全知を求める簒奪の求道者 其の三

 SIDE:赤月陽菜


『畏気』それは【女帝】ことUnknown Copy γと【教皇】ことUnknown Copy δの持つ能力を劣化複合した物であり、その効果は自身に敵対する物への重力の強化。仮にも帝や皇の名を背負う者に対して刃を向けるのであれば相応の覚悟を持てと言う事らしい。突発的な重力増加は攻撃のテンポを狂わせ、全員が地に伏せる形となった。でも、もう次は通用しない。何故なら我らが【覇王】が立ち上がったから。【覇王】の持つ【王権能力レガリア】の一つである『軍勢強化』は【覇王】と其の袂に集いし軍勢に相互に作用し力を強める。何が言いたいのかと言えば『軍勢強化』の庇護下にある者が受けた攻撃に対して僅かに耐性が発生するのだ。それは数が多ければ多い程に力を強めるが、【覇王】本人が克服したのであれば部下が答えられない道理はない。もうこちらに『畏気』は効果を発さない。


『カカカカカ! モウ耐性ヲ得タカ。ソウデナクテハナ』


【魔王】ラブマシーンは余裕そうに嗤っている。


「どうした。これで終わりか? 【魔王】」


『カカカカカ! 霊術ガ使エナイ状態デ随分ト強気ダナ【覇王】』


「それならもう問題はない」


『ホウ?』


 大神さんから莫大な霊力が湧き出る。この状態ではまだ霊術として形状を定めていないから『限・否定されし叡智の塔』に阻害されることは無い。


「解放」


 大神さんを中心に全方位へ莫大な霊力の波が解き放たれる。そしてガラスが割れる様な音が響き渡ると辺りに展開されていた『限・否定されし叡智の塔』が解除された。『限・否定されし叡智の塔』はあくまでも【愚者】の能力の劣化版。『賢者』を持たずとも、発動者が生きていても、過剰な霊力の放出に耐えられないのだ。だから無差別に霊力のをばら撒けば解除できる。……最もそれが出来るだけの莫大な霊力があればこその話だけどね。

 兎も角『限・否定されし叡智の塔』は破られ、私達はまた自由に霊術を使えるようになった。漸く私も参戦出来そうだ。【魔術師】との戦場に《生霊召喚》で召喚した私の生霊を置いてこっちの戦場に来てみたは良いけど鈴木さんぶっ倒れてるし、霊術魔法使えないしでどうした物かと思ってたけどこれでどうにかなりそうだ。


「火生土為して土生金、金生水より水生木、終に至りて木生火。されど相成巡りて廻る。無窮の流転の仮の果て、我が身が保つ限界点、辿り着きしは土生金。

 幾たびの流転の果てにて成せ! 《相成環金アンリミテッドバレッド》!」


『ム?』


 穿て。


『チィッ!』


 ラブマシーンが背負う黒鍵を一つ抜き放った。黒鍵は青い板に変じてそこに白い矢印が描かれる。


『『一方通行』』


 私の放った《相成環金アンリミテッドバレッド》が空中で完全停止した。あれは正しく道路交通標識の『一方通行』だ。


「ざけんな!」


「今だ射かけろ!」


 私の霊術魔法で攻撃している間に大神さん達は退避出来た様でラブマシーンに向かって遠距離攻撃が無数に浴び去られる。霊術、法術、魔術、聖術、矢も手裏剣も一緒くたになって飛来する。


『キシシ!』


 嗤った。何がそんなにおかしいのか。

 一方通行が形を変える。三角の赤い板に白の止まれの文字。


『『一時停止』』


 ふざけている。ラブマシーンがそう発しただけで何もかもがピタリと止まった。


『簒奪魔術ガ第一階梯 《収集コレクト》』


 空中で停止していた物達が物質、非物質問わず全て消えた。これが簒奪魔術か。


『簒奪魔術ガ第二階梯 《放出リリース》』


 消えた攻撃達が全て現れる。その矛先を全てこちらに向けて。


『解放』


 飛来する飛び道具の群れ。どうにか防ぐが如何せん数が多すぎる。しかも飛ばした物の中で地面に突き刺さった物を《収集コレクト》でまた回収して打ち出してくる。これじゃあキリが無い。どうする? 


「日輪霊術が第一階梯 《光環コロナ》」


 私達の間を暖かい光が駆け抜ける。味方には傷一つなくラブマシーンからの攻撃だけが焼き尽くされていた。これが【覇王】霊術。敵のみを焼き尽くし大勢を護る力。


「漸く術を使う気になったか」


『今マデガ歯ゴタエガ無サ過ギタカラナ』


 十二神将を三人も倒しておいてよく言う。


「そちらが本気にならないならそれでいい。さっさとケリをつけるとしよう」


 戦場の各所で光の柱が発生した。その数六本。位置からして今ここに居ない十二神将達だ。


『《神天昇華》カ』


 神将と天将の力をその身に宿す十二神将の奥義が発動した。


『良カロウ。ナラバコチラモ答エネバナ!』


 ラブマシーンが背に浮かべる鍵束から使用済みの灰鍵を五本全て抜き出してそれぞれの手に構える。空いた手には道路交通標識。何をする気? 


『惑エ。『交通迷宮』』


 五つの灰鍵と道路交通標識が輝いて無数の標識が辺りに展開される。


『サア、ココマデ来テミルガイイ』


 何を!? 気付いた。ラブマシーンとの距離は直線ではほとんど開いていない。だが、周囲に揺蕩う道路交通標識の全てが示す通りの力を発揮しているのだとしたら……! 


 辿り着けない。『指定方向外進行禁止』の標識で進路が制限され、『歩行者専用』の標識によって徒歩を強制される。『上り急こう配あり』で法則を無視して見えない坂を上らされる。あと少しに見えれば『通行止め』が立ち塞がる。可哀想なのはタンクなんかの重装備の人達だ。『重量制限』によって装備を落としていくか迂回しないと進めない。『最高速度』の所為で走れもしないし、『横風注意』の突風に吹き飛ばされる。正しく迷宮。目に見えない法則だけに囚われる最悪の迷宮。彼我の差が何処までも遠い。誰か、誰か。この状況を何とかして。届かず、抗えず、敵を眼前に歩き続けるなんて心が折れてしまう。誰か……


「日輪霊術が第二階梯……」


 誰かは居た。


「《紅炎プロミネンス》」


 私達の王として彼は居た。立ち塞がる無数の標識を莫大な熱量で融解すると言う余りにも強引な手段で消し飛ばした。


「そんな物か? その程度で俺達の前に立ち塞がると言うのかお前は?」


『キシシシシ! 愉快、愉快ダゾ【覇王】! 我ガ宿命ノ敵ヨ! コノ程度デアルモノカ! 互イノ魂ノ何レカガ消エユクマデトクト争オウデハ無イカ!』


 道路交通標識が灰鍵となり、六本の腕それぞれに握っていた灰鍵ごと塵と消えた。灰鍵は黒鍵の力を増幅する機能があったのだろう。


『サア、死合ウゾ! !』


 いつの間にかラブマシーンの手には六つの武器が握られている。紅く燃える剣、身の丈程もある大斧、青く輝く槍、黄色い宝珠がはめ込まれた杖、漆黒のガントレット、白い煙を纏う刀。どれもこれもが一級品の武器。三面六臂の全てが戦う為に動き出した。


一騎当億ビリオン・スローター


 それは奇しくも一撃で億の敵を屠った【覇王】と億人の能力を身に宿す【魔王】との対峙。


『焼キ尽クセ。『久遠灼』』


 灼熱の閃光が第2ラウンドの幕開けを告げた。


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【TIPS】

特殊能力スキル

 万人が持ちうる可能性のある異能力。非常に数が多く種類も多岐に渡る。【特殊能力スキル】から生じた現象は基本的に術と言う判定を持たない為、術が効かない相手などに有効。【技術】項目の《生産》ツリーなどの物と名称が重複している物もある。但しそう言った【特殊能力スキル】はその項目に対する乗算効果を持つ物なので地力が弱ければ効果も弱い。弛まぬ努力をする者にこそ【特殊能力スキル】はその恩恵を授ける。

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