4章:第一次人魔大戦

スタンバイフェイズ


「戻ったか。調査結果の報告を頼む」


「はっ!先程行われた【大戦レギオンレイド】の告知よりこちら人類側あちら魔物側を二分する様に発生した結界に現在行使可能な凡ゆる霊術、法術、聖術等を試しましたがヒビの一つも入らず完全に無効化されていると思われます。また、結界の向こう側に術を現出させる能力も全て無効化され、空間転移系統の能力も全て失敗しました。

そして、各種行動を起こす度にシステムウィンドウが出現し、【大戦レギオンレイド】開始までのタイマーが表示されます」


「成る程、物理的な破壊は不可能か」


「だから言ってるでしょ、あれは世界の境界線だって。あれを壊したいならせめて【破界皇デストロイヤー】でも連れてこなきゃ無理だよ」


「【破界皇デストロイヤー】?」


「今の君たちには関係ないからそれはいいの!兎も角あれを壊すのは無理。スサノオ君とかが本気出せば別だけど僕たち神格達は世界を壊すレベルの攻撃を禁止されて無理だね」


「ふむ、了解した。ではラブマシーンの様子はどうだ?」


「【大戦レギオンレイド】の通知が起きた瞬間から黒い繭に包まれたまま、今のところ変化は無く偽者達の動きもありません」


「成る程。…わかった休んでいいぞご苦労だった」


「はっ!」


報告役が出ていくのを見届けながら大神は急造された作戦本部の中にて集いし面々を見渡し話し始める。


「まず状況確認だ。本来我々の作戦では【無限進化AI ラブマシーン】に対して《天神降臨》によって現界した神々の協力の基に倒すつもりでいた。だが、何処ぞの馬鹿天照大御神によって俺が【覇王】とやらに選定され、それに呼応する様に敵が【魔王】と言うものに進化した。そして【大戦レギオンレイド】の発生、…システムアナウンスを信じるならば発生条件は【覇王】と【魔王ラブマシーン】が同一領域ダンジョンに存在することと見られる。ここまではいいな」


大神の問いかけにそれぞれが肯く。


「ここからが問題だ。まず【大戦レギオンレイド】のアナウンスと共に【越境黄金門ゲート・オブ・バビロン】が強制的に閉ざされた。外部との連絡は可能だが追加の人員を送り込むことが不可能になったわけだ。つまり我々は今ここにいる非戦闘員を含めた総勢六百十七人で【魔王】に打ち勝たねばならない。

負けることも逃げることも許されない。何故ならば【大戦レギオンレイド】の報酬として記載された魔物限定報酬である終焉の宴エンドレススタンピートまでのタイムリミットを10年減少をなんとしてでも止めねばならないからだ」


そう、そこがこの戦いのネックだ。敵は強大であり、普通であれば出来る限りの情報を収集して然るのちに万全を機して挑むものだと言うのに今回はぶっつけ本番で失敗も許されないと来ている。


「泣き言はいらん。そんな物をき聞いても事態は好転しない。だから俺がお前達に求めるのはただ一つ。どんな物でも良い、現状の打開に繋がる何かだ」


こうして会議は始まり様々な意見が取り沙汰される。


「大規模戦闘となるとバフデバフは必須だろ?バフは兎も角デバフはどうするよ?流石に億単位にデバフ掛けるのは無理だぞ」

「乱戦になったら勝ち目は薄いよね。どうにか初撃で大ダメージを狙わないと」

「神様って能力制限あるらしいけどギリギリはどのくらいだ?」

「非戦闘職の神職者達で何か出来ひんか?《天神降臨》よろしく《儀式霊術》みたいの」

「わしらはそれなりに長くパーティを組んじょるが流石にこの人数を纏めるのは無理じゃい」

「こっちの最高戦力って【覇王】と【眷属】だろ?【眷属】に枠残ってたし増やせんの?」

「そもそも物質は何がどのくらいあんのよ?」

「広域殲滅に特化した霊術持ちいたりしませんかね?」

「こっち側の防衛拠点も築くからそっちにも人員を回してくれ」

「あれ?さっき魔法少女さん居なかった?」

「ぶっちゃけ【覇王】と【眷属】ってどの位強いんだ?」


「落ち着けお前たち」


喧喧囂囂としてきたメンバーを落ち着かせるため大神が一旦の取りまとめをする。


「まず、最優先事項と言える【覇王】と【眷属】について説明しよう。

【覇王】とはその国に一人、その国最大の信仰を集めた神により選び出される存在だ。任命は神が直接行う必要があり、今回の《天神降臨》によってそれが成されたと言うわけだ。

肝心の能力についてだが、【覇王】となった段階で俺は【王権能力レガリア】と言うものを獲得した。

王権能力レガリア】は【覇王】【魔王】問わずなったら時点で獲得する物のようだ。同時に複数の能力を獲得した。共通能力と思われる『眷属任命』や、俺固有と思われる『日輪之王権』だな」


そう言って大神は最近霊力の技術転用により生み出されたホログラムにステータスを転写する。


────────────────────

王権能力レガリア

『眷属任命』『軍勢強化』『十二神将』『日輪之王権』

────────────────────


「『眷属任命』は読んで字の如く【眷属】を選ぶ能力だ。【眷属】認定にも一定の条件があったりと面倒ではあるが後程【眷属】の際に残った枠の任命も済ませる。

『軍勢強化』これは指揮系統の能力だな。見方が多ければ多い程に指揮高揚や身体能力強化系のバフが付与される。今回の敵では気休めにしかならんだろうがな。

そして、ここからが本題だ。『十二神将』は俺の【眷属】の総称をそのまま冠する能力で、簡単に言えば俺は【十二神将】の持つ霊術や能力を劣化版で扱うことができる。更に緊急時には指定した【十二神将】の召喚なども行える。要は【眷属】が多ければ多い程特殊性と万能性を獲得出来る能力だ」


他者の能力を劣化版とは言え行使可能、確かにそれは強力な力だが、それだけでは足りない。


「最後に『日輪之王権』だ。これは複数の能力を束ねた複合能力の様だから箇条書きにして説明する」


・『日輪之王権』保有者は【日輪】の権能が関わるあらゆる霊力消費が零となる。

・『日輪之王権』保有者の持つ【逸話能力ミソロジー】は関わるあらゆる権能により極限まで強化される。

・『日輪之王権』の保有者は太陽の元にある限り莫大なステータス補正を受け、その【眷属】及び配下にも補正が掛かる。(※補正量は【覇王】>【眷属】>配下の順で減少する)

・『日輪之王権』保有者は特殊項目【神紋】を獲得する。

・『日輪之王権』保有者及びその【眷属】の過半数が同一領域に存在する場合にのみ《神天昇華》が使用可能となる。


「他にも付属の細々とした能力が幾らでもあるが重要なのはこの五つだ」


「大神さん。幾つか質問いいか?」


「いいぞ」


「んじゃ遠慮なく。まず【日輪】の権能ってのは何だ?」


「権能とは神々が行使する超常の力のことだ。【日輪】は太陽の関わるあらゆる概念に寄与する。つまりは少しでも太陽の関わる能力で有れば俺は一切の霊力消費が発生しない」


「そりゃまたとんでもない力だな。後は【神紋】と《神天昇華》について聞きたいんだが」


「【神紋】は【神格】の上位版だ。【神格】同様に一画毎に絶大な力を発揮する。効果内容は無限」


「無限?」


「文字通りの万能だ。その一画に込められたリソースに収まるので有れば恒常的ステータス補正だろうが【神器】級の武器の作成だろうが死者蘇生だろうが何でも出来る。更には複数画消費する事で出力上限も上がる」


「成る程。当然デメリットもあるんだろ?」


「ああ。【神格】が一日に一画回復するのに対して【神紋】は一画回復するのにひと月掛かる。だが、これだけの力の割にはデメリットが軽すぎる。故にまだ何か隠されていると見ている」


「その辺りをオモイカネ様にお伺いしたいのですが、何かご存知ではないでしょうか?」


大神の背後にいた研究者らしき男が訪ねる。


「ごめんね〜。どうもそう言った超重要機密に関しては一度でも発動しない限り僕達【知神】にすら開示されないっぽいんだよね〜。まあ、逆説的に何か隠されてるのは証明されてるけど」


「そうですか…」


「なんとか力になれるように色々やってはみてるんだけど手応えなーし!他の【知神】も軒並みダウンしてるみたいだからどーにも………お?」


「どうした?」


「閃いた!」


「なによオモイ」


「知神議決開廷!」


《知神議決をが開催されました。》

《議題No.3 『ヘルプシステム』実装の可否の議決を開始します。》

《【常世思金神オモイカネ】可》

《【知恵女神アテナ】棄権》

《【授叡天使ガブリエル】棄権》

《【学問知神サラスヴァティ】棄権》

《【知略悪魔バアル】棄権》

《【極智天使フォラス】棄権》

《【博識悪魔アガレス】棄権》

《【知識大神オーディン】棄権》

《【叡智人王ソロモン】棄権》


《半数以上の可を確認しました。》

《『ヘルプシステム』を実装します。》


《ワールドアナウンス》

《ヘルプシステムが稼働しました》

《詳細はステータス左上の『!』をご確認ください》


「…あー、オモイカネ今のは?」


「へへーん!今は僕以外の【知神】が情報過多でダウンしてるから可否の人数を問わない知神議決は幾らでも好きなように出来るんだよ!と、言うわけで全人類に簡易的な情報アクセスシステムをインストールしたよ!これからはアイテムの簡易情報や状態異常の詳細なんかが見れるからどんどん活用してね!」


「お、おう。ありがとよ」


「さて、オモイカネ様による思いがけない力を得たところでそろそろ話の本題を進めるとしよう。」




【眷属】についてだ。


────────────────────

【TIPS】

常世思金神オモイカネは知神の中でも知恵の神として生まれたというより知恵の神格化によって神になるという肉より先に概念が在ったが故に、知恵の身体を肉で覆っている状態に近く、その本質は正に虚無である。故に彼の神は本質的に器としての性質が高く、世界の情報のもう半分という人には決して推し量ることすら叶わない情報の海に晒されてなお、気を失わずに呑み込むことが出来たのである。

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