人食い自販機のうわさ

 十勝君とマヨちゃんの宿題は、何とか先生が来るまでに終わって、二人は無事に出すことができた。

 そうして朝のホームルームが終わって、一時間目の授業が終わって休み時間になった時。クラスの何人かが、大きな声で何やら話をし始めた。


「本当にあったんだって、人食い自販機じはんきが!」

「人食い自動販機じはんき? なんだよそれ」

「人を食っちまう化け物みたいなジュースの自動販売機じどうはんばいきだよ。オレ、あやうく死ぬところだったんだからな!」


 みんなの中心で声を上げているのは、黒田くろだ大毅だいき君。よく十勝君達といっしょに遊んでいる男子で、たまにぼくをからかって来たりするから、少し苦手なタイプ。

 昨日はカゼでも引いたのか休んでいたけど、あの様子を見ると、もう元気になったみたいだ。それはそうと、なんだかみょうな事を言っているみたいだけど。

 ぼくは読んでいた『動物との付き合い方』の本を閉じて、黒田君の方を見る。


「人を食う自販機って、そんなものどこにあるんだよ?」


 真っ先に聞いているのは十勝君。ぼくは本を読みながら、耳だけそっとかたむける。黒田君の話に、少し興味があるから。

 ぼくはふつうの人が見えないモノが、当たり前のように見ることができる。そのせいでおかしなヤツだとか、ウソつきよばわりさせることも多くて、見えることがいやだったけど。こんな風にだれかが、なにかを見た言う話を聞くと、つい気になってしまうんだよね。ちょっと前までは、自分でもその理由は分からなかったけど、たぶん同じものを見ることができる仲間を求めていたのかもって、最近思うようになってきた。そんな風に思う理由は、やっぱり……


「へぇー、人食い自販機じはんきかあ、ボク初めて聞いたよ。コウくんは?」

「うーん、ぼくも聞いたことないなあ……って、マヨちゃん?」


 いったいいつからそこにいたのか? マヨちゃんはぼくのすぐとなりに来ていて、ワクワクとした表情で、目をキラキラさせていた。


「マヨちゃんもこういう話に興味きょうみあるの?」

「うん。もしかしたらボクと同じように、見える子がいるかもしれないって思うと、うれしくならない?」

「……ちょっとだけ」


 分かる気がする。マヨちゃんもそういうものが見えるって知った時、うれしいって思ったから。

 同じものを見ることができる仲間がいるって、実はとても素敵すてきな事なんだって、今なら言えるよ。


 ただ、黒田君とは前から話をすることはあったけど、お化けや幽霊ゆうれいが見えるといった話は聞いたことがない。それどころか、見えると言ったぼくを、ウソつきだった言ってきたこともあるから、きっと黒田君は見える人では無いのだろう。

 でも今の話を聞くと、何だか怖い体験をしたみたいな事を言ってるけど、どう言うことだろう?

 ぼくはマヨちゃんといっしょに、黒田君の話に耳を傾ける。そして何人かの男子が周りに集って、黒田君はとくい気に話し始めた。


「一昨日のことだ。学校か終わって、家に帰る途中とちゅう、急にノドがかわいてきたんだ。急いで帰って水を飲めばよかったんだけどさ、その時ちょうど、飲み物の自販機じはんきを見かけたんだ」

「あ、読めたぞ。大方そいつが、人食い自販機じはんきだったんだな。どうだ、図星だろ?」


 十勝君が得意気な顔をして、話を遮る。一方黒田君は、まだ話の途中なのに口をはさまれたからか、不満気な顔をした。


「そうなんだけどさ、話は最後まで聞けって。その自販機があったのは、人通りの少ない路地に、ぽつんと置いてあったんだ。自販機ってふつうなら、もっと人目につく所にあるのによ。けどノドがかわいて仕方がなかったからそれどころじゃなくて。オレはすぐさま自販機の前まで行って、五百円玉を入れて、コーラを買おうとしたんだ……」


 声のトーンを下げて、こわさを出そうとしている黒田君。たけど、それを聞いているぼく達はと言うと。


「ねえねえ、コウくんだったら、何を買う?」

「うーん、コーヒーかな?」

「えっ、コーヒーなんて苦そうなのに、飲めるんだ。大人だねー」


 せっかくの演出えんしゅつもむなしく、自分なら何を買うかを話していた。あ、もちろん黒田君の話も、ちゃんと聞いてはいるけどね。

 するとまたも話の途中とちゅうで、十勝君が質問をしだした。


「で、それからどうなった? お金を入れたは良いけど、五百円玉だけ飲みまれて、コーラが買えなかったってオチか?」

「バカ、それだと金食い自販機じはんきになっちまうだろ。コーラはちゃんと出てきた……と思う。けどそれを取ろうとして、自販機じはんきの口に手を入れた瞬間しゅんかんのことだ。 ものスゴい力で、自販機じはんきの口がかみついてきて、入れてた手がぬけなくなっちまったんだよ」


 中に入れた手がぬけなくなったねえ。

 ぼくはふと、イタリアのローマにあると言う、『真実の口』の事を思い出した。人の顔の形をした彫刻ちょうこくで、その口の中にウソつきが手を入れたら、かみつかれるという話があったっけ。

 黒田君が経験したのも、それとたようなものなのかな?


「いくら力を入れてもぬけなくてよ。それどころかオレの体がどんどん、自販機の中に吸い込まれ出したんだよ。うでかた、頭って、のみまれていって、最後はとうとう、全身をその自販機じはんきに食われちまったんだと」


 息をあらくして、声をふるう黒田君。だけどそんな真剣にしゃべればしゃべるほど、周りのみんなはクスクス笑っている。特に十勝君は、全く遠慮えんりょをせずに、大きな笑い声をあげていた。


「お前、何バカなこと言ってるんだよ? 食われたんなら、今 ここにいるお前はいったい何なんだ?」

「そこがオレにも分からないんだ。オレ、たしかに自販機じはんきに喰われたはずなんだけどよ。気がついた時には、家のベッドでていたんだよ」


 バツの悪そうな声で答える黒田君。すると今度は、話を聞いていた子達みんなが笑いだした。


「そりゃ絶対ぜったいゆめでも見たんだって」

「そんなことねーよ! オレもゆめかもしれないとは思ったけど、それにしちゃハッキリ覚えてるし。サイフを見たら、自販機じはんきに入れたら五百円が失くなっていたんだぜ」

記憶きおくちがいなんじゃねーの? それかどこかで落としたか」

「ちがうって。しかも、それから熱が出てきたし。きっと自販機じはんきのろいだよ」

「それで昨日は休んでたのか。けど、一昨日は雨ふってたからな。雨にぬれて、ふつうにカゼ引いたんじゃねーの?」


 一向に信じようとしない十勝君。これには黒田君も不満気な様子。

 そしてぼくやマヨちゃんはと言うと、顔を見合わせて、本当かどうかを考えている。ぼく達はお化けや幽霊ゆうれいが実在するって知ってはいるけど、十勝君の言うように、ただのゆめの可能性も十分にあるからねえ。


「だったら、お前行ってたしかめてみろよ。そしたらオレが言ってる事が、ウソじゃないって分かるだろ」

「ははっ、面白いな。それじゃあ行ってやろうじゃないか」


 笑いながら言う十勝君。でもちょっと待って、もしも黒田君の話が本当だったら、それってあぶなくないかな?

 隣を見ると、マヨちゃんも同じことを思っているのか、顔をしかめている。だけどそんなぼく達の心配をよそに話は進んでいって、十勝君は自販機じはんきのある場所を聞いている。


「いいか、絶対ぜったいに行けよ! 絶対ぜったいだからな!」

「分かってるって。今日の放課後、たしかめてやるよ」


 高々に言い放つ十勝君。けど、話を聞いていたぼくは、妙な胸騒むなさわぎを覚えた。

 十勝君は、黒田君の話なんて全く信じていないみたいだけど、本当にウソか勘違かんちがいなのかなあ? 幽霊ゆうれい妖怪ようかいが、当たり前のようにいる事をよく知っている身としては、決して安心は出来なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます