眷属


「先ずは【眷属】の概要から説明しよう」


そもそも眷属とは何か、どの様な力を持っているのかを知らなくては話が進まない。


「【眷属】とは、【覇王】ないしは【魔王】と契約を行いいくつかのデメリットを負う替わりに絶大な力を得る存在だ。ある力はステータスの恒常補正に加えて固有能力の獲得など様々だ。【眷属】が多ければ多い程【覇王】や【魔王】への補正を大きなものとなる。そこで、今現在空いている俺の【眷属】を決めたいと思っている。何か意見、異議はあるか?」


「先ずそのデメリットを教えてもらってもいいですか?」


質問したのはこの場では珍しい女性冒険者の一人だ


「当然の疑問だろう。では、【眷属】のデメリットについてだが、これはメリットに対しては大分小さい。メリットデメリットを上げるとこんなところだ」


・一つ、【眷属】は『所属国家変更クエスト』への挑戦権を失う。


・二つ、【眷属】は自らの契約者へのあらゆる背任やそれに準ずる行為を行えない。


・三つ、【眷属】が死亡若しくは何かしらの事情で欠落した場合、一年の間は再認定出来ない。


・四つ、【眷属】は己が契約者の有する能力の一部を先鋭化した固有の能力【恩寵能力ギフテッド】を得る


・五つ、【眷属】は己が契約者の命を守らねばならない


「ステータスの補正などの細々した物を除けば大まかにはこの五つだ。質問が有れば受け付ける」




Q.【眷属】は自由に辞められますか?

A.辞めるには辞められるが死亡した時と同じ期間再任命出来ないので遠慮して貰いたい


Q.『所属国家変更クエスト』って何ですか?

A.名前の通り所属する国家を変更する何かなのだろうが詳細は我々もまだ掴んでいない


Q.【加護能力ギフト】と【恩寵能力ギフテッド】の違いって何?

A. 【加護能力ギフト】の人間が与えるバージョンが【恩寵能力ギフテッド】と考えてくれていい。違いは【神格】などの有無だな。


多くの質問が出され、それに対する答えが返された。これによって漸く【眷属】がどういったものなのかの共通認識が確立された。


「では、次に日本国特有の【眷属】メリット《神天昇華》について説明する。

先程はなあなあになってしまったが、前提としてこの中に十二神将と十二天将の違いについて理解している者はいるか?」


まばらに手が上がるが大多数が理解していない様だ。


「長くなるので大幅に端折るが、まず十二神将とは仏教における薬師如来及びその信者を守護する十二柱の武神だ。

次に十二天将とはかの安倍晴明などの陰陽師達にとって必須であった占術、六壬神課で使用する象徴体系の一つのことだ」


本来これらは全くの別物であり、何の関係もない物だ。だが


「だが、そこにいる馬鹿神天照大御神はこともあろうに他宗教のこれらを混同した挙句に一纏めに扱った。更には何故か十二神将の武神達がこれを許した。その果てに生まれたのが《神天昇華》だ。

対象にと言うあまりにも馬鹿げた術式だ」


それはつまりその【眷属】に武神の力と占術における象徴体系という余りにもあやふやな力を与えると言うこと。これにより何が起きるかなど想像も出来ない。


「世界一馬鹿げた矛盾だらけの特別術式、それが《神天昇華》だ」


説明が終われば場は重苦しい雰囲気に包まれた。しかし、自分達が頼りとする切り札の力があまりにも不明瞭極まりなければ仕方ないとも言える。


「最後に今現在日本国の【眷属】となっている者を紹介して終わろう」


大神がそういうと立ち上がる三人の人影


「衣良図劔ダ。寅ノ【十二神将】デアル。我ガ神ハタケミカヅチデアル」


「どうもどうもぉ!【十二神将・未】が間藤源治と申します。どうぞよしなにぃ!」


「戌の【十二神将】こと伊武九郎と言います。よろしく」


はじめに自己紹介した男の声はビックリするくらい聞き取り辛かった。


次の男の話し方はあまりにも胡散臭くなんとも信用がおけない。


最後の男は話しているのにその焦点は何処か虚空を見つめており心此処にあらずといった具合である。


何というかこう、濃い。


「あれ?確かもう一人居ませんでしたか?文字化けして読めませんでしたけど」


「そう、そのことについて諸君に紹介しておかなければならない人物が居る」


すると大神の背後の空間がジワッと滲んでそこから人が出てきた。


「うおっ!?」「うわっ!?」「なんだ?」


そこに現れたのは一人の男、あまりにも印象的な現れ方をしたというのにどうにも存在が希薄で暫くすれば顔も覚えていなさそうな不思議な男だった。


「みなさん、はじめまして。十二神将番外、【不支神将・猫】こと浦野楽士と申します」


「へえ、何か居るのは気付いていたけどまさか君みたいのが居るとは思わなかったですね」


そう口にしたのは須佐之男命その神である。


「私は大神様の影としてあるので神々の前と言えど易々と姿を表す訳にはいけませんでした。申し訳ありません」


「いや、いい気にするな。顔を見れたのなら十分だ」


「それでは皆さま、また後ほど」


浦野楽士はペコリと頭を下げると出てきた時と同じ様に空間に滲んで溶けて消えてしまった。


「今のが十二神将、その中でも番外の男。我が国の切り札だ」


「何でまだ十二神将の全員が埋まってないので番外なんてのが居るんですか?」


「それはおいおい話すとしよう。先ずは空席の十二神将を埋めることが先決だ。立候補でも推薦でも構わない。我々は今すぐにでも十二神将を埋めなければならない。その為の話し合いを開始する」





後の世の歴史において『神将会議』と呼ばれる話し合いが始まる。


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【TIPS】

【眷属】にはその全ての【王】の配下に番外や裏とされる存在せざる筈の者達が居る。彼らは本来その【王】より受けられる恩恵が他に比べて少なく、一度死ねば永遠に空席のままとかなり不可思議な立ち位置である。だが、その特別性には確かな意味があり、一度のみの【眷属】に足る特別な力を持ち【王】の影にて力を発揮する。

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