人食い自販機を調べに行こう

 黒田君に行くと言った後、自分の席へともどって行く十勝君。だけどその前に、席を立ったぼくとマヨちゃんは、十勝君へと声をかけた。


「十勝君、良いの? あんな事言っちゃって」

「なんだ光太、話聞いてたのか。別に良いだろ、どうせウソか勘違かんちがいなんだろうし。本当にお化けなんて、いるわけないって」


 全く信じた様子のない十勝君。だけどこれに対しマヨちゃんは、ほっぺたをふくらませて、おこり出す。


「十勝君、信じてないの? この前、ボクやコウくんが見えるってこと、分かってくれたんじゃなかったの?」

「え、いや……それとこれとは別だ。お前らはたしかに見えるかもしれねーけどさ、大毅だいきが見えるなんて話、聞いたこと無いからよ」


 十勝君はそう言うけど、そう簡単かんたんに決めつけて良いものかどうか。たしかに黒田君は普段ふだん、見えたりはしないみたい。

 だけどね。だからと言って、人食い自販機じはんきの話が何かの間ちがいだと決めつけるのは、やっぱり早い思うんだ。


「十勝君、ふつうは見えない人でも、何かのきっかけで見えることはあるんだよ」

「そうだよ。だいたい十勝君だって、この前かれ木に花がさくのを見たじゃない」

「………………あっ」


『しまった』と言わんばかりの表情ひょうじょうで、固まってしまう十勝君。どうやら本当に、わすれていたみたいだ。


「で、でもよう。それでもまだ本当に、お化けや幽霊ゆうれい仕業しわざだって、決まったわけじゃないんだよな?」

「まあね。やっぱり勘違かんちがいっていう方が、可能性かのうせいは高いと思う」

「だろ」

「でも、絶対ぜったいとは言えないよ。ねえ、もし本当に人食い自販機じはんきが実在したら、どうするつもりなの?」

「どうするって、そりゃ……」


 言葉につまって、何も言わなくなってしまう。さっきまでは完全に信じていなかったのだから、ノープランなのも無理は無い。

 少し前までの十勝君だったら、それでも笑い飛ばしていただろうけど、木のせいのおじいさんを見て、普段ふだん見えてるモノだけが全てじゃないと知った以上、やっぱり少しは心配なようで、どうしようかとまよっている様子。

 ぼくとしては行かない方が良いんじゃないかなって思うけど、十勝君のことだから、一度行くと言った手前、そう簡単かんたんには引っこまないような気がするんだよね。

 どうすればいいか、しばらく考えていると、となりで同じように頭をひねっていたマヨちゃんが、何か思いついたように、ポンと手をたたいた。


「よし、それじゃあボクもいっしょに、その人食い自販機じはんきの所に行ってみるよ」

「えっ、本当か真夜子⁉」

「うん。もしも本当だったら、一人で行くのは危ないからね。いっしょに行って、危険きけんは無いかどうかたしかめたら、安心じゃないかなあ?」

「ああ、真夜子がそう言ってくれるなら心強いな。もちろん、オレ一人でだって別に平気なんだけど」


 マヨちゃんの提案ていあんに、うれしそうに笑う十勝君。本当は人食い自販機じはんきの事をこわがっていたからうれしいのか、それともマヨちゃんといっしょにお出かけできるからよろこんでいるのかは、よく分からないけど、まあどっちでもいいか。

 十勝君の言った通り、マヨちゃんがいっしょならきっと安心だろうから。そう思っていると。


「そうだ、コウ君もいっしょに行かない?」

「えっ、ぼくも?」


 今度はぼくがビックリする番だった。行くって、ぼくも? 人食い自販機じはんきの所へ?

 さっきも思ったけど、やっぱり危険きけんかもしれない所には、近づかないに方が良い。いつものぼくなら、絶対ぜったいに行こうとしないだろう。するとそんなぼくの様子に気付いたのか、十勝君が口を開いた。


「なあ真夜子。光太は別に、連れて行かなくても良いんじゃないのか?」

「ええー? だってコウ君、ボクと同じで、不思議な物が見えるんだよ。もし本当に何かあったら、たよりになると思わない?」


 たよりになる。マヨちゃんのその言葉が、耳に残る。そんな風に言われたのは、初めてだったから。だけど十勝君は、やはり気が進まない様子。

「けどよう。あぶないかもしれないなら、やっぱり無理に連れて行かない方が良いんじゃないか? もしも光太が自販機じはんきに食われちまったら、真夜子だっていやだろ?」

「うっ、それは……」

「もし自販機に足が生えて追いかけてきても、オレやお前だけならにげられるかもしれねーけど、光太は走るのもおそいぜ。もしにげられなかったらどうするんだよ。光太、お前もやっぱり、行きたくないよな?」

「ええと。うーん……」


 聞かれてぼくは、うでを組んで考えた。十勝君の言ったように、自販機じはんきに足が生えて追いかけてくるとは思わないけど、何が起きるかは分からない。もしかしたらぼくが行くことで、二人の足を引っぱらないかが心配。だけど……


 さっきマヨちゃんが言ってくれた、『たよりになる』と言う言葉が頭をよぎる。本当にぼくが頼りになるかどうかはともかく、そんな風に言ってもらったんだ。なのにここでことわるのは、とてもずかしく思えてならない。役に立つかどうかは分からないけど、ここで引いちゃいけないって気がする。

 そう思ったぼくは、マヨちゃんに向き直って、決心して答を言う。


「やっぱり、ぼくも行くよ。大勢おおぜいで行った方が、安全かもしれないしね」

「本当、コウ君⁉」


 パアッと、明るい顔になるマヨちゃん。反対に十勝君は、あわてたようにぼくに言ってくる。


「おい、本当に良いのか? 追いかけられたらどうするんだよ?」

「その時は……つかまらないようにガンバルよ」

「それでももしにげられなくて、自販機じはんきに食われそうになった時は? 言っとくけどオレも真夜子も、必ず助けられるわけじゃねーぞ」

「うん、分かってる。もしそうなったら、ぼくの事は気にしないで良いから。二人は自分の事だけを考えてよ」


 もちろんぼくだって、食べられるなんていやだけど。足を引っぱるのはもっといやだから。するとそんなぼくの話を聞いて、マヨちゃんがうれしそうに声を上げる。


「あはは、コウ君はやさしいねえ。だけど安心して。もし何かあっても、ボクがちゃんと助けるから」

「えっ? いや、ぼくは二人には、にげてもらいたいんだけど」

「そんな事できるわけ無いじゃない。大丈夫だいじょうぶだよ、一本じゃ簡単かんたんに折れちゃう矢も、三本重ねたら折れないって、ボクのおばあちゃんが言ってたよ。力を合わせたら、何とかなるって」


 にこやかに笑みをうかべるマヨちゃん。三本の矢の話はおばあちゃんが本家ではなく、戦国武将せんごくぶしょう毛利元就もうりもとなりの言葉なのだけど、今それを言うのはヤボだろう。

 いざとなったらにげてほしいと言うぼくの願いは、残念ながら伝わっていないけど、まあ仕方が無いか。もしもの時が起きないよう、注意すればいい、かな? やっぱりちょっと不安だけど。


「コウ君、そんな心配そうな顔しないでよ。いざとなったら、十勝君だって助けてくれるに決まってるから」

「えっ? お、おう。当り前じゃねーか」


 そう言って、かたを組んでくる十勝君。

 さっきは助けるとはかぎらないって言っていたけど、やさしい所もあるんだなあ。思いがけないやさしい言葉に、むねが少し熱くなってきた。

 けど……なんだろう? 回された手の指がかたへと食いこんでいて、イタいよ十勝君。すると今度はそっと耳元に顔を近づけてきて、ボソボソとささやきき始めた。


「お前何やってるんだよ? せっかくオレが、真夜子と二人で出かけるチャンスだったのに」

「ええっ、そんなこと考えてたの⁉」


 どうやら十勝君は途中とちゅうから、人食い自販機じはんきをエサに、デートを楽しむつもりだったらしい。なるほど、さっきぼくが行くことに反対していたのは、心配してたんじゃなくて邪魔じゃまをされたくなかったからなんだね。

 だけどぼくがそんな事に全く気付かずに、行くなんて言っちゃったものだから、計画は台無し。顔は笑っているけど、目は全然笑ってなくて。ちょっとこわい。ゴメンね十勝君、気が回らなくて。


 一方ぼく以上に、分かっていないのはマヨちゃん。十勝君が青筋あおすじを立てている事にも気づかずに、楽しそうに笑っている。


「うんうん、なんだかんだ言って、十勝君も良いところあるじゃない。仲良いね、二人とも」

「ま、まあな」

「う、うん」


 一度はやっぱり行くのを止めようかと思ったけど、こんなにうれしそうなマヨちゃんを見ると、とてもそんな事は言えなくて。そしてどうやらそれは十勝君も同じだったみたいで、それ以上は何も言ってこなかった。


 かくしてぼく達は三人で、人食い自販機じはんきの所に行くことが決まった。

 これで全てが黒田君の勘違かんちがいで、何事も無ければ話は簡単かんたんなのに。だけど何だか、いやな予感がするんだよね。こういう時の予感って結構けっこう当たるから、やっぱり不安だよ。


 やがてチャイムが鳴って、次の授業じゅぎょうが始まったけど、ぼくはなかなか授業じゅぎょうに集中する事が出来なかった。十勝君やマヨちゃんも気になっているのか、先生に当てられても、正しく答えられなかったりしてたけど……あ、これはいつもの事か。

 そんなわけで、人食い自販機じはんきの事でいっぱいになった頭をどうにか動かしながら、今はただ大人しく授業じゅぎょうを受けていくのであった。

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