意味


「まず今空位である九人の十二神将について説明しよう」


【十二神将・子】増殖、複製に特化した神将。【恩寵能力ギフテッド】『斬り断つ大太刀』を得る。

【十二神将・丑】防御、耐久に特化した神将。【恩寵能力ギフテッド】『凍て響く大笛』を得る。

【十二神将・卯】速度、跳躍に特化した神将。【恩寵能力ギフテッド】『輝き満ちる大杵』を得る。

【十二神将・辰】特化項目無し、万能型神将。【恩寵能力ギフテッド】『蘇り癒す掛け軸』を得る。

【十二神将・巳】妨害、不意打ちに特化した神将。【恩寵能力ギフテッド】『清め封ず水瓶』を得る。

【十二神将・午】持続、体力に特化した神将。【恩寵能力ギフテッド】『疾く駆ける団扇』を得る。

【十二神将・申】挑発、逃走に特化した神将。【恩寵能力ギフテッド】『囃し賑やかす三楽器』を得る。

【十二神将・酉】飛行、遠距離攻撃に特化した神将。【恩寵能力ギフテッド】『煙り燃ゆる煙管』を得る。

【十二神将・亥】突撃、追撃に特化した神将。【恩寵能力ギフテッド】『爆ぜ散る尺玉』を得る。


「以上が空位の神将の概要だ。詳細はこの資料に纏めてあるので確認してくれ」


大神の部下に配られた資料を読み込み、誰が最も相応しいか、又は自分はどの神将に適性があるのかを各々が熟考し、多くの意見が交わされた。


そして多くの神将が確定した。


【十二神将・子】雑賀妙斗、レア属性《糸》保有者、通り名“二十四刀流の変態”

【十二神将・丑】冴木護、レア属性《堅》保有者

【十二神将・寅】衣良図劔、メトロ九傑、固有属性《喰》保有者、通り名“悪食勇者”

【十二神将・卯】羽山稲葉、レア属性保有者

【十二神将・辰】佐藤恵一郎、クラン【諸国行脚】クランリーダー、通り名“良心の恵一郎”

【十二神将・巳】

【十二神将・午】早瀬俊、固有属性《走》保有者

【十二神将・未】間藤源治、メトロ九傑、固有属性《幻》保有者

【十二神将・申】澤ヶ谷京香、固有属性《騒》保有者

【十二神将・酉】

【十二神将・戌】伊武九郎、メトロ九傑、固有属性《身体》保有者、通り名“素手ウェポンマスター”

【十二神将・亥】猪鹿蒙戸、称号【最速突撃者】保有者


「今決まっていないのは巳と酉の二つだ。巳に関しては鈴木、お前に任せたいと考えているのだがどうだ?」


「………」


「鈴木?」


「ん?…ああ、大神さん。悪いがこの話、断ってもいいか?」


「…理由を聞いてもいいか?」


「ああ。別に大層な理由があるってわけじゃ無い。ただ今回この作戦に参加してみて思ったんだが、やっぱり俺は集団行動に向いて無ぇんだ。出来ないって訳じゃ無い。ただ自分の好きにやるのが性に合ってる。こんなくだらん理由でこんな重要な役回りを蹴るってのがどういうことなのかはよくわかってる。それでも俺は…」


「いや、いい。これはお前が選択するべきことだ。我々が強制することでは無い。だが、お前が俺の下についてくれない事はとても残念だ」


「国家認定冒険者としての役割はこれからも果たさせて貰うよ。今はそれで勘弁してもらえませんかね?」


「…了解した。それでは巳と酉の神将を再度選定するとしよう」


〜1時間後〜


「本日の会議は以上だ。みな明日に備えてしっかりと休んでくれ」


「「「「「「「はい!」」」」」」」


【眷属】の選定や多くの決め事が行われた会議は漸く終わりを見せた。神との遭遇によって己が属性が変質した者の発生や、依り代としての能力向上などの明日の戦いに向けて大いに役立つ発見も為され、とても有意義な時間となった。


決戦は明日の午後十二時十七分、そこで俺たちと【魔王】ラブマシーンの最終決戦が行われる。

怯える者、勇む者、眠れぬ者、祈る者、誰もが何かに必死になり生きて帰ろうと精一杯に足掻いている。予測は出来ない、彼我の戦力差はそれぞれが抱える【魔王】【覇王】【眷属】【神】ら超常の存在によって大きく狂っている。これでは先の見立てなど立つ筈もない。精一杯に足掻き今を生きんとする彼等を天上の神は如何なる想いで見詰めるのか、それは決して分からない。




〜翌朝〜


目が覚めた。


身体に異常は無く、霊力も完全に回復している。これならば今日の戦いに支障をきたす事は無いだろう。

そう思いながら仮説されたテントの外に出てみれば其処には既に多くの冒険者達が屯していた。自分達の手に人類の存亡がかかっていると思えば眠りも浅くなるだろう。だが、多くの冒険者達は怯えや恐怖がありながらその口は弧を描いていた。

あの平和な時代に生きた中で冒険者なんてものを志した連中だ。英雄願望の一つや二つは誰もが持ち合わせている。数少ない例外があるとすればそれは元から多少の慣れを持っていた元自衛隊なんかの人達か、それとも──


「おはようございます」


「ん?赤月か。お前もこの作戦に参加してたんだな」


「当然です。あれだけの報酬が有れば出ない訳にもいきません。…それがまさかこんな事にならとは思いませんでしたけど」


──こいつのように金目当てでやっている奴等だ。


「どうする?今からでも値上げ交渉に行くか?」


「まさか。私は初めの報酬で満足してます。それに、お金だけが全てじゃ無いですしね」


「そうか」


こいつは変わった…のだろう。別に付き合いが長い訳じゃ無いから確信は持てない。それでも俺が初めて会った時に比べたら“覚悟”とでも言うべきものが出来た気がする。


「鈴木さん気にしてます?昨日のこと」


「わかるか?」


「そんな暗い顔してたら誰だってわかります」


そうか、顔出るレベルで気に病んでたのか。


「断った身でなんだがやっぱり俺は十二神将に入るべきだったんだと思うんだよ」


「それは何故?」


「自惚れかもしれねぇけど俺の力は特別だ。固有属性の中でも異質な部類だろう。唯々消滅に特化している。それが神将の力で強化されたのならそれは大きな力となっただろうに」


それを俺は自分の我がままで断った。


「別にいいと思いますよ。人間結局誰しも自分が一番なんですから。大神さんが言ってた様に鈴木さんが自分の意思で選ぶべきことです。それを周囲の重圧や責任感でねじ曲げたってどうせ上手く行きっこありません」


「でもよ…」


「それに。そんな理由は私も一緒です」


「あ?」


「鈴木さんはあの話を断ってすぐ考え込んでた様なので聞いてなかったかもしれませんけど私も十二神将に誘われてたんですよ」


「は?いやまて、誘われてた・・ってことはまさかお前も…」


「はい。十二神将・酉を断りました」


「ばっ、おまっ!何でだよ。十二神将となれば待遇も相当なもんだぞ!断る理由ないだろ!」


「それ断った鈴木さんがいいます?」


ごもっともな指摘で


「理由は単純で私も組織に縛られるのは苦手なんです。世界が変わる前はいろんな職場を転々として、馴染めなくてすぐ辞めて。だからいつもお金に困ってたんです」


「だったら尚更…」


「でも今はお金以外にも冒険者をやる理由が出来たんです。それの為には一つの場所に縛られる訳にはいかない」


「新しい理由?」


「私、絵を描きたいんです。世界中のダンジョンの絵を」


「絵?」


「私の霊術魔法は描いた絵がそのまま力になります。理由はよく分からないですけど私の魔法は絵に意味がある。そうして昔みたいに絵を描く様になったんです。そしたら昔絵を教えてくれた友達と再開して…」


そこで語られたのは赤月の昔話だった。ありきたりで平凡な何処にでもある様な人生の話。だが、そんなありふれた話でもその人生を生きる者にとってはかけがえの無い特別な物語だ。本人にとってだけ特別なこの物語は無関係の他人に広めて回る様なことではない。


「…だから、私決めたんです。この戦いが終わったら世界中のダンジョンに潜ってその絵を描こうって」


「そうか、そいつはいい目標だな」


「はい。話がだいぶ逸れてしまいましたけど私が言いたいことは一つです」



『やりたい様に生きろ』



「これは私が鈴木さんから学んだことで、その本人に返す様な事ではない気がしますけど、今の鈴木さんに言うべきことはこの一言に尽きると思うんです」


「………」


「鈴木さん?」


「わりぃ、ちょっと気が動転してな」


俺は特に大層な目的があって冒険者をやってる訳じゃない。偶々特別な力があって、それを行使する舞台があって、その才覚があった。始めた理由は浪漫、次の目的は栄光、英雄願望から来た他の奴らと何も変わらない。ただ、その有象無象の中でも特出した才があっただけだ。大神さんの様に国を守る覚悟なんて無い、赤月の様に未来への目的なんて無い、自由気ままに戦ってきた。時折ふと思い返して何をやってるんだろうと思う。

俺のやる事に意味はあるのか?俺の意思に魂はあるか?俺の人生に意義はあったか?

漠然とした不安感を抱えて、それを忘れる為に敵を倒した。そうしている時だけは自分のなす事に確かな意味を感じられたから。


だが、今赤月は言ってくれた。これは俺から学んだ事だと。意味も意義も意思も碌に持たないと思っていた俺から感じとる物があったと。他者からしたらちっぽけで、どうでもいい様な事かもしれないが、俺にとってたった今俺の人生は肯定された。

それがどうしようもなく嬉しくて、こんな程度で感動する自分が情けなくて、でもそれ以上に嬉しくて俺は二の句をつげなかった。


「ありがとうな赤月」


「なんですか藪から棒に」


「いや、こっちの話だ。でもありがとう。おかげですっきりしたわ」


「よくわかりませんがそれなら良かったです」


気合を入れる為に頬を強く叩く


「おし、もう大丈夫だ。そんじゃ行くか!」


「はい、朝食を食べたら作戦本部にゴーですよ!」


ようやく俺は目的が生まれた。




────────────────────

【TIPS】

十二神将などの【眷属】は自身の【眷属】は自身の恩寵能力に由来した何かしらの道具を能力の発言と同時に入手する。

多くの場合それは己の能力を高める祭具の様な物だが、ある一定の条件を満たした時、それは神を宿したる眷属神の神器に至る。

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