を取り出そうとした一人が食べられそうになったら、その時は残りの二人が後ろから引っぱって、助け出す。それで良い?」


 そう言うと、マヨちゃんも十勝君もすなおにうなずいてくれて、ホッとした。ぼくが心配性しんぱいしょうなだけかもしれないけど、それでも二人とも、もうちょっと危機感ききかん持とうよ。


「それじゃあ、何を買おうか? ボクはオレンジジュースが良い」

「マヨちゃん、飲みたいものを飲むよりも、なるべく状況じょうきょう再現さいげんした方がよくない? 黒田君はコーラを買ったって言ってたから、コーラが良いんじゃないの?」

「分かった、コウくんはコーラが飲みたいんだね」

「だから、そう言う話じゃなくてね。そもそもぼくは、炭酸たんさん苦手だし」


 あのシュワシュワした感じが、どうしても好きになれないんだよね。まだ小学校に上がる前に飲んで、したへの刺激しげきにビックリしたのを覚えている。以来ずっと、飲めていないのだ。


「なんだ、コーラも飲めないのか? 仕方ないなあ、それじゃあオレが買ってやるよ」


 十勝君はそう言って、ポケットから百円玉を取り出した。もっとも買うだけなら、ぼくがやっても良いんだけどね。とは言えやっぱりちょっとこわいから、ここはすなおに十勝君にまかせることにする。


 百円玉を自販機じはんきに入れ、コーラのボタンをおす十勝君。ガコンという音がして、足下の取り出し口が、少しふるえた。


「とりあえず、ちゃんと買えはしたみたいだね」

問題もんだいはここからだよ。十勝君、何かあったらすぐに言ってね」

「平気平気。ふつうにコーラを取り出すだけだろ」


 そう言って、取り出し口へと手をのばしていく。ぼくは緊張きんちょうしてツバを飲んだけど、十勝君は何も心配していないみたいで。ためらう事無く自販機じはんきの中に手を入れると、コーラをつかんだ。


「なんて事ねーな。やっぱり大毅のやつ、ゆめでも……うわっ!」


 その瞬間しゅんかん、大きな声を上げるとともに、十勝君の顔色が変わった。

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