チョコが感じた、おかしな気配

 全ての授業じゅぎょうが終わって、放課後。朝からふっていた雨は上がっていて、雲の切れ間から日の光が差している。

 ぼくはマヨちゃんや十勝君といっしょに、たたんだカサを手に持ちながら、黒田君から聞いた、例の人食い自販機じはんきがあると言う場所へと向かっていた。


「人食い自販機じはんきねえ、そんな物が本当にあるのかニャ? もしかしたら新手のつくも神なのかもしれないニャ」

「つくも神って、古くなった物にたましいが宿って化ける妖怪ようかいの事だよね。カサのお化けや、動く人形とか」

「そうニャ。でも自動販売機じどうはんばいきのつくも神は初耳ニャ。もし本当に人間を食べちゃうのならスゴいニャ。面白そうだニャ」

「チョコったら……笑い事じゃないのに」


 ぼくの横をトコトコ歩いているのは、黒ネコのチョコ。朝霧あさぎり小学校の主を名乗るネコマタで、学校を出ようとしたところ、たまたま会ったのだ。

 で、どこに行くのか聞かれてたから、人食い自販機じはんきの話をしたんだけど、興味きょうみを持ったみたいでこうして着いてきているのだ。


「チョコは妖怪ようかいにくわしいから、たよりになるよね」


 仲間がふえて、楽しそうな様子のマヨちゃん。一方十勝君はというと。


「こんなネコを連れていって、本当に役にたつのか? あ、でももしおそわれたら、おとりになら使えるかもな」


 こんなことを言っている。おとりにされるなんて言われたチョコは、もちろんイヤそうな顔をして、毛を逆立さかだてて、「ニャンだとー!」って言っておこっている。

 もっとも、十勝君にはチョコの声は「ニャー」としか聞こえていないのだろうし、二つに別れたシッポも見えていないのだろうから。チョコが妖怪ようかいと言われてもピンとこないのだろう。

 けどおとりにするのは、ちょっとかわいそう。大丈夫だいじょうぶだよチョコ、ぼくとマヨちゃんが、そんなことはさせないから。

 そんなことを考えていると、マヨちゃんがふと、チョコにたずねる。


「ねえチョコ、もし本当につくも神だとして、どうして黒田君に見えたんだと思う? 黒田君、普段ふだんは見えたりしないんだよ」

「それは元々ふつうに見えている物が、妖怪化ようかいかしたものだからニャ。その場合は元のすがたとして、人の目にはうつるニャ。アタシもシッポは見えないし声も聞こえないけど、十勝君にもふつうのネコとしてなら見えるのはそのためニャ」

「そうなんだ。そうだよね、もしつくも神になったとたんに、目の前から消えちゃったら、ビックリするものね」

「そしてそう言うヤツほど、妖怪ようかいとしてのすがたも力も、人に見せ易いんだニャ。タヌキやキツネが人を化かせるのも、そう言うことなんだニャ」


 なるほど。たしかにタヌキに泥団子どろだんごを食べさせられたり、キツネに化かされて、有りもしないまぼろしを見るという話は、昔話でよく聞くや。あれ、でもちょっと待って。


「ねえ、それだとチョコも十勝君に、シッポを見せたり声を聞かせたりすることもできるってならない?」

「もちろんできるニャ」


 あっさりとそう言われた。だけど、チョコは続けて言ってくる。


「やろうと思えばできるんだニャ。だけどそれには、結構けっこう力を使うからつかれるんだニャ。アタシはそこまでして、十勝君と話せなくてもいいから、そうしないだけなんだニャ」


 ああ、そうなんだ。力を使うとか、どれくらいつかれるかはよく分からないけど、見せ物みたいにホイホイやるものではないと言うのは分かった。

 ただこの事は、十勝君にはナイショにしておいた方がいいだろう。もし知ったら、だったらしゃべってみろとか言い出して、またケンカになっちゃう気がするからね。仲間外れはよくないけれど、世の中にはベラベラしゃべらない方が良いことだってあるのだ。


「お前ら、さっきから何の話をしてるんだ?」


 チョコの声が聞こえず、何を話していたか分からない十勝君が、不思議そうに聞いてきて、ぼく達はあわててごまかす。


「何でもないよ、ねえマヨちゃん」

「うん。それより、例の自販機じはんきがあるのって、まだ先なの? ボクこの辺にはあんまり来たことないから、分からないや」


 先月転校してきたばかりのマヨちゃんは、まだこの町の地理に明るくないのだ。学校を出る前にぼくも大体の場所は十勝君から聞いていたけど、たしかもうすぐだったはず。


「あわてるなって、もうちょっとで着くからよ。ええと、たしか小さな路地に入った所って言ってたなあ」


 ぼくたちが今歩いているのは、商店街から少しはなれた場所にある、人通りの少ない場所。屋根の低い建物がポツポツあって、後は畑が広がっているけれど、自販機じはんきを置くにしてはちょっとさみしげな場所の気がする。本当にこの近くにあるのかなあ?


 ぼく達は、普段ふだんは気にとめないような小さな道にも目を向けて、自販機じはんきをさがしていく。そして何回かそうしているうちにマヨちゃんが。


「あっ、もしかしてアレじゃないの?」

「おっ、どれだどれだ?」


 せまい路地を進んだ先に、それはあった。

 どう考えても人通りが少なく、利用者がいるのかと思うようなさみしい道の中に、全身を茶色くペイントされたその自販機じはんきは、ポツンと置かれていたんだ。


 本当にこれが、黒田君の言っていた人食い自販機じはんきなのかなあ? 色はめずらしい気もするけど、遠目で見る分にはふつうの自販機じはんきだと思うけど……


「何だか、おかしな気配がするニャ」


 自販機じはんきをじっと見つめながらぼくの感想を打ち消すようなことをチョコがつぶやいた。

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